二兎を得るには
「……つまり話を纏めると、母様は娘に、里に伝わるお宝と交換に手に入れた刀を、何の説明もなしに譲渡した、と」
「あー、まぁそういうことになる、かな……?」
緋竜の試練への道すがら、俺はイブキさんにされた話をそのままコトノハに伝えたのだが、
「まったく母様ったら、本当にやってくれるわねぇ……」
そのせいで笑顔で激昂する金狐に戦慄する羽目になった。ただでさえ寒い場所なのに勘弁して欲しい。
というかもしかして、コトノハに直接伝えずに俺を介したのはこうなることを予期したからなのでは?
もしそうであるなら俺は俺で君の父様にキレたい。
「シキさんの事だから、悪気は無かったと思う」
リシアが取り成すように言う。
「ただ単に、至宝との交換で刀を貰ったこと、忘れてたんじゃないかな」
「いやそれはそれでダメでしょ……いろんな意味で」
クロエの突っ込みに同意しかない。
「はぁ……折角いいものを貰ったと思ったら、実際には面倒を押し付けられただけで、即座に手放さなきゃいけないなんて……」
『まぁまぁコトノハさん、宝珠は宝珠で有用でしょうし、そんなに悲観することもないのでは?』
「何か釈然としないのだけど……」
『しかしレストさん。このどちらかしか手に入らない感じ、二者択一の限定アイテムって感じしません?』
「わかる」
コトノハのぼやきに対してイロハと俺が下らない事を漏らすと、
「え? 宝珠を取り戻せばいいだけなんだから、刀を返す必要なくない?」
クロエが簡単なことじゃないと言わんばかりの口調で返し、
「クロエ、緋竜族相手に盗みは、相当リスキーだと思う」
それに対してリシアが窃盗と決めつけて嗜める。
「ちょっとリシア! 何でそうなるのよ!!」
「クロエちゃんが鎮守の森に入った件のせいじゃない?」
「ん、前科がある」
「そんな昔のことは忘れたわ」
「おい」
未遂だったし酌量の余地はあれど反省の色が全くないのもどうなんだ……。
「それはさておき、元々アタシたちは緋竜からお礼を貰えるって話だったじゃない?」
「あ、そうか。褒美を取らすみたいなこと言ってたから、頼めば普通にくれそうではあるな」
刀との交換という話が先入観としてあったせいで、返却が前提という思考に囚われていたらしい。
「まぁその件は後にしましょうか。どうやら試練の場所についたみたいだし」
「多分あれよね? なにか妙な形の建物だけど」
言われて前方に目を凝らす。
え、いやあれってどう見ても……。
「気象観測所……?」
白っぽい研究所然とした外観。屋上に設置されたレドームらしき球体。
そもそもこんな標高の高い場所に建てる物なんてそれくらいなものだ。
『変ですね……ここに観測所が設置されているなんて情報、アーカイブのどこにも見当たらないんですが』
「存在を秘匿されてた? なら普通の施設ではないってことになるが」
『ナノデュプリケーターが存在する以上、文明崩壊後に建てられたという可能性も一応ありますが……』
「……まぁ行けばわかるか」
建物の入り口前に立つ。と、自動で扉が開き照明が前方を照らす。
『施設として生きてますね……』
「さーて何が出てくるやら」
警戒しながら施設内の通路を進む。
すると程なくして行き止まりに当たる。
「……今まで脇道なんて無かったわよね?」
「ん、間違いなく一本道だった」
「試練らしきものも見当たらないが、まさか隠し通路を探せとか言わないよな……?」
そんな疑念を口にした瞬間、
『緋竜の試練に臨みし者よ、力を欲するならば、我が問い掛けに嘘偽りなく応えよ』
目の前の壁からモニターがせり出し、どこからともなく声が辺りに響く。
本来であれば、すわ何事と驚く場面なのだろうが──しかし、俺はそのせいで完全に緊張の糸が切れてしまった。何故なら、
『あの、レストさん……』
「……」
『なんというか、これって──』
「よせイロハ」
「あ! これって確かテーマパークだったかしら? そこにあるアトラクションってのにそっくりじゃない?」
イロハの代わりにコトノハがぶっちゃけてしまった。
「ポンコツがコトノハにまで余計な知識を与えるから……」
『謂われなき中傷! というか仮にコトノハさんが言わずともクロエさん辺りが同じこと言ってましたよ絶対!』
「……」
言い返さないところを見るに図星なのだろう。
俺たちのそんな弛緩した空気に構わず、声は続ける。
『では最初の問いだ』




