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初夜の訪れは突然に

 夜更け、部屋で寝る準備をしていると控え目なノック音がした。


「レスト、まだ起きてる?」


 どうやら来訪者はリシアらしい。

 扉を解錠しながら呼び掛けに応じる。


「起きてるよ」


 そう答えながら扉を開けると、予想に違わずリシアがいた。

 ……けれど、何か違和感を感じる。


 なんというか、態度が硬いのだ。どこか遠慮がちというか。しかしそれとは裏腹に、その瞳からは強い決意を感じる。


「……大事な話、か?」

「うん」


 とりあえず中に入るように促して扉を閉める。

 俺がベッドに腰を降ろすとリシアもそれに倣う。


「話っていうのは、家族のこと」

「そういえばいつか話すって言われて、それっきりだったな……」


 確かあれは瞑想により魔力を増幅させる訓練をしてる時だったか。

 ……ついでに失言をした事実も思い出した。

 それが態度に出ていたのだろうか。リシアが気遣うような目を向けてくる。


「あの時打ち明けなかったのはね、レストが想像してるような理由じゃないの」

「そう、なの?」


 当時の俺は、恐らく何かしらの不幸により死別し、その傷が癒えてないが故にお茶を濁したのだろうと考えた。

 そしてそれは親父さんから聞いた群れが襲撃を受けたという話からして、ほぼ間違いないと思っていたのだが。

 いや待て。そうだよ……この件は既に親父さんから聞き及んでるじゃん……!

 でもそれを言える雰囲気ではないな……よし、黙ってよう。


「母さんがいない理由は、レストも察してると思う。けど、そのこと自体は、もう気持ちの整理がついてるの」

「……」

「私があの時、躊躇った理由。それは──同情で、気を引きたくなかったから」


 なるほど。不幸の生い立ちという属性は、ともすれば対等な関係を築く上での障害となる。

 恐らくリシアはそれを嫌ったのだろう。同情から側にいるという選択をされて喜ぶやつはいない。

 

「ずっと話さないとって思ってたんだけど、遅くなってごめんね」

「機会を窺ってたのか……」

「うん。出来れば落ち着いたところで、二人きりのときに話したかったから」

「あぁ……なるほど。人化を使ってからこっち、常に誰か側にいたしなぁ」

「里でも、ポンコツやコトノハに加えて、レストがクロエを拾ってきたから、そんな機会は全く無かった」

「拾ってきたて、そんな捨て猫じゃないんだから。……しかしまぁ、クロエの前では特に避けたい話題ではあるな」


 復讐が目的のクロエとしては、他人事とは到底考えられまい。

 どうしたって自身の境遇と重ねてしまうはず。

 それにだ。どちらの件も組織の仕業である可能性が高い。クロエがそこに思い至っているかは不明だが、彼女の精神衛生上、この手の話は安易にすべきではないと思う。


「? もしかして、父さんやクロエから、何か聞いてる?」

「あ……」


 ジト目で睨まれる。可愛い。

 ……いや、そんな状況ではない。

 見事に語るに落ちてしまった……こうなっては素直に謝罪するしかないだろう。


「すまん。その二人から、大体の経緯は聞いてる……」

「そう。なら詳細は省いて、私の気持ちだけ話すね。……端的に言うと、私に復讐の意思は、無い」


 てっきり復讐という共通点があったからクロエと意気投合したのかと思ってたが、どうもそういう訳でもないらしい。


「群れを襲ったやつらを恨んでないと言ったら嘘になる。けど、私は過去より未来に生きたい」


 使命もあるしね、と微笑みながらリシアが手を握ってくる。

 真面目な話をしているのに危うく抱き締めてしまうところだった……。

 そんな俺の葛藤を他所にリシアは続ける。


「でもね、父さんやクロエが、復讐を望む気持ちを否定するつもりも、無いの」

「そっか」

「それにこのまま旅を続けてれば、否応なく対峙することになると思うから」

「まぁそうだろうなぁ……」

「──その時は、全力で潰すよ」


 笑顔が怖い。主目的ではないが、副目的ではあるらしい……。

 しかしやはり、リシアとしては使命が最優先らしい。


「なぁリシア」

「ん?」

「使命の遂行はさ、リシア個人の意思なんだよな?」

「うん。かつて受けた恩義に報いるため、使命は絶対に、果たさなきゃいけない」

「恩義?」

「私自身が受けた恩じゃないんだけどね。白狼族には、遠い記憶があるの。多分、ご先祖様の記憶」

「白狼族はそれに従って行動してる訳か……」


 縛られて、とも言えるが。しかし本人が納得している以上、やはりこの件はとやかく口出しすべきではない、な。

 

「嫌々でやってる訳ではないから、心配しなくとも、平気」


 どうやらこちらの意図はお見通しらしい。やはり機微には聡いのだ、このコは。

 これで妙なとこで抜けてるというか、ズレてなければ完璧なのだが……。

 いやまぁ、そこが可愛いから別にいいんだけどさ。


「ところでレスト、やっぱりこの先、危険な旅になると思う」

「うん?」


 え、まさか今更危ないから云々って話ではないよね……?


「だから、ね。後悔しないために、すべきことをしようと思う」


 違った。そりゃそうか。

 けど話がさっぱり読めない。


「すべきこと……?」


 なんだ? あ、訓練的な? 里でもちまちまやってたし、魔術とナノエフェクトの双方を用いた戦術の構想は練ってたが、まだ全く形になってないんだよなぁ……。

 などと思っていたのだが、


「という訳で、失礼するね」


 言うが早いか、リシアが俺のズボンに手をかける。


「なにしてんの!?」

「えっと、下準備……?」

「なんのだよ!!」

「まず口でするんだよね?」

「そうだけど、そうじゃない」


 これあれだ。隠してたエロ本を盗み見て知識を得たロリだ! そのテンプレ行動だ……!

 ただ一つ、テンプレでない点として、俺の記憶からそれを参照したというのが挙げられる。

 というか、そういうとこだぞ!

 何故俺は事ある毎に高度な羞恥プレイを強いられるのか。そんな性癖は持ち合わせてないんだけど。


「エロ本知識で事に及ぼうとするのはやめよう!」

「? ゲームだけど」

「同じだよ!! とにかく一旦その手を離すんだ……」

「むぅ……さっき抱き締めようとしてきた癖に」


 やだ。バレてる。

 てか今気付いたが、普段より服の生地が薄い気がする。普段着ているものは魔術で作られているので、わざわざ薄くしてる辺り、どうやら最初からそのつもりだったらしい。


「私も恥ずかしいんだから、大人しく受け入れて」

「無茶苦茶仰る! てかそういうの無頓着だった記憶しか無いんだが!?」


 水浴びしてた時も、セクハラした時も、ほぼ無反応だったじゃん!!


「勉強の成果……?」


 どうやらリシアさん、羞恥心を覚えたご様子。それ自体はとても歓迎すべきこと。なのだが、得られたそれはどうやらストッパーとしては機能していないらしい。あるいは行動力がそれを遥かに上回っているのか。


「えっと、マジでやるの……?」


 最終確認である。……雰囲気もへったくれも無いんだが。いやまぁそこは俺にも非があるけど。


「出来ることは、今しよう」 


 そう思った矢先にこの発言。


「やっぱムードが無いの、大半はリシアのせいだと思うんだよね……」

「気のせい。というか、今を逃せば当分チャンスが無いと思うけど、いいの?」


 ……確かに。恐らくは緋竜の山につくまで、また野宿の日々だろう。というか、ついてからもどうなるかは不明だ。洞穴暮らしのドラゴッティな気もするし……。

 それはつまりプライバシーが存在しないということを意味する。まぁ道中に関しては安全上仕方ない話ではあるんだけど。


 期待するような目でこちらを見上げるリシアを見て、俺も覚悟を決める。

 据え膳食わずはなんとやら。同意もあるし問題ないよね!


 ……なおこれが後の災禍の引き金となるのだが、それはまた別のお話。




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