(10)16時 遥かなるパン屋さん
正門を出て高速道路高架下の大幹線道路を隔てる緑樹帯に沿った歩道を歩きながら「お腹空いたね!」とミフユ。マミが笑顔で答える。
「15分ぐらい歩けばパン屋さん。頑張って、冬ちゃん」
「わかった。マミちゃん。その言葉を信じて頑張るから」
そんな事を言い合いながら陽が少し西に傾いてもなお蒸す晴天の歩道を歩いて行く。
工事中の阪神電鉄駅の踏切を越えて狭い歩道をマミが先頭で一列縦隊で歩いて行く。300メートルぐらい先に大きな赤い鳥居が道路を跨いでいるのが見える。スーパーや雑居ビルがあって人が多いところを抜けると歩道を歩いている人は少し減った。
国道に出ると横断歩道を渡って右折。先導するマミは元気に歩いて行く。ミフユは朝が早かったのでちょっと元気はなかったけど、そういう時に「美味しいパン屋さん!」と思う事で足取りは再び軽やかにって、まあ、すぐ元に戻るんだけどね。
先を歩くマミがミフユの方へ振り返った。
「ここを曲がったらもう少しだから。ラストスパートだよ、冬ちゃん!JRの線路の手前の角にあるお店だから」
「えー、マミちゃん、そんなのある?わかんないよ」
山の方へ、JRの線路の方へと少し坂道になっている歩道を歩いて行くと「OPEN」と看板を出した知らなかったら通り過ごしそうな小さな窓、木製の趣あるドアが取り付けられた建物の前に二人で立った。
「ここが私と、お気に入りのパン屋さん。さ、入ろ」
「言われなかったらパン屋さんって分かんないよねえ」
あっけにとられているミフユの手を引いてマミはお店のドアを開けて中へ入った。お店の中はバゲットやクロワッサン、調理パンからタルト、クッキーなどのお菓子までこの店で焼かれたパンやお菓子がたっぷり並んでいた。