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ピーマンとトマトとオリーブオイル

作者: 森崎

ある日、ピーマンとトマトが冷蔵庫の野菜室で言い合いをしていた。何やら世界平和について意見をしているらしい。


「世界のピーマン嫌いなこどもたちがこれを克服しない限り世界平和は訪れないんだ。」とピーマンは言う。

それを聞いたトマトは、「でも、お前みたいに苦いやつを好き好んで食べるこどもなんて出てくるわけがないんだ。」と攻めた発言をする。

するとピーマンは怒りだす。ただ、トマトも負けていない。この攻防はとても熱いものとなっている。さっきから冷蔵庫の中なのに全然ひんやりしていないのは彼らのせいであろう。


ことの発端は昨夜だ。店で買われた彼らは自分たちの理想について語り合っていた。そうすると、「世界平和」がお互いの理想であることがわかり、話はかなり盛り上がった。そして今日、盛り上がっていた話はだんだんと愚痴へと変わっていき、今ではそれがお互いを傷つけあうだけのものと化している。


しばらくすると、突然、野菜室に光が差した。

野菜室からトマトとピーマンが取り出され、調理され始めた。

彼らはそれに気づいていない。まだ言い合いに夢中になっている。

冷蔵庫から出され、部屋の空気の方が彼を冷やし、少し冷静にさせたのか、トマトは「そもそも君が世界平和についてどうこう意見しているのが間違っている。」と、少し客観的な意見を出してきた。

それに対してピーマンはすぐに「いいや、君の意見の方が間違っている。」と反論をしていく。

「例えば君はイタリア料理とかでちやほやされているだろ?でも、アフリカのサバンナで君がいろんな人に食べられてる想像はつかない。それが地域差ってやつさ。同じように平和についても地域差があると思うんだ。お互いの殺し合いのない一週間が過ごせただけで平和に思うところもあれば、50年以上のんびり暮らして初めて平和を感じるところもあるのさ。どちらがいいとは言えないけどさ、みんなそんなことを感じながら生きてるんだ。なら、僕たちも少しは考えなきゃいけなかっただろ?」

トマトはいきなりの言葉とその内容に驚きを隠せない。

我に返ってトマトはピーマンに聞く。

「なら君はさっき『世界のピーマン嫌いなこどもたちがこれを克服しない限り世界平和は訪れないんだ。』なんて言ってたけど、『地域差』ってやつがあるなら君が思うようにみんながみんなピーマン好きにはならないじゃないか。」

それを少し笑いながらピーマンは続ける。

「君の言うとおりだ。ただ、僕は世界平和がどれだけ難しいことかっていうのを君に知ってほしかったんだ。世界のみんなが僕を好きになるくらい難しいことなんだってね。」




まな板の上にちょこんと切られた2種類の野菜が乗っている。

フライパンの上では少量のサラダ油が熱され、焼く準備が整った。


野菜がフライパンに入れられた。


油と水が跳ねる音が聞こえる。


野菜に少しずつ焼き目がついていく。


香りづけのためにかなりの量のオリーブオイルがかけられる。



トマトはピーマンに言った。「君のおかげでいろいろ知ることができたよ。君と僕とは違う。今オリーブオイルがかけられたけど、それをうれしく感じたり、うれしく思わなかったりするだろう。この後、僕らが見栄えのいい料理に出来上がっても、本当に僕たちの関係までがよいかは見ただけではわからないはず。そう、だよね?」


「ああ、そうさ。見栄え以上の関係だってことにはきっと作ってるやつにはわからないだろうな。」ピーマンは笑う。


「君たちは楽しそうだね。何の話をしていたんだい?」と、オリーブオイルがいきなり問いかけてきた。


「世界平和の話さ。もうかなり話したさ。」トマトは答えた。


「世界平和か。」

少し考えてから、

「私はその言葉がなくなればいいと思っているんだ。言葉がなくなるとき。それは現実と遠い存在となってしまったとき。そしてもう1つは、現実であたりまえな存在になったときだと思うんだ。私はもちろん後者として、その言葉がなくなることを祈っているんだ。」とトマトとピーマンに言った。


ピーマンは「君の考えをもっと聞かせてくれよ。」と食いついた。トマトも同じように興味を持ってオリーブオイルの話を聞こうとする。

すると彼はゆっくりと話し出し、ピーマンとトマトもゆっくりと聞いた。


昨日の彼らより味の深みが増していることは知らずに。

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