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自己申告の信憑性

「来るのが遅いと思うんだけど!!」


 ようやく追い付いた俺たちに対するコトノハの第一声がこれである。


「よし部屋に戻るか」

「ん、そうしよっか」

「あ、待って! 見捨てないで!」

「骨は後で拾ってあげるわ」

「死ぬことが分かってるなら今すべきことがあると思うんだけど!?」

「心配してきた人にそないなこと言うから……けどまぁウチも正直遅いなぁとは思ったんやけどね。え、このコ普通に見捨てられた? みたいな」


 シキさんが若干困惑気味な反応を見せる。

 俺たちがあまりに塩対応過ぎたせいか、先ほどの剣幕は見る影もない。

 それはともかく正直あまり心配してなかった上に見捨てかけたことは黙っていよう。


「ところでコトノハから軽く経緯は聞いたんやけど、このコも連れてこれから緋竜の山に行くんやってね」

「そのつもりです」

「難儀な道程やから、出来ることはしといた方がええと思うんよね」

「出来ること、とは?」

「それなんやけど、このコが戦うところ、見たことないやろ?」

「無いですね」

「ならいい機会やから、そこで見物しといてもらえる?」

「はぁ、構いませんけど」


 何がいい機会なんだろうと思っていると、


「一緒に旅をする仲間がどの程度の戦力なのか把握しとくのは大事やからね」


 なるほど一理ある。というかそのために俺たちが来るのを待ってた訳か。


「確かにそれは大事ですね。ではお言葉に甘えて」

「納得してないで止めてよ!」


 コトノハに懇願される。が、


「もう無理だろ諦めろ」


 きっとこれは強制イベントの類いだったんだと思う。何故バレたのかさえわからなかったからな……。


「このままだと私、母様にボコボコにされるんだけど! 何? レストさんそういうのが好きなの??」

「え、アンタそんな趣味が……?」

「おい」


 君たちはどうしてすぐそういう流れにしてしまうんですかね。

 これ放っておいたら際限なく俺の株が下がる流れだな??


「……シキさん、始めちゃって下さい」

「はいよ。んじゃコトノハ、覚悟はええな?」

「良くない、ちっとも良くないからやめ──!!」





 

 結果だけ述べるならコトノハの惨敗だった。

 それはさながら情け無用組手といった様相であり、手合わせを終えた後のコトノハの姿は目を覆いたくなるほどの惨憺たる有り様だった。ここまでは当人が言っていた通り。


 けれどその一方で、全く抵抗出来ず一方的にサンドバックにされていたのかと問われると、決してそんなことはなかった。

 コトノハは終始受け身ではあったものの、恐るべき猛攻を少なからず捌けていたし、稀にではあるが反撃すら試みていたのだ。

 まぁ一つとして有効打は入れられなかったのだけど。


 ……さて、振り返って考えてみたが、やはり一つだけどうにも看過できないことがある。それは──


「いやおまえ普通に戦えるじゃねーか!!」


 戦闘が苦手とは一体何だったのか。少なくとも化身してない状態の俺よりは遥かに強かったように見えた。


 そんな思いを込めて、借り受けた部屋が揺れるほどに全力で叫んだのだが、コトノハはテーブルに突っ伏したまま一切の反応を示さない。


「……死んでないわよね?」


 クロエが割と洒落にならないことを言う。


「いや死んではないだろ、多分……。だからつつくのはやめてやれ」

『呼吸、脈拍共に微弱ですがありますよ』


 何らかのスキャンでもしたのか、イロハが言う。

 対象に触れることなく一瞬で測れるのか……相変わらず便利だなこいつは。


「なら安心ね」

「いや微弱なのは安心ではなくない?」


 生きてるというよりは死んでないと言った方が適切な状態なんですがそれは……。

 そんなことを考えているとリシアが俺の膝に飛び乗ってきた。


「コトノハ、自分は弱いと本気で思い込んでるから」


 一瞬何のことかと思うもすぐに気付く。どうやら虫の息のコトノハに代わって先程の俺の叫びに答えてくれたらしい。が、その内容には異論しかない。


「あの驚異の連撃に反応出来てそれは通らない」


 シキさんはどう見ても肉体派という感じではないし、魔術が不得手とのことだったのでどんな戦闘スタイルかと思ったら、まさかの両手と尻尾で刀を用いる三刀流というね。

 いや実際コトノハはよく受けてたわあんなの……。


「主な相手がシキさんだったせいだと思う」

「あー……毎度ボコボコにされてたらそうなる、か? いや待て同年代と手合わせとかは」

「腐っても里長の娘なのと、本人が強すぎるせいで二重に遠慮されてたみたい」

「そういう……でも後者の理由を教えてやれば解決じゃないの?」

「イブキさんがいくら言い聞かせても、自分が弱すぎるから相手をしてもらえないんだって聞かなかったって」

「……」


 これは筋金入りですわ。普段は無駄にポジティブなのに、事戦闘に関しては恐ろしく卑屈らしい。


「完全にではないにしろ、シキさんの四本刀を凌げる時点で弱い訳ないんだけど……」

「だろうな」


 俺にはとてもじゃないが無理そうだったし。ってあれ? 四本??


「ちょっとリシア、刀は三本だったわよ? 一本はどこから湧いてきたのよ」


 俺が感じた疑問をクロエが口に出す。


「魔力視すれば、尻尾と刀がもう一対見えたはず」


 どうやら見えていた物が全てでは無かったらしい。


「あれ疲れるのよね……」

「初めて聞いたぞ……それ、どうやるの?」


 語感からどんなものかは大体察しはつくがやり方は皆目見当もつかない。


「魔力の流れを視覚化するだけなんだけど……」

「やり方を聞かれると困るわね……」


 なるほど。当たり前に出来るせいで教えようがないらしい。恐らく四肢の動かし方を聞かれるようなものなのだろう。


「魔力視はね……慣れないうちは目の焦点を虚空に合わせると……やりやすいわよ……」

「あ、コトノハ、生き返った」

「レストさん……あとで魔力視のレクチャーしてあげる……から、代わりに何か甘いもの……買ってきて」


 コトノハはそう言って懐から路銀を差し出すと、また力尽きてしまった。

 甘いものより薬的な物が必要な気もするが……まぁ当人が望んでるし体力が回復するならいいか。


「仕方ない……行ってくるから少し待ってろ」


 ちなみに魔力視とやらは別にレクチャーしてもらわずとも、イロハや腕輪に頼ればどうとでもなりそうではある。が、自力で出来るに越したことはないだろう。


「私も行く」

「あ、レスト。アタシも」

「はいはい。んじゃイロハ、一応コトノハのこと見といてやってくれ」

『了解です。あ、もしオイル的なものがあったらついでにお願いします』

「ん、あったらなー」


 イロハに生返事を返しつつ部屋を出る。

 そいや里で貰ったのは主に食料で医療品の類いは全然だったな……ついでに揃えておくかな。

 


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