表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/106

名は体を表す

 予想より遥かに規模が大きい、というのが最初に抱いた感想だった。


『私はキャラバンと聞いて、てっきり馬車が数台程度の商隊をイメージしてましたよ……』

「俺もだ……まさかこれほどとは」


 まず目につくのは馬が四頭もつながれた、通常の倍はあろうかという大型の馬車。普通の馬車の数も優に二桁を越えているし、設営式と思われる建物までいくつか建っている。

 人の方も見える範囲だけでも数十人はいるっぽい。これはもうキャラバンというよりジプシーといった方が適切だろう。完全に移動式の集落だ。

 そんなことを考えているとリシアに腕を引かれる。


「レスト、変じゃない?」

「ん?」

「この辺、周りには何もない、よね?」

「そうね。こんな場所で、一体何をしてるのかしら」


 言われてみればその疑問はもっともだ。この規模では森の中を突っ切るのは無理としても、迂回すれば数日とかからず里に辿り着ける(逆に言えばかなりの遠回りとなるので、魔獣が少ないという理由もあって俺たちは森を抜けた)と思うんだが。

 この場にキャラバンがいるのをクリスが知っていた事を踏まえると、最低でも数日は留まっていることになる。キャラバンとは普通、町や村といった居住地を転々とする存在だ。

 ……もしや何かトラブルでもあったのだろうか。


「まぁ行けばわかるか」


 そう言って、キャラバンに足を向けた矢先。


「……」


 コトノハが浮かない顔をしているのが目に入った。

 普段の陽気さが鳴りを潜め、物憂げに佇むその姿はどこに出しても恥ずかしくない美少女といった趣だ。が、普段のそれと比較すると異常でしかない。


「コトノハ、どうかしたのか?」

「あのキャラバンなんだけど……ちょっと訳ありなの」


 訳あり、ね。やっぱりそういうことなのだろうか。


「……それはあれか。実は狸の一族が──とか、そういう?」


 いつか親父さんとの会話でちらっと出たことや、秘儀を使わない通常の人化は狐や狸しか使えないという話を思い出す。まぁ正式な種族名までは知らないのだが。


「な、何故レストさんがそれを!?」

「……」

「灰狸族がキャラバンを始めたことは金狐族以外知らないはずなのに!」

「その……名前が、ね??」


 あまりにド直球過ぎるネーミングだったよね。ラクーンて。そのまんま過ぎて実は違う可能性まで検討したわ。

 しかしそうか。キャラバン自体は割と最近出来たものらしい。

 それにしては凄く立派だが。


「え、レストさん、古語の意味がわかるの……?」


 コトノハが意外そうな目を向けてくる。


「古語、とは」


 何やら話が妙な方向に転がり出したぞ??

 言うまでもないが俺には古語など全くわからない。というかまず現代語がわからない。腕輪による翻訳が全てなのだ。

 当然、その二つの区別すらつかない。


『その疑問には私がお答えしましょう』


 なんかきた。段々解説ポジが板についてきたなこいつ。


「これは有能な流れ。ところでちょっと「説明しましょう!」って言ってみて」

『私はいつでも有能ですよ! あとそのセリフは何か妙なキャラ付けをされそうなので嫌です!』


 鋭い。リシアやクロエと違って元ネタがわかるはずもないのに。


『それはさておき、ラクーンというのはですね、私がかつて存在した時代で狸を意味する言葉なんですよ』

「ほう……」

「まぁ偶然の一致かもだったので特に言及はしませんでしたが」

「まぁそれは、うん」


 確信が持てないことは迂闊に口にしたくないよね。わかる。

 俺も同じ理由で、名前を聞いたとき特に突っ込まなかったし。


「つまりはあれか。俺とイロハにとっては、あまりにあからさまなネーミングだがその実、古語であるが故に一般人には気取られないようになってるってことか」


 なるほどなーと納得しかけたのだが、


「まぁ古語と言ってもそれなりの学がある人なら読めるものなんだけど」


 コトノハの一言で台無しにされた。


「ダメじゃねえか!!」

『いやレストさん……動物の名前を冠してるからって、実際にその動物が運営してるとは普通思わないでしょ』

「……!!」


 ……確かにそうだわ。俺がそういう思考になったのはあくまでリシア達、特に秘儀によらず人化して、一線を引きながらも人とそれなりの付き合いを持つ金狐族を知っていたからな訳で。


「その考えでいくと、レストの世界だと、猫や鳥が配達をしてたことになるね」


 リシアさん……先に進んでたと思ったら、いつの間に隣に。というかだな。


「相変わらず俺がいた世界のことに明るいなぁ君は……」


 なんでそんなことまで知っとるねん。いや出所は一つしかないんだけどそうでなくて。


「アンタたち、いつまでそんなとこでおしゃべりしてんのよ! 折角ついたんだから、さっさと入って休憩するわよ!」


 少し離れた位置からクロエが呼び掛けてきた。


「悪い! 今行く!! コトノハ、続きは落ち着ける場所でいいか?」

「え、えぇ……構わないわ。ただ後で説明するから、口裏だけ合わせて欲しいんだけど、いい?」


 よくわからないお願いをされた。何だろう……もしやお約束的に種族間の仲が悪いのか? いやでもキャラバンをやることは金狐族にしか伝えてないって話だしそれはないか。うーん。


「まぁ了解。コトノハの良いようにしてくれ」


 どう考えてもこの中で一番勝手を知っているのはコトノハだろうし、任せてしまった方がいいだろう。何か事情があるみたいだが、まさか指名手配されてたりする訳ではなかろうし。

 ……いや、まさかね。


「……失礼なこと考えてる顔ね」

「ソンナコトナイヨ」

「レスト、気を抜いてるときはすぐ顔に出るの、直した方がいいと思う」

「……。ほら、お姫様が首を長くしてんだからとっとと行くぞ!」

『露骨に誤魔化しにきましたね……』

「うるせー!」


 形勢不利と見た俺は強引に話を打ち切って走り出した。


「あ、レスト、私も行く」

「全く……良いようにしてくれって言ってたのに、その相手を置いてきぼりにしてどうするのよ」


 後方から何か色々聞こえてきたが、それには取り合わず俺はクロエの下に急いだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ