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魔術を打ち消す力

 買い物を済ませた俺たちは部屋に戻り、頼まれていた物をコトノハとイロハに手渡す。と、コトノハは飴を口に放り込むとまた動かなくなった。


『レストさん、指輪なんてつけてましたっけ?』


 イロハが器用にアームを使って自身に油をさしながら、指輪の件を突っ込んでくる。


「相変わらず目敏いな……これは魔術を強化出来る代物らしくてな。役立ちそうだからついでに買ってきた」

『へー。ところで三人お揃いで薬指につけてるのは何か理由が?』

「……おまえ、分かってて聞いてやがるな」


 俺が半眼で睨むとイロハは『なんのことやら』などとすっとぼける。

 ぶっ壊してやろうかこいつ……。


「そんなことより、どういう理屈で強化されるかわかるか?」


 慌てて店を出たからその辺を聞きそびれたんだよな……まぁ仮に聞けていたとしても魔術的な説明だったろうから、どちらにせよイロハからも聞く必要はあったのだが。


『ちょいと拝見……ふーむ。この宝石、外は普通の天然石みたいですが、中は恐らくナノマシン結晶体ですね』

「結晶体?」

『はい。私や腕輪の中にも入っているナノマシンが凝固した物質です』

「固まったまま何らかの働きが出来るのか……?」

『いえ、この結晶体はナノエフェクトに反応して一時的に分解するんですよ。多分魔術を使った場合も同じ反応をするんでしょうね。原理的には大差ないですから』

「なるほど……ってそれ、使った後はどうなる? まさか消耗品じゃないよな??」


 表向きの理由とはいえ実用性が失われるのは困る。


『それだと私はいずれ機能停止しますよ……。一時的にと言った通り、ちゃんと元に戻るので大丈夫です。劣化もしません』

「それを聞いて安心したわ」

『ちなみにその濃縮率だと単純なナノエフェクトを一つ登録可能ですね。まぁ天然モノですから上書き等は無理でしょうけど』

「ふむ。ならよく考えた方がいいな。それはとりあえず保留で」


 思った以上に掘り出し物なのではなかろうか。金は尽きたがいい買い物をしたな。

 そんな風に俺が指輪の有用性を確認していると、


「小難しい話は終わったの?」


 退屈そうにしていたクロエがこちらを構えと言わんばかりの物言いをする。


「あーすまん、イロハにもう一つ聞いておきたいことがあるんだ」

「仕方ないわね……それが終わったら相手しなさいよね」


 クロエはそう言うとベッドの上で寛ぎ始めた。

 ちなみにリシアの方は何をするでもなく俺の隣でぼんやりしており、コトノハは依然としてぐったりしたままだ。


 君たち、自分の部屋に戻ってもいいんだよ……?


『それでもう一つの聞きたいこととは?』

「あぁ、それなんだがな」


 俺はイロハに店主から聞いた魔術を消す魔獣の話を聞かせる。


『そんなやつがいるんですか!?』

「らしいな。それで本題だが、ナノエフェクトにもそういうやつはあるか?」

『一応私に搭載されてますよ。防犯用の簡易型なので範囲や効力は知れてますけど』

「ほう。なら例えばリシアの魔術とか防げるか?」

『無茶言わんでください! というかですね……防げるならとっくにそうしてるに決まってるでしょ!』


 確かにそれもそうか。イロハは今まで何度もリシアの魔術の脅威に晒されているのだ。もし防げるならまともに食らう道理がない。


「なら防御手段としては当てに出来ないかなぁ」

『いやリシアさんが規格外なだけかと……レストさんの魔術程度なら余裕だと思いますし』

「ほー……なら試してみようじゃねーか」


 俺はそう言うと間髪入れずストーンエッジを放つ。

 いや別にイロハの物言いに腹を立てたとかではないよ。ほんとだよ。


『ちょっ?! フィールド展開!』


 そうイロハが叫んだ次の瞬間に起きたことは以下の三つ。


 一つ、ストーンエッジにより生成された拳大の石が小石程度の大きさに分解され、イロハの体に当たって甲高い音を響かせる。

 二つ、コトノハの人化が解けて、その拍子に椅子から転げ落ちる。

 三つ、リシアとクロエの服が消える。


 ……なにこれ。俺か? 俺が悪いのか?


「いやどうしてこうなった……」


 諦感に満ちた俺の発言から一拍置いて、


「いきなりなにすんのよ!」


 クロエが叫ぶと同時に手元にあった枕をイロハに向けてぶん投げる。

 そしてそれをモロに食らったイロハは勢いよく吹っ飛んで壁に激突した。南無。

 どうでもいいけど俺の魔術よりもダメージ大きそうだな……まぁフィールドとやらがリシアの障壁と違って、物理に対しては完全に無力だからだとは思うけど。


「わー痛そう」


 リシアが何の感情も籠ってない口調で呟く。

 服が消されたことに対してクロエは即座にキレたが、リシアの方は全く気にしていないらしい。


「……あっ」

「あ?」

「キャー……?」

「……」


 遅いんだよなぁ……! しかも明らか演技やんけ!!


「その取って付けた悲鳴 is 何」

「恥じらいが大事、なんだよね?」


 なるほど、意図は理解した。しかしそれならせめて体を隠そうとするくらいはして欲しかった。


「いいから、早く、服を出す」

「むー……」


 しかしあれだな。この流れで理不尽な暴力を見舞われずに済んでるのはリシアとクロエに恥じらいが無いからなんだよな。

 正直二人が恥じらう姿は見たい。が、ラブコメの主人公みたくラッキースケベの度に一々殴られたりはしたくない。……うーんアンビバレンツ。

 そんなことを考えながら服を生成中のクロエに目をやると、


「ちょっと! こっち見ないでよ!」

「わ、悪い」


 あれ、暴力こそ無かったが普通に怒られたぞ……。


「なるほど、あんな感じがいいのかな?」


 リシアの独り言はともかく、クロエにはちゃんと恥じらいがあるらしい……この差は一体。


 と、そのとき。


「うー……突然人化が解かれたんだけど、何事よ……」


 そんなことをぼやきながらコトノハがテーブルの下から這い出てきた。


「あ、コトノハ……大丈夫か?」


 存在を完全に忘れてたわ。ちなみにコトノハは既に人化をかけ直しているし服もちゃんと着ている。


 しかし何でコトノハだけが人化を解かれて、二人は服だけで済んでいるのだろう。

 気になったのでコトノハに手を貸しながら聞いてみる。


「あー……それは多分リシアちゃんたちの人化は秘儀──つまり二人がかりでの魔術なのに対して、私のは一人で行使する魔術だからじゃないかしら」

「そっちの方が強固な訳か。けど最初以外は俺は何もしてないが」

「繋がりがあるのよ。もしもそれが切れたら二人はきっと人化出来なくなるわよ」

「そんなもんか」

「えぇ、あとは単純に私が弱り切ってるってのもあるわね……抵抗する気力もなかったから」

「そういう……」


 まぁこの状態では仕方無い。しかし普段であれば防げたということは、やはり対した効果は見込めないということだろう。

 まぁ宣言通り俺の魔術はほぼ無効化されたけどな!


「ところで一体何をしていたの?」


 どうもコトノハは今の今まで意識がなかったらしい。

 仕方無いので簡単に説明する。と、


「私の指輪は……?」


 まぁそうくるよね。


「金が足りなかった」

「酷い!」

「言われた通り甘いものは買ってきただろ?」

「二人は指輪なのにコトノハは飴だけって差別じゃないかしら!」


 いやまぁ言わんとすることはわかるけども。

 しかしコトノハに指輪を贈る訳にはいかんしなぁ……。

 なお『それを言うと私も油だけなんですけど……』というイロハの発言は流された。


「コトノハは秘儀をしてないし?」

「なにそれそんなの……って、もしかしてそっちの理由も含まれてる? そっか。それなら私がもらう訳にもいかないかぁ」


 リシアはそういう意味で言った訳ではないと思う。しかしコトノハはそこに隠された意図に気付いたらしい。


「店主も何か訳知り顔だったけど、一体何なの?」

「それはねぇクロエちゃん──」

「おいコトノハ、それより魔力視の件はどうした。何? 外で特訓? よし分かった今から行くぞ!」

「いや言ってないし、別に部屋の中でも……っていきなり抱えないでよ! あと抱えるにしてもせめてお姫様抱っこがいいのだけど!!」

「お姫様抱っこもお米様抱っこも大差ないから気にするな」

「全然違うと思うのだけど!」

「じゃあちょっと出てくるから。あとイロハ、余計なことは言うなよ……?」

『あっはい』


 それだけ言い残すと俺はコトノハを抱えて部屋を後にする。


「さっきからこんなのばっかだな……」

「それはこっちのセリフよ!」


 あぁ確かにコトノハもさっき実母に拉致られたばかりだったか。まぁそのなんだ。余計なことを言おうとした己を呪ってくれ。時間の問題なのはわかっているが、指輪の件はまだバレたくないのだ……。

 



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