頭隠して
色々……本当に色々あった一夜が明けて翌日。
今、俺は食堂にきている。
まぁ食堂と言っても馬車の隣に支柱を立てて、布で日除けが作られただけの簡素な物だが。けどそのお陰で風通しが良く、使われてるテーブルやイスが洒落たものなのもあって、オープンテラスのカフェといった雰囲気だ。
俺がそう感想を漏らしたところ、
『いえ、どちらかと言えば運動会で使われるテントという趣では?』
いつの間にか側にいたイロハの一言により台無しにされた。
「おいやめろ。そうとしか思えなくなるだろ……って、何でいるのおまえ!?」
面倒を避けるため、上空での待機を言い渡しておいたはずなのだが。
『フッフッフ……ちゃんとステルスしてますのでご安心です! 声も秘匿通信扱いにしてますよ!』
どうやらその辺の抜かりはないらしい。が、聞き捨てならない発言があった。
「ステルスってなんだよ! そんな便利なもんあったの!?」
『いえ、コトノハさんの技術協力を得て、コツコツと作ってたのがさっき完成したところです』
なるほど。それなら特に罪はない、な。
俺はにこやかにこちらのやり取りを眺めるコトノハに対して、目線で事情説明を要求する。と、
「お姉ちゃん、仲間外れは良くないと思うの」
何かもっともらしいことを言いだした。
確かにクリスといたときも、仕方ないとはいえイロハは半ば除け者扱いだった。なので多少申し訳なく思ってはいたのだ。
故に気兼ねなく側にいられるようになったのは良いことだと言える。──が、俺の直感が告げている……。
これは表向きの理由である、と。
「で、本当の目的は?」
抑揚を殺した声でコトノハに問う。
「一緒にイタズラするとき、イロハちゃんも隠形を使えた方が便利だなって」
「そんなことだと思ったわ」
コトノハの行動原理は極めて単純明快なので、思考をトレースするのはそう難しいことではないのだ。
『なにあっさり白状してんですか!?』
「今までの経験上、疑われた時点で言い逃れは不可能だし……。あ、レストさん。私はすぐに自供したから減刑されるわよね?」
『一瞬納得しかけましたけど、完全に保身からの行動じゃないですか!!』
イロハが嘆いているが、立場が逆なら同じことをしただろという感想しかない。というかこいつらは何かを誤魔化そうとするとき、どこか白々しさが感じられるんだよなぁ……。
「……理由はさておき、今後役に立ちそうだからお咎めは無しにしといてやる」
「良かったわね、イロハちゃん」
『何か釈然としないんですけど……』
「それよりそのステルス機能、要は魔術をナノエフェクトに落とし込んでるだよな?」
『一切説明していないのに理解している……さてはチート!?』
そんなもんは無い。俺にあるのは経験則だけだ。
「大体わかるわ。で、単刀直入に聞くが、それは腕輪でも可能か?」
『えっと、現状では無理ですね……。これ、私の自作なんで、プロテクトに弾かれると思います』
まぁそんな気はしてた。そしてそのプロテクトとやらは、例によって軍の施設に行かないと解けないだろうことも想像がついた。
「登録したあと色々余計なものまで入れてくれた覚えがあるが、あれらは正規のナノエフェクトだったから問題なかったと」
『ですです。非正規のものは基本的に入れられないんですよ』
まぁ悪用防止の為なのだろう。そういったセーフティが存在すること自体は不思議ではない。それこそ魔法のような力を扱えるのだから、ある程度の機能制限が必須なのは理解出来る。
しかし、そうなると別の疑問が生じる。それは──
「じゃあ何でおまえはそれを使えてるんだ?」
どう考えてもイロハと腕輪は延長線上の存在だ。なのにこいつは平然と、非正規であるはずの自作ナノエフェクトを使用している。これは明らかにおかしい。
『……』
「……」
おい。何故黙る。
まぁ大体察しはついているのだが。
「イロハのことだから、非合法な手段でプロテクトを解除したとかだと思う」
リシアが俺の予想をそのまま口にした。
まぁそれしかないよね。
『いえ違うんですよ』
「何も違わんだろ……。ほんとおまえ、前科いくつあんの……?」
出会った当初にゴネてた意味は何だったのか。
『そんな人を犯罪者みたいに!?』
「その通りだろうがこのイレギュラーめ」
まぁそんなイロハだから他のドローンと違い、機能停止せずに済んだのだろうが。
というか、うっかりすると忘れそうになるが……こいつ機械なんだよなぁ。
「おまえ、実は生体脳を搭載してたりしないよな……?」
イロハはあまりにも人間臭すぎるのだ。
その点に関してはコトノハ以上な気さえする。正直この二人は、俺より余程人間味に溢れていると思うし。
『そんなもん搭載してるはずないでしょ!?』
「ぶっちゃけ機械とは思えんのよなぁ」
『……いいでしょう。ならば私の本気、御見せしようではありませんか!!』
そう言ってイロハはわざとらしい咳払いをすると、
『マスター、ご機嫌は、如何ですか。御用がおありの際は、すぐにお申し付け下さい』
とってつけたような機械音声で、キャラ崩壊必至な発言をした。
「違和感しかないんだが」
普段が流暢な物言いなだけに、誰だおまえは感が半端ない。
「バグを疑うレベル……あ、それはいつも通りか」
リシアがボソッと毒を吐く。
『不評な上に皮肉まで飛んできたんですけど!』
「ポンコツには、従順なメイドロボ要素とか、欠片もないし。一番イメージに近いのは、ゴミ箱、かな?」
『!!!?』
何故メイドロボなのかは……まぁ突っ込まなくていいか。
それよりキャラ名で言わないから、そのままの意味で受け取ってるぞ……。
あまりに不憫なので一応フォローを入れる。
「ゴミ箱ってのは、とあるゲームに出てくるクラップトラップってロボの愛称のことだ」
蔑称の方が事実に即してると思うが、追い討ちになるだけなのでそれは伏せる。
と、ここでクロエが食い付いてきた。
「クラップトラップって青いワニじゃないの?」
「えっとなクロエ、それはまた別のゲームのキャラで……」
言ってて思ったが、これ異世界でする会話じゃねえな??
ここだけ見たら完全にゲーム系コミュニティの掲示板じゃねえか。
『そんな愛称がついてるってことは、人気なキャラってことですか?』
「……まぁ(製作とプレイヤーには)人気があるんじゃないかな」
『妙な間が気になるんですけど!?』
登場人物には軒並み嫌われてるとは言えないよね。
「お調子者で、余計なことばかり抜かすところ、そっくりだと思う」
『酷い……!!』
これはフォローしようがないわ。
いつもの応酬が始まったので俺は静観の構えをとる。
「リシアは本当にイロハに対して当たりが強いわよね……」
「ファーストコンタクトがなぁ」
普通ならクロエのようなツンデレキャラこそ、あの手の輩への当たりが強いものだ。が、現実は違う。クロエはむしろイロハに対しては寛大な方なのだ。それは恐らく、初対面時に余計なことを言う暇が無かった為だろう。
やはり最初の印象は大切だなって……。
そんなことをぼんやり考えていたせいか、イロハが自爆シークエンスでも起動するかのようなヤケクソ感を発しているのに気付くのが遅れた。
『くっ! そこまで言うなら、そういうキャラを徹底してやろうじゃないですか!!』
明らかにろくでもない展開となりそうな気配をひしひしと感じる。
「おい何か嫌な予感がするからやめ──」
『リシアさん、昨夜レストさんとついに一線を越えましたね! 夜更けに訪ねて、そのまま朝までレストさんの部屋にいたことは知ってるんですよ!』
「「「!!!?」」」
とんでもない爆弾発言しやがったなこいつ!?
ってかパパラッチかおめーは!
クロエとコトノハが興味津々といった感じにこちらを見てくる。
うん、一気に居心地が最悪になったね。どうしてくれんのこの空気。
「え、レストさん……」
コトノハが深刻そうな声で呟く。
「いや何もしてな──」
「まだ手を出してなかったの……?」
「そっちかよ!」
普段姉を自称してるのなら、もっと他に言うことあるよなぁ??
「じゃあ今晩はアタシとよね」
クロエはクロエでこんなことを言ってくる。
「軽い……!! って、いやだからそんな事実はだね」
俺が場を納めようと必死に頑張っていると、
「私は身も心も、レストの物になった」
「リシアさん!?」
リシアが背後から刺してきた。
これもう誤魔化すの無理じゃん! 多少恥じらいを覚えたかと思ったが、こんなことを堂々と宣言してしまう辺り、どうやら全く足りていないらしい。
『え、マジだったんですか……? 私はてっきり叙述トリックのような落ちだとばかり思ってたんですが』
「……おまえ覚えとけよほんと」
そんなやり取りをしている俺たちのもとに、若干引き気味のウェイトレスが注文の品を持ってきた。
そうだね、周りに聞こえないのはイロハの声だけだね。
さっさと食ってこの地獄から逃げよう……。
俺はそう決意して、速やかに食事に取り掛かった。




