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式神舞闘

 コトノハを抱えて部屋を出た俺は、先ほど手合わせが行われた広場へ足を向ける。

 実はコトノハを連れ出したのにはもう一つ理由があり、そのためにはある程度のスペースが必要なのだ。


「別に恥ずかしいことじゃないんだから、普通に教えてあげればいいのに。二人とも喜んでくれると思うわよ?」


 コトノハが抱えられた状態のまま、諭すようなことを言う。

 降ろしてと騒がれるよりはいいが、こいつの状況への適応力も凄いな……。


「そうだろうけど、万が一微妙な反応をされたらやだなぁ、と」

「いやそれはないでしょ……」

「でも白狼族や黒猫族には指輪を贈るような慣習は無いだろうし……」


 金狐族や灰狸族は人との関わりが深いから別だろうけど。


「レストさんて、結構細かい事気にする性質なんやねぇ」

「「!?」」


 いつから居たのか、隣を歩くシキさんが自然に会話に入ってきた。

 声をかけられるまで全く気づかなかったぞ……隠形でも使ってたのか?


「あ、これは隠形でなくて単なる気配遮断やね。ウチにもせめてもう一本くらい尾を増やせるだけの魔力があれば、隠形が使えるんやけどなー」

「シキさんて読心術でも使えるんですか……?」


 気配遮断とかいう謎のステルス技能も大概だが、それよりこっちの方が余程気になる。


「いやー流石のウチもそっちの読心術は使えんよ?」


 シキさんはケラケラと笑いながらそんなことを言う。

 ん? そっちのってどういう意味だ?


「というか母様に隠形が必要だとは思えないのだけど」


 コトノハの言い分はもっともだ。

 技術であるが故に隠形と違って他者への行使は出来ないと思われるが、少なくとも単独行動する上では魔力消費がない分、そちらの方が便利だろうし。


「まぁそうなんやけども。ところでレストさんはウチの娘を抱えてどこ行く気なん? ……まさか逢い引きやったりして?」

「!! なるほど……そういう意図だったのね。全くそれなら素直にそう言ってくれればいいのに」

「ないです」

「まぁコトノハも見てくれだけは悪くないからなー」

「あぁ、でもリシアちゃんに何て言えばいいのかしら。お姉ちゃん困っちゃう!」

「……」


 親子揃ってボケ倒すのやめてくんねーかな……。

 てかお姉ちゃん困っちゃうとか抜かしてるが、初対面時に俺の所有権をリシアから奪おうとしてたこと忘れてねーからな。

 結局あれも真意不明なままだが、ちゃんと聞き出した方がいいんだろうか。


「で、本当のとこはどうなん?」

「実は戦闘の訓練をしようかと思いまして。その指南役をコトノハに頼もうかと」

「ほー! それはもしかして、さっきウチとコトノハの手合わせを見たから?」

「まぁ、そんなとこです」


 あとはここでも面倒を押し付けられそうだとか、魔術を打ち消す魔獣とやらの話を聞いたってのもある。

 これからの旅路を思えば強くなっておくに越したことはないからな。組織にも完全に目をつけられてるし……。


「なんだそんな理由かぁ……。けどそれなら私でなくリシアちゃんやクロエちゃんでも良かったんじゃないの……?」

「……いや、あのコらではレストさんへの指南は無理やね」


 そう、あの二人でなくコトノハでなくてはならない。何故なら──


「えぇ、リシアとクロエには獣としての闘い方しか出来ませんから」

「その点、人化したまま戦ってたコトノハなら教えを乞うのに適してるって判断した訳やね」

「そういうことかぁ。まぁどれだけ役に立てるかはわかんないけど、それでいいなら手伝うわよ」


 コトノハは自信無さげではあるもののあっさり了承してくれた。が、「ただし身体を動かさない範囲でだからね!」と念を押してきた。

 まぁさっきの今だから仕方ない。


「助かる。適宜アドバイスをしてくれたらそれでいいから、よろしく頼む」

「あ、良ければウチが──」

「いえ、それには及ばないので!!」


 シキさんが恐ろしいことを口走りかけたので、食い気味にお断りを入れる。

 あんな手合わせを化身もせずにやったら最悪死ぬぞ……。


「別に遠慮せんでもええんやけどなー」

「遠慮というよりは命乞いに見えたのだけど……」


 大体合ってる。


「しゃーない。ならコトノハ、アレ出したって」

「はーい」


 アレとは何だ? と思った瞬間、少し離れた位置に曖昧な人型をした影のような存在が現れる。


「これは……?」

「式神よ。低級の術式で呼び出したものだから、性能は知れてるけど訓練には丁度いい代物なの」


 なるほど……それは確かに訓練にうってつけだな。少なくとも何もない空間や動かない的に向かってやるよりはずっといい。


「じゃあレストさん、その式神に適当に攻撃して見せてもらえる? あ、遠距離からの魔術は無しでね」

「わかった」


 俺はそう言うと、腕と足を狼の姿に変化させて思い切り地を蹴り、式神に一瞬で肉薄してその勢いのまま頭部らしき部分を弾き飛ばす。

 すると式神は一瞬揺らめいた後に、すぐに再生された。


「ほぅ……人間とは思えん速さやな。なるほど。これが秘儀の恩恵、か」

「じゃあ次は回避させるから、もう一度打ち込んで見て」


 コトノハの指示に従い、もう一度腕を振るう。と、今度は宣告通り、しっかりと回避してきた。

 構わず返す刀で二撃目を放つもこれも回避される。さらに数回の攻撃を経て、ようやく致命の一撃を加えることに成功する。


「うーん……どうも攻撃の流れを意識した立ち回りが欠けてるわね。母様はどう思う?」

「コトノハの見立て通りやね。力と速さに頼りきりで肝心の技がなってないわ」

「技ですか……」


 まぁ技は無いよなぁ……そもそもこっちに来るまでまともに身体を動かすことが皆無だったし。


「レストさん、相手の回避する先を読んで、追い込むような感じを意識してもう一度やってみて」


 コトノハの助言を念頭に置き、再度式神に仕掛ける。

 初撃は回避”させる“つもりで、そこから追撃で追い込み、体勢を崩した式神にさらなる追撃を叩き込む……!

 

「お、飲み込みは早いみたいやな」


 無事式神を倒した俺を、シキさんが楽しげに見ている。

 誉められてるはずなのに嫌な予感がするのは何故だろう……。


「はぁ……何で自分より強い人の指導なんてさせられてるのかしら」

「いや絶対コトノハのが強いからな……俺にはシキさんの攻撃がまともに見えなかったし」

「それは魔力視が使えないからだと思うけど……。っとそれを忘れてたわね。さっき言ったコツは覚えてる?」


 絶対それだけではないと思うが……まぁいい。


「あぁ、焦点を虚空にだっけ?」

「うん、じゃあ式神を不可視化させた上で攻撃させるから、頑張って倒してね」


 コトノハはそう言って軽く腕を振る。すると式神の姿が一瞬で掻き消えて見えなくなった。


「いや待てスパルタ過ぎない!?」

「え、そう?」

「そうだ──痛っ!」


 どうやら既に至近距離まできているらしく、殴られたか蹴られたかしたらしい。

 文句を言ってる暇もねぇな?! 早急に魔力視を身に付けないと一方的にボコられるぞこれ!!

 急いでその場から飛び下がると、意識を切り替えて集中する。

 と、視界の端に式神らしき揺らめきが見えた。


「そこっ……!」


 爪を伸ばしての一閃。それにより一時的に霧散する式神がぼんやりとだが見える。


「とりあえず最低限は見えるようになったみたいね。あとは使ってればその内慣れると思うわよ」

「それは朗報だが、いきなり見えない敵をけしかけるのはどうなんだよ……」

「? 別に式神に武器を持たせてた訳でもなし、大したことじゃないでしょ?」

「……シキさん?」

「あー……昔、あの人の式神を借りて、そないなこともしたっけなぁ」


 決まりが悪そうに俺から目を逸らすシキさん。

 なんだかんだで常識があるコトノハに浮世離れしたところがあるのは完全にこの人の仕業なんだと思う。


「ところでレストさん、やっぱりウチと手合わせ──」

「いやいやいや……」


 何か突拍子もないこと言い出したぞ。

 さっきちゃんと断っただろ!


「魔術で作った武器以外は使わんし、そっちは普通に魔術を使うてもええから! 一回だけ、な??」


 どうしよう。めちゃくちゃ食い下がってくる。と言うか一回だけで死ねるんだが??

 俺がこの状況をどうすべきか必死に考えているとコトノハが秘匿通信で、


「レストさん、こうなったらもう聞かないから覚悟を決めてね」


 かなり絶望的なことを告げてきた。

 マジかよ。まぁ薄々こうなる予感はしてたけどさぁ!

 そんな風に嘆いていると、


「じゃあいくでー!」


 シキさんはそう言って、嬉々としながらこちらに歩み寄ってくる。

 って、いや勝手に始めようとしてるし!!!


「あーもう……! じゃあ一発入れたら終わりでお願いしますね!」

「はいな。あ、でもわざと食らったりしたら……」

「ちゃんと本気でやりますから!」

「ならよし」

「レストさん、頑張ってねー」


 暢気なコトノハの声援。


「コトノハ、おまえさっき止めなかったこと、まだ根に持ってやがるな!?」

「なんのことかしら?」


 俺は後でコトノハに復讐することを誓いながら、この難局をどう乗り切るか考え始めた。


 

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