例外的存在
何やら明らかに余計な一悶着があった気がするが、それは努めて気にすることなく、改めてコトノハから事情を伺う。
「それでまぁさっきのやりとりで大体わかったと思うけど、ここにいる間だけ正体を隠したいの」
「何か恨みでも買ったの?」
「買ってないから! ……実はこのキャラバンには今、母様が同行してるのよ」
「シキさん、見ないと思ったら、里を出てたんだ」
「最近は不穏なことが多いから、少し各地を回ってきます。灰狸のキャラバンに便乗するつもりなので、心配は無用です。……そう書き置きを残して、何の相談もなく里を出てっちゃったのよね、あの人」
「シキさん、相変わらずみたいだね……」
えぇ……自由人過ぎる……というかコトノハの母親ってことは、そのままイブキさんの嫁ってことで──
「それ、立場的に大丈夫なの……?」
クロエが俺が気になった点をずばり聞いてくれた。
その疑問を受けたコトノハは、
「大丈夫だと、思う?」
と、青筋を浮かべながら、凄絶に微笑んだ。
「まぁそうなる、な……」
「母様がやってた仕事、全部私にきたのよ!? 当時は呪いながら里の雑務をこなしてたわよ……半月ほどで落ち着いたけどね」
急に抜けられたら、そらそうなるわな……。苦労が偲ばれる。
「大変だったのはわかった。けど、今の話に正体を隠さなきゃならない理由、特に無い」
「正体を隠したいってことは会いたくないんでしょうけど、むしろ文句を言いに行くべき状況よね……」
「そうしたいのは山々なんだけどね……書き置きには追伸があったの」
「ほう?」
「次に会うときには、ウチから一本取れるよう、しっかり修練しておくように。ってね……」
コトノハから伝わる絶望感がヤバイ。
この世の終わりもかくやという声音である。
「言われた通り修練は……」
「全くしてないわね」
「自業自得じゃねえか!!」
「母様から一本取るなんてどのみち不可能なんだから、わざわざ無駄な努力なんてしないわよ! 修練してようがしてまいが、勝てなきゃ地獄確定なんだから!」
突っ込んだら逆ギレされた。しかし、ここまで言うということは……。
「ちなみにそのシキさんとやらは、どの程度の強さで……?」
この流れで弱いはずが無いのだが、まぁ聞かない訳にはいかないよな……と、思って話を振ったのだが、
「……叔父様と互角ってところね。いつか飲みの席で乱闘騒ぎになったとき、相討ちになってたから」
聞かなきゃ良かったまである。
「あったね、そんなこと。起きたら屋敷が半壊してて、襲撃でもあったのかと思った」
どんだけ派手に暴れたんですかね。
というかお互い酒が入っていたにしろ、親父さんといい勝負出来るって相当だろ。
「いやアンタそれ、かなりの無茶振りじゃない……? 口振りから察するに、手加減とかも期待出来ないんでしょ?」
「あはは……。そんな器用な真似が出来る人なら良かったんだけど、ね」
「親父さんと同等の力の持ち主、か……聞くだに戦闘だけは避けなきゃって気持ちになるな」
親父さん、道中に遭遇した魔獣をことごとく一撃で葬ってたからな……。
魔術の封じられた状態であっても、その辺の魔獣相手なら鎧袖一触という圧倒的な強さなのだ。
その昔に洞窟で俺が死闘を演じられたのも、その後リシアの魔術が決まったのも、親父さんが本気を出してなかったからに過ぎない。仮に本気であったなら俺もリシアも秒殺だったと思う。
……もっとも娘に甘い親父さんがリシアに対して強く出るのは不可能なのだが。
しかしそんな存在と互角らしい母親との本気の手合わせ、か。……虐待かな?
「大体わかった。私たちは、どうすればいい?」
「とりあえずキャラバンに滞在する間、話を合わせてくれたらそれでいいわ」
「名前はどうする?」
偽名でも使わないと、うっかり名前で呼んだせいで露見なんて間抜けなことになりかねない。
「あ、それも魔術で誤魔化すからコトノハって呼んでも平気よ」
「便利だなぁ……でも名前にしろ見た目にしろ、最悪見破られたりしないか?」
何しろ相手は同族、それも格上の相手だ。
本当に誤魔化せるのだろうか……。と、思ったのだが、
「平気平気、母様、魔術がからっきしなの。だから絶対バレないと思うわ」
どうやら色々な意味で型破りな人物らしい。
それって金狐族としてはかなり珍しいんじゃ?
まぁこの状況においては助かるが。
「ただ勘は異常に優れてるから油断は出来ないんだけどね……」
「ふむ。キャラバンの連中は?」
そこからバレてシキさんに話がいってしまう可能性を懸念する。
「灰狸族はいいの。隠してるってことさえ伝われば遠慮してくれるから」
なるほど、アウトローの流儀みたいな感じか。余計な詮索はしない、みたいな。
……このキャラバン、違法なブツとか取り扱ってないよね??
ってあれ? 今までの話、何かが引っ掛かる……ような。
「ところで一つ気になったんだけど、里から勝手に出た件に関しては、アンタは文句言える立場にないんじゃないんじゃない?」
確かに。コトノハも事後承諾な形で俺たちに同行してる訳だから、文句を言えた義理ではないな……。
「血は争えないんだと思う」
「リシアが言うと説得力があるな」
リシアも親父さんと同じく、妙なとこで抜けてたりするからなぁ。
それにしてもイブキさん、コトノハの同行をあっさり承諾してくれたが、里は本当に大丈夫なのだろうか。高い借りになってない、よな?
……無理矢理ついてきた件と相殺されてるといいんだけど。




