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正しい魔術の使い方

 突然始まったこの明らかに無用なボス戦だが、シキさんは親父さんと互角にやりあえる化け物。当然ながらまともに相手をしては勝機など欠片もない。

 しかし一発入れれば決着というルールであれば一縷の望みくらいはある。


「先手必勝!!」


 俺はそう叫んでシキさんに突撃する──振りをする。

 当たり前だがそのまま無策で突っ込めば、間違いなく手痛い反撃をもらうことになるだろう。

 まぁ敢えてその一撃を食らって手合わせを終えた方が手っ取り早くはある。が、それは正直避けたい。


 何故か。答えは単純。痛い思いをしたくないからだ! コトノハの惨状を思えば誰だってそう考えるだろう。

 あと手を抜いたのがバレたら多分キレるという霊感もある。


 俺はシキさんにぶっ飛ばされるという最悪な未来を避けるため、笑顔で待ち構える彼女に肉薄する寸前、頭上を飛び越えるように空中へと跳ねる。


「? 何のつもりか知らんけど……軽々しく逃げ場のない場所に身を踊らせるのは頂けんなぁ」


 シキさんは若干呆れたような口調で言うと、空中で身動きが取れない──と彼女は思っている──俺目掛けて魔術で生成したとおぼしき小刀を投擲してくる。


 だが、それこそがこちらの狙いだ。


 俺はすぐさま障壁を足場に小刀を回避するとストーンエッジによる反撃を試みる。


 死角から放たれたそれは、吸い込まれるようにシキさんの背中へ当たる──直前に弾けた。


「なっ!」

 

 振り返ることもなく凌がれた!?

 シキさんはこちらの反撃など物ともせず、立て続けに小刀を放ってくる。

 俺はとりあえず急いで新たな足場を作って慌ててその場を逃れる。


「何や嫌な感じがしたから尻尾を振ったら、まさか小石が飛んできてるとは思わんかったわ。それに障壁を足場に空を歩くなんて、面白いことするなー」

「……何故気付けたんですか?」


 地に足をつけながら問う。

 シキさんはこちらを注視していたし、俺は向こうが攻撃するタイミングを狙ってカウンターを仕掛けたのだ。にも関わらず、あっさりと防がれた。

 もしかして魔力視を極めたら、視界外の魔術にも反応出来るのか? そんな予想をしていたのだが、


「え、勘?」

「……」


 まさかの答えが返ってきた。勘て。


「ちなみに魔力視で周囲の魔力を感知することは不可能ではないで」

「思考に対して返事をしないでください!」


 地の文でも読んでるのかこの人……!


「まぁウチは魔力視なんて使えないんやけどね」


 シキさんはこちらの突っ込みは完全スルーで立て続けに想定外の情報を投げてくる。

 えっと、つまりマジで勘だけで避けたのかよ……。フィジカルと戦闘センスに全振り過ぎる。

 やはり負けイベントでは? と戦慄しているとコトノハが、


「レストさん、母様は規格外ではあるけれど、本当に勘だけで避けたって訳じゃないの」

「そうなのか、なら良かっ──」

「まぁ空間の揺らぎから魔術の兆候を察知できるなんて事を認めるくらいなら、勘であってくれた方が全然マシだと思うけど……」


 …………。

 さっき勝機はあると言ったな。あれは嘘だ。

 いや無理だろこんなの! 予想を遥かに上回る化け物じゃねーか!

 自身を囮とした死角からの奇襲、これこそが俺の取れる唯一の起死回生の策だったんだぞ!


 さっき指摘されたように俺には技がない。秘儀により力や速さ、頑強さや動体視力といった肉体的な強化はされていても、戦闘技術に関しては未だ素人同然だ。

 今まで何とかやってこれたのは結局のところ、油断を誘ったり小細工により出来た隙を、秘儀により強化された力で突くことによる一点突破にして一撃必殺の戦法が通じる相手だったからに他ならない。

 ただでさえ地力で勝る相手にこれが通用しないとなると、もう完全にお手上げだろう。

 そんな風に絶望しているとシキさんが不思議そうに聞いてくる。


「ところでさっきの攻撃、何で小石やったん? もっと殺傷力の高い物なら多少は違ったと思うんやけど」

「実は魔術に関しては全然で……魔力も知れてるので主に補助的な使い方しか出来ないんです」

「まぁウチも魔術はからきしやけど、刀や小刀を数本生成する程度なら楽勝や。……つまりウチより魔力量が多いレストさんなら確実にもっとマシなことが出来るはずなんよ」

「え、俺ってシキさんより魔力量、多いんですか?」

「まぁウチが少なすぎるだけってのもあるんやけど、レストさんはその腕輪や指輪で多少なりとも底上げされてるやろ?」


 確かにそれらを踏まえると、もう少しまともな攻撃が出来て然るべきな気がする。

 と、コトノハがおずおずといった様子で、


「というかレストさん……魔術のちゃんとしたやり方、知らないんじゃないの……?」


 かなり洒落にならない事を言ってきた。


「いや一応リシアからレクチャーは受けたんだが」

「あー……」


 え、なにその反応。


「いやリシアの魔術、凄いよね?」

「えぇ、それは間違いないわ。けれどね……あのコは誰に習うこともなく、大した努力もせずに、あんな感じなの。これが一体何を意味するかわかる?」

「どうやら師事する相手を間違えたらしいな……」


 思い返せば直感的なアドバイスばかりされていた気もする……。

 とは言え当時の俺の周りにはリシアとまともに会話の出来ない親父さんしかいなかったので、どのみち選択の余地など無かったのだが。


「まぁリシアちゃんは天才型やから、人にモノを教えるのには向いてないわなぁ」

「……えぇ、そうね」


 他人事のように語るシキさんをコトノハが物凄く何か言いたそうな目で見ている。

 心中察するに余りあるな。シキさんに自覚は無いのだろうけど……。


「じゃあ改めて、不肖の身ではあるけれどこのコトノハが、レストさんに手取り足取り教えてあげるわね」


 そう言うとコトノハは俺に魔術の手解きをしてくれた。

 概要としては以下の通り。


 魔術を使う際に大事なことは魔力と想像力。

 どちらか片方でも欠けていれば魔術としてまともに機能しない。

 ただし魔力が極端に強ければ、非効率ではあるが強引に効果を発動することも可能。

 逆に魔術を発動する際に、明確なイメージ──魔術の効果とそれにより周囲に与える影響の想定──を持っているなら、魔力の不足を補うことも可能。


「まぁ基礎としてはこんなところかしら」

「うん、一番最初のことしか教わってないですね」


 親父さんに聞けばまた違ったのだろうかとも一瞬考える。が、恐らく大して変わらなかっただろうなと思い直した。絶対理論より実践ってタイプだし。


「そんな気はしてたわ……まぁ大半の種族は習うより慣れろだから仕方ないんだけど。ちなみにリシアちゃんだけど魔力と想像力、どちらもヤバイわよ」

「だろうな……」

「ただ魔力は先天的なものだけど、想像力に関しては小さい頃からよくぼんやりと空想してたから、それが影響してるんじゃないかしら」

「ふーむ。しかしそんなに凄いのに魔術の発動が遅いのと人化が使えないのは何でだ?」

「んー? 遅い……? ってあぁ、重力魔術のことね。あれはリシアちゃんの固有魔術なせいね。あと人化に関しては種族魔術だから、としか言えないわね」

「固有に種族……要は前者が個人、後者はそのまま特定種族にしか扱えない魔術ってことか。となるとその分類の魔術はどう頑張っても俺には使えない訳だな」

「その理解で合ってるわ。ちなみに隠形も種族魔術だから金狐と灰狸以外には使えないわよ」

「なるほど、色々勉強になった」


 と、そこで俺はあることに気付いた。

 それは今が手合わせの真っ最中であるという事実だ。

 本当に今さらではあるが、話し込んでて平気なのだろうか。


「あ、ウチのことは気にせんでええよ? コトノハから学んだことを活かして全力で打ち込んできてくれればそれで」


 平気だったらしい。というかそれが楽しみで待ってた感じだなあれは……。

 そういうことであればお言葉に甘えて、少しばかり思案する。

 それから数分して、一つの答えにたどり着いた俺は、


「じゃあちょっと試してみたいことがあるんで、やってみますね」


 そう言うと意識を集中して、シキさんに対して魔術を発動させた。


 


 

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