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捕縛

 さて、この謎の闖入者は──まぁ十中八九、コトノハの母親なのだろうけど、


「えっと……それはどういう? というか貴女は?」


 俺はそんなことは露知らずといった風に平静を装って、そう尋ねる。と、


「本来秘儀とは婚姻ではなく、戦力の強化を目的として行使されていたものですからな」


 戻ってきたホルストさんが代わりに答えてくれた。

 あぁいつか親父さんからもそんな話をされたっけ。……すっかり忘れていたが。


「そーゆーこと。あ、それとウチはシキ言います。よろしゅうね」

「あ、俺はレストです。よろしくお願いします」

 

 俺がそう返したのを皮切りに、リシアとクロエも自己紹介をする。なおコトノハは微動だにしない模様……。


「おい怪しまれるぞ……」

「……」


 俺が耳打ちするもやはり無反応。

 けれどシキさんがそこに触れてくる気配はない。何故ならそれ以上に彼女の気を引く点があったからだ。それは──


「リシア……? ってこの気配……もしかして“あの”リシアちゃん……?」

「お久し振りです、シキさん」

「はー! 秘儀を使った人間に会えただけでも驚きやのに、まさかその相手がリシアちゃんとはねぇ……。あ、そういえばコトノハとは最近会った? ウチがいなくて寂しがってると思うんよねぇ。元気にしてるならええんやけど」

「えっと……特に寂しがってはないみたいだったけど、元気にしてましたよ」


 うん、完全に近況報告モードに入ったね。部外者は立ち入れないやつ。まぁそれは別にいいんだが……元気にしてましたよ、か。

 嘘は言っていない。確かに元気だったからな。ついさっきまでは。


 しかしいきなり現れた理由とか、さっき外でしていたやり取りとか、完全に石化したコトノハとか、一体どれから手をつければいいのやら。

 もっとも内輪ネタで盛り上がってる上にマシンガントークの持ち主らしいので落ち着くまで待つしかないのだけど。


「すまないね、一応止めたのだが……」

「あはは……」


 ホルストさんから申し訳なさそうに謝られた。

 ……まぁどう見ても言って聞くタイプではないよね。

 と、リシアとの話が一段落したのか、シキさんはこちらをターゲッティングすると、


「ところでレストさん、アンタ……さては異界の迷い人やね?」

「ほう、そこまではわからなかったな。そうなのかい? レスト君」

「らしいです」


 その肩書きも久々に聞いたな。というかホルストさんは気付いてなかったのに、シキさんはどうやって気付いたんだ……?


「何でわかったんだって顔やね」


 鋭い。しかし本当に理由がわからない。余計な面倒を避けるために迂闊な発言は控えていたし、服装も里で貰ったこの世界準拠の物だ。今では魔術を人並みに扱える程度には魔力も持っているし……うーむ。


「ところでそっちのお嬢ちゃん、体調でも悪かったり? さっきから微動だにしてないんやけど」


 あ、答えを教えてくれる訳ではないのね……。

 ってそれよりヤバイ。ここで下手を打てば間違いなく正体が露見するのだが当のコトノハがこれでは……。


「おいコトノハ、気を確かに持て」


 少し乱暴に揺する。しかしコトノハは依然として機能停止したままだ。

 ……てか今、普通に名前を呼んでしまったが本当に平気なんだよ、な?

 魔術で誤魔化すとは言っていたが、当人がこの状態でちゃんと効果が発動しているかはかなり怪しい。が、それはどうやら杞憂だったらしい。


「へー、コトちゃん言うんやね。ご同類でウチの娘と名前も似てて、何や親近感覚えるなー」


 代わりに別の問題が発覚したが。

 ……いやもう少し捻れよ!!! 効果自体はしっかり発動しているらしいからそこは良かったけども!


 しかし安心したのも束の間だった。


「……はっ! あれ、今どういう状況?」

「おはよう、コトノハ」


 ようやく再起動を果たしたコトノハに、リシアがそう呼び掛けた、その瞬間、


「……リシアちゃん、今、何て言った?」


 唐突に、本当に一切の脈絡なく、シキさんから強烈な威圧感が放たれる。

 いや何でだよ! え、今のやり取りに怒るようなとこなかったよね!?


「ウチの見間違えでないなら……そのコをコトノハって呼んだ思うんやけど」

「……!!」


 あかん。何故かバレてる。俺が呼んだときは問題無かったのに!


「わざわざ姿を偽ってたゆうことは、つまりウチを避けてたってこと、そんな真似をしたんは後ろめたいことがあるから……さてはコトノハ、修練サボッとったな?」


 すげぇ……一瞬で全てを看破された。これエンカウントした時点で詰んでたのではなかろうか……。


「いえ違うのです母様これには深い事情が──」

「問答無用」


 言うが早いかシキさんはコトノハの首根っこを掴むと、即座に部屋を出て行ってしまった……。


「コトノハとは、ここでお別れかな」

「みたいね……」

「なるほど、シキさんの娘さんだったのか。ならあの態度にも納得がいく。……ところで放っておいていいのかい?」


 完全に他人事なノリで語る二人にホルストさんが問いかける。


「家庭内のことに立ち入るのは、あまり良くない」

「下手にでしゃばると飛び火しそうだし?」


 冷たいようだがどちらも正論だと思う。ちなみに俺の意見はどちらかと言うと後者の比重が大きい。


「それより話の続きはどうしましょう」


 俺がそう聞くと、


「それより……。いやまぁいいんだが、そうだね……未だにシキさんも納得してないようだし、明日にでもまた集まって貰いたいんだが構わないかな?」


 ホルストさんは若干引き気味にそう答えてくれた。

 いや一応心配はしてるんだけどね?

 というか、やはりさっき外から聞こえたやり取りは無関係ではないのね。


「分かりました。では失礼しますね」


 俺はそう告げてリシア達を連れて部屋を後にする。


「レスト、これからどうするの? 様子、見に行く?」

『行かないという選択肢があることに驚きなんですが……』

「まぁ特にすることもないし、暇潰しにいいんじゃない?」


 そんな三者三様な発言を受けた俺は、


「気にならないと言えば嘘になるし、一応行くかぁ」

『コトノハさんの扱いって私の扱いに負けず劣らず酷いと思うんですよね……』

「日頃の行いとしか」

「まぁそれよね」

「仕方ない」


 そんなやり取りをしつつ、俺たちは方々で引き摺られていった方向を訪ねながらコトノハの後を追った。


 

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