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金狐の至宝

「……こないわよ?」

「ん、舐められてるっぽい。けど油断しないで」

「侮ってくれるのは正直ありがたいがな」


 そんなやり取りをしていると、余裕のある足取りで魔獣がこちらに向かってくる。


『魔術を消してくるくらいですから、もっとトリッキーな感じの見た目をした魔獣を想定してたんですが……』

「まぁ解釈違い感があるのはわかる」

 

 のそりのそりとこちらへ歩いてくるそれは──身の丈10メートルはありそうな巨大な熊だった。


「しかしこれまたでかいなぁ……」

「緋竜よりは、小さい」


 いやそらそうだけども。


「その緋竜がついてきてくれたら楽が出来たってのに」

「緋竜の試練を受けるのに緋竜の手を借りるという発想は無かった」

「それ以前に緋竜族って寒い場所だとまともに活動出来ないのよねぇ」

「なぁイロハ……」

『えぇ、まぁ緋竜ってほぼほぼ爬虫類ですからね。そういうことです』


 要するに変温動物故に、ということだろう。緋竜、色々掛け合わされてはいても、本質的にはでかい蜥蜴でしかないのでは……?

 しかしこれを踏まえると元の世界の常識が全く通じないって訳でもないんだよなぁ。リシアたちの気質なんかは割とイメージそのまま(特にクロエなんかは猫の気ままさが良く表れているように思う)だし。

 やはり都度確認するしかないらしい。


「それにしてもこいつ、ここら一帯の魔力を完全に支配してるのに、それで何かする様子がないのは逆に気味が悪いわね」

「多分、支配下に置くこと自体が目的。それに手一杯だから、魔術の行使までは無理なんだと思う」

「魔術を使えないのはお互い様ってことか」

『まぁ向こうは魔術が使えなくても困らないでしょうけどね……』


 見るからにパワー系だしな……力による真っ向勝負がお望みってことなのだろう。

 さて、この状況でどう戦うか……。

 と、そこで俺はイロハが魔術を消すフィールドを使ったときのことを思い出す。

 もしあの魔獣があれと同様の原理で魔術を消しているのであれば。


 俺はリシアの成長した姿を思い浮かべる。すると、


「ん、これなら魔術がなくても戦える」

「レスト、アタシにも!」

「はいはい」


 二人に成体化を施し、自身は腕と脚を変化させる。

 やはり秘儀由来の魔術であればこの状況でも問題なく使えるようだ。

 さて、これでリシアとクロエ、そして俺はある程度は普段通りに戦闘可能となった。

 あとはコトノハだが……と、そこまで考えたところでコトノハの姿が見えないことに気付く。


「あれ? コトノハは?」

『え、さっきまでそこにいましたが』

「まさかバックレた?」


 俺がそう言った直後、


「……! レスト、くるわよ!!」


 クロエが鋭い声をあげる。

 どうやら魔術を封じられた状態であるにも関わらず俺たちが強化されたのを見て、こちらを脅威と見なしたらしい。

 一旦、コトノハのことは忘れて眼前の魔獣に集中する。


 こちらに向かって腕を振りかぶりながら突進してくる魔獣。その大振りの一撃を横に飛んでかわす。と、それによって地面が大きく抉れる。

 やはり見た目通り、力は相当に強い。それに速さもそこそこある。


「……やっ!」

「食らいなさい!!」


 魔獣が攻撃をした後隙を逃さず、リシアとクロエが挟撃する形で牙と爪による攻撃を加える。が、魔獣は全く意に介した様子がない。


「手傷を与えた感覚はある、出血もしてる、けど」

「効いてる感じが全くしないわね……」


 緋竜のように外皮が極端に硬くて攻撃が通らない訳ではない。なのに手応えが感じられない理由。鈍いのかタフなのか……いや、恐らくその両方なのだろう。


「長期戦はこっちが不利」


 だろうな。スタミナも向こうの方がありそうだし、こちらはラッキーヒット一発で致命傷もありうるのだ。


「レスト! 面倒だし、もうアレでキメるわよ!」


 アレとは勿論キマイラモードの事だろう。

 周囲の魔力──ナノマシンを支配下に置かれた状況では、腕輪がまともに機能せず、初めてのときのようにリシアとクロエに大きな負担がかかる恐れがある。なので出来れば避けたかったのだが……。


「……それしかない、か」


 俺が二人と化身しようと決意したその時、


「はい、おしまい」


 突如として魔獣の背後から現れたコトノハが、尾の先に浮かぶ刀で首を掻っ切る。

 それにより一瞬で絶命する魔獣。


「!? コトノハ、おまえどうやって……」

「どうって……気配遮断で不意打ちしただけよ?」


 なるほど。あれは魔術ではないから問題なく使えるし、隠形と違って気取られる心配もないのか。というか、


「気配遮断、おまえも使えるのかよ!」

「一応ね。母様のより数段劣るし物凄く消耗するから、滅多に使わないんだけど」

「それよりコトノハ、アタシの爪より鋭そうなその武器は何なのよ!」

「これは持ち手の精神力に応じて切れ味の増す刀よ。キャラバンを発つ前に母様から頂いたの」


 シキさん、何だかんだでやっぱり娘のことが心配なんだろうなぁ。

 謎の手段で刀を尻尾に仕舞うコトノハを見ながら、そんな暢気な感想を抱いた瞬間、腕輪にイブキさんから通信が。


「レスト君、緊急事態だ」


 開口一番、イブキさんに似つかわしくない重苦しい声音でそう告げられる。


「え、何事ですか? まさか里を組織に襲撃でもされましたか!?」

「いや里は無事だよ。……少なくとも今のところは、だけどね」


 今考えうる最悪のシナリオでこそなかったようだが、里が危機的状況にあるのは間違いないらしい。


「では何が?」

「順を追って話そう。まず里には巫女という役職があり、役目を果たす際に生じるあらゆる障害からその身を守るべく、その任についた者には里に伝わる至宝が貸与される」

「至宝、ですか……」

「その至宝は、“金狐族”の“巫女”だけが所持を許されるものだ」

「……」


 どうしよう。物凄く嫌な予感がしてきた。


「さて本題なんだけど……つい先日、里に帰ってきた現巫女であるシキが、その至宝を何故か、何故か! 持っていなくてね。この事はまだ当人を除けば僕しか知らないんだけど、もし里のじい様方にバレると大目玉待ったなしなんだよねぇ!」


 鬼気迫るものがある……どんだけ追い詰められてんだよ。


「……その至宝って、もしかしてキャラバンでコトノハに渡された刀だったりします?」


 俺が恐る恐る問いかけると、イブキさんは渇いた笑いを零して、


「いや、その刀ではないよ……そうであれば、良かったんだけどね。それなら略式でコトノハに巫女を引き継がせれば済む話だった」


 イブキさんの物言いに軽い引っ掛かりを覚えるが、とりあえずあの刀は関係ないってことでいいのかな。


「じゃあ至宝ってのは……」

「宝珠、と呼ばれるそれは、所持者の魔力を倍加する機能を持つ恐るべき遺物だ」

「それは確かに凄い代物ですね。……けどシキさん、魔術が不得手でしたよね?」


 元が低ければ倍にしても知れてる訳で。

 仕方ないとはいえ宝の持ち腐れになってない?


「そう。宝珠はシキにとって、単なる荷物でしかなかった。そしてそれ故にこんな事態となってしまった」

「シキさん、一体何をやらかしたんですか……」

「あの馬鹿嫁……あろうことか宝珠を緋竜の持ってるお宝と交換しやがったんだよ!!」

「えぇ……」


 とんでもないことするなぁあの人!


「ちなみに宝珠と引き換えに貰ったのが件の刀だよ」

「……」


 おまけに刀、思い切り関係あったし!

 

「レスト君、本当に申し訳無いんだけど……」

「わかってます。緋竜に事情を話して、宝珠を返してもらえばいいんですよね?」

「本当にすまないがよろしく頼むよ。あ、巫女のお役目は先にコトノハに引き継がせておくから、宝珠を里に届ける必要はないからね、それじゃ!」


 イブキさんはそれだけ言うと、こちらの返答も待たずに通信を切ってしまった。

 なんか最後に割と重要なことをさらっと言ってた気がするんだが。

 とりあえず、事の顛末をリシアたちに伝えるかね……。



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