(13)17時 マミちゃんが言わなかった事
ミフユは家にバゲットだけでも買って帰りたいと言って二人でパン屋さんに戻るとバゲットを買った。
「冬ちゃん、クロワッサンもいけるよ。私もおうち用に買おうかなあ。お父さんが好きなんだ」
マミはそういってトングでクロワッサンを3個トレイに入れた。
ミフユとマミはJRのプラットフォームに上がると島式のホームに西陽が差し込んでいた。ミフユは結局バゲットを3本買った。クロワッサンも魅力的だったけど嵩張るので今回は諦めた。
「クロワッサン、受験の帰りにまた買いに来ますから」
「固定客が増えるのはおっちゃんもおばちゃんも歓迎やから二人とも合格祈ってるからね」
バゲットを買った時、お店の人にそんな事を言ってもらえていた。また買いに来たいな、とミフユは思った。
マミは西宮に帰るのでミフユと電車の方向は逆だった。電光掲示板を見上げるとどうやら三宮方面行きが先に来るらしい。二人はホーム西端の方に移動した。
「マミちゃん、今日は一緒できて良かった。受験頑張ろうね」
「こちらこそ。そうだ、冬ちゃん。受験でこちら来る時はうちに泊まってよ。うち、お父さんも帰りが遅いから追い込み勉強にも良いよ。私も冬ちゃんがいてくれたら遅刻とか心配しないで良いし」
「えー。迷惑じゃない?」
「全然。考えておいてね」
「わかった。じゃあ、この件はまたメッセするから」
駅の構内放送が列車の到着を告げた。ホームに電車が入って来てドアが開くとまばらに人が降りた。
「じゃあ、次は試験の前の日かな」
「もう少し早く来なよ。うちは融通効くから」
ミフユは電車に乗り込みながら頭をよぎった事を振り払うとマミの方へ振り返った。
「りょーかい。前向きに検討するね!」
「何よ、それ」
笑いながら手を振り合うとドアが閉まった。電車が動き始めるとあっという間にプラットホームとマミが見えなくなり六甲山の山並みとその手前に広がる街並みに変わった。
ミフユは電車のドアの車窓から六甲の山並みを眺めながら今日偶然友達となったマミのことを考えていた。電車はすぐ隣の駅のプラットホームへと進入して急減速した。ドアのそばを離れて奥の方へ移動した。