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得られた知見

「で、一体どうしたんだよ。まずは冷静になってくれるとありがたいんだが」


 クリスに渡した遺物を使って連絡を寄越してきたレティシア。

 彼女に対して、俺はとりあえず落ち着くように促してみた訳だが。


「わたくし、ついに……ついにクリスと化身することが出来たのですわ!!」


 どうやら興奮冷めやらぬ様子のレティシアを鎮めることは叶いそうにない。

 落ち着かせることは早々に諦めた俺は、寝ているリシア達から距離を取るべく部屋の隅に移動して話を続ける。


「おー、そら良かったな。……ん? なら何が大変なんだ??」

「それが……化身しても、クリスの姿が全く変わりませんの……」

「全く? 獣の姿にならないだけでなく、耳や尻尾だけ生えた不完全な状態にさえならないってことか?」

「そうなんですの……だからレストさんのお知恵を貸して欲しくて、夜分遅くに連絡差し上げた次第ですわ」


 うん、事情はわかった。まぁ夜分遅くということを理解しているなら、もう少し声を抑えて欲しかったが。

 しかし魔術的素養のない俺ですら半化身は出来たのに、一体どういうことなのだろう。


「姿が変わらないなら、力の方はどうなんだ? 化身すれば例えそれが半端な状態でも相当に強化されるんだけど」


 何しろ虚弱な引きこもりでも屈強そうな荒くれを一撃で倒せてしまうのだ……そう、化身ならね!


「今何か、凄く下らない思念を感じたのですけど……」

「気のせいだ」


 ちょっと脳内でボケただけなのに獣の直感ヤバすぎだろ。


「まぁいいですわ。それで力の方ですけど、ちゃんと強化されていましたわ。まぁ身体能力はあまり変わらなかったのですけど、魔力の方はかなり強くなった感じでしたから」

「なるほど、だから化身自体は出来ていると判断した訳か」

「えぇ……けれども姿は全く変わらないなんて、異常ですわよね?」

「異常……ではあるだろうけど、特に問題なくない?」


 それどころかむしろ望ましいまである。

 人が獣と化すことがこの世界においても通常、ありえないということは秘儀が廃れて久しいという話やリシアとの最初の化身時のおっさんの反応からして恐らく間違いない。


 つまり、迂闊に人前で化身すれば間違いなく目立つし、下手をすれば組織に目をつけられる恐れもある。


 ましてクリスは俺と違い、人里離れた僻地でなく王都という人の支配領域にいるのだ。当然、常に人目があるし他人と行動する機会だってあるだろう。

 それを考えると外見的には何の変化もなく力だけ強化される方が絶対に利便性が高い。

 

 と、そんなことをくそ真面目に考えていた俺に対してレティシアから放たれた返答は完全に想定外のものだった。


「問題大有りですわ! わたくしはクリスに耳や尻尾が生えたところや、わたくしと同じ姿になるところが見れるのを心待ちにしていたのに、そのどちらも見れないなんて! こんなの……あんまりですわっ!!」


「……切っていい?」

「どうしてそうなりますの!?」


 信じがたいほどにアホらしい用件だったからですね。

 さっきの考察に費やした時間や労力を返して欲しい。


「じゃあそういうことで……」

「まだ話は──あ、クリス! 良いところに! 今レストさんから有力な情報を得ようと……え? いえ、そうではなくてクリスの姿が変わらない件について……あっ!」


 レティシアの声が突然途絶える。


「お久し振りです、レストさん。それとすいません……うちのレティシアが手間を取らせてしまったようで……」


 そしてすぐにクリスの声が聞こえてきた。どうやらレティシアは飼い主により遺物を取り上げられたらしい。

 俺はクリスに久し振りと返してから、


「いやまぁそんなことはない……とはちょっと言えないわ、すまん」

「よく言い聞かせて置きます……」

「まぁ見た目が変化しないってのが全く気にならないと言えば嘘になるけどなぁ」


 例えばだが、これが肉体的な不調や魔術的な不具合によるものという可能性もなくはないし。


「やはり普通ではないんですよね。レストさんでも原因はわかりませんか……? まぁ今のところ、レティシアが嘆いてる以外は特に困ったことはないんですが」

「俺もそこら辺、特別詳しい訳じゃないからな。明日にでもリシアたちに聞いておくよ」

「一応そうしてもらえると助かります」

「ところで化身はともかくとして、人化の方はどうなんだ?」


 レティシアとしてはこちらの方が重要なはず。俺たちにコンタクトを取ってきたのもそれが為だったし。

 まぁ話題にしなかった辺り、上手くいったのだとは思うが、念のため確認しておく。


「そちらは特に問題なく。まぁ自分が想像していた通りの姿になったのには多少驚きましたけど……っと、レティシア、まだ話の途中だから……」


 どうやら通信の向こうでは遺物を巡り攻防が行われているらしい。

 またレティシアに代わられてもたまらんからな……よし。


「ふむ、つまり人化したレティシアはとても可愛かった、と」

「えっ」

「ん? 想像通りだったんだろ? それとも可愛くなかったのか?」

「いやまぁ……そう、ですね。今も人化していますが、とても可愛らしいですよ」


 クリスが照れながらそう言った直後、レティシアの声にならない声と共に何かが倒れるような音が聞こえてきた。


「排除完了」

「え?」

「いやこっちの話」

「? あ、そうだ。何故かレティシアも静かになったことですし、王都についてから色々調べてわかったことをお話しておきたいのですが、もうしばらくお付き合い願えますか?」

「!! それは是非頼む」


 まぁ本当はそこそこ眠かったりするのだが、これは後回しにしていい話ではないだろう。


「はい。まずリシアさんやクロエさんのような、魔術を扱いながらも魔獣とは異なり意思の疎通が図れる獣について、過去の文献から最新の調査報告まで一通り調べてみたんですが、かなり古い文献に神獣と呼ばれる存在として、人と共生していたというような記述がありました。が、現在ではそうした獣は全く見られず民間はもちろん、学者の間でも実在が疑問視されているようです」


 神獣、か。やたらと仰々しい呼称だが、当時はそれだけ敬われていたということなのだろう。

 まぁ今となっては長らく人と関わりを断っていたせいで、お伽噺で語られるような存在と化しているらしく、別の意味で名前通りの存在──元の世界における伝説上の生き物やUMA──となってしまっているみたいだが。


「ちなみにその文献ってどの程度の年代の物かわかるか?」

「大体二百年から三百年ほど前の物らしいですね」

「なるほど。てかクリス、よくそんなの閲覧出来たな?」


 そのレベルだと完全に古文書なのだが、そういうのって閲覧制限があったりしないのだろうか?


「えーと……実は田舎貴族だったりしまして……」

「あー。育ちが良さそうとは感じていたが、やっぱそんな感じか」

「その関係で多少無理がききまして。まぁそれはさておき、神獣とは何らかの手段で服従させた魔獣に過ぎないのではないか? というのが最近の通説みたいですね」

「クロエが聞いたらブチ切れそうな話だな……」


 きっと魔獣なんかと一緒にするなと叫ぶことだろう。


「とりあえず一般には知られていないと考えて問題ないかと」

「ふーむ……けど組織は間違いなく神獣が実在することを知ってるんだよなぁ」

「その組織の件も調べてみましたが、そちらは手掛かりすら……」

「まぁ足掛かりになりそうな情報がないからな……っとそうだ、神獣が一般にそういう認識なのは情報統制されてる可能性があると思う」


 王都というくらいだから王政なのだろうし、さらに言えば貴族が存在するなら平民相手に情報を秘匿するくらいのことは当然やるだろうからな。

 為政者のすることなど、どこの世界でも大差ないだろうし。


「情報統制と言えば教会のお家芸ですから、もしかしたら彼らによって神獣に関する情報も伏せられているのかもしれません」

「えっと……教会ってのは?」

「あっ、すいません。教会というのは魔術教会の通称ですね。彼らは魔術を神から人に与えられし御業であるとして、選ばれた者のみが扱うべきと唱える王家直属の宗教団体です。その性質上、魔術に関する情報は教会に独占されています」


 まぁ一応、高額なお布施さえ払えば口外しないこと、また他者に教える際に上納金を教会に支払うことを条件に、魔術を学ぶことも出来ますが……と、付け足すようにクリスは言う。


 これを聞いてようやく、俺が魔術を教えようかと持ちかけた時のクリスの反応の意味がわかった。

 そら金の心配もするわな。

 まぁ俺は教会とやらとは関わりもないので、そんな条件など知ったことではないのだが。

 しかし田舎貴族と言っていたくらいだから貴族としては裕福ではないのだろうが、そのクリスをもってしても容易に払えないような額なのか……。

 

「実はレストさんに魔術の対価を求められなかったとき、酔狂な金持ちか犯罪者じゃないかと思ってしまったんですよね……」

「うんまぁ、それは仕方ないんじゃないかなって……」


 実は異世界からきた人間で獣に魔術の扱い方を教わった──なんて、可能性としてすら思い付かんだろう。


「まさかそんな抜け道があるとは……ってあれ? もしかして……」

「どうした?」

「……教会には、とある理念があります。それは──“人外でありながら魔術を扱う魔獣を滅ぼす”──というものです」

「!!」

「これ、魔獣とは言っていますが、神獣も含むんじゃないでしょうか」


 教会が胡散臭過ぎる。組織の表の顔と言われても驚かんぞこれ。

 もしクリスの予想が正しければ、神獣から魔術を与えられることを防ぐという目的なんかもありそうだ。


「教会には気を付けた方がいいらしいな」

「えぇ、それに信徒には遺物の回収が命じられてるという話も──」

「はっ! そうでしたわ! クリス! あのことはもうレストさんに話しましたの?」


 再起動したらしいレティシアが話に割り込んできた。

 あのこと、とはなんだろう。


「いや話してないけど。特に重要な話でもないし……」

「確かにクリスの姿が変わらない件と比べたならそうですけど、これはこれで大事なことですわよ!?」


 レティシアの優先順位はともかくとして、クリスに何かあったのは間違いないらしい。

 遺物の回収の件も気になるが、


「そうまで言われると気になるから聞いてもいいか……?」


 好奇心に負けた俺がそう訪ねると、


「あー、えっとですね」

「よくぞ聞いてくださりましたわ! この度クリスは、なんと! 聖剣に選ばれたんですのよ!!」


 レティシアがまるで自分のことを自慢するように、高らかと声をあげた。





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