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穏やかな旅路

 クリスたちと別れてしばらく進むと、一時間も経たずに森を抜けた。

 そしてその先に広がっていたもの、それは──


「街道……だと?」


 無論、レンガやアスファルトで舗装された綺麗なものではなく、土が露出した粗末な道だ。


 しかし、今までは常に道なき道を進む旅路であり、まともな人工物は遺跡関係の物や里くらいでしか見ていなかったので妙に感動してしまった。


『驚きすぎでは』


 イロハに呆れ混じりの突っ込みを入れられる。


「いや、だって今までは道なんて全くなかったから……」

『そういえば……里の周りにも道なんてありませんでしたね』

「里は外部と距離を置いてるから、仕方ない」


 隣を歩くリシアが補足してくれた。

 距離を置くとは何も物理的な意味だけの話ではないのだろう。

 そういえば王都とやらも、ここからかなり遠いという話だった。

 クリスたち、無事につけるといいが。


 そんなことを考えながら進んでいると、


「レストー、何か飲み物ちょうだい」


 そう言って、クロエがこちらに手を伸ばしてきた。


 ちなみに今は全員、人化している。

 いくら僻地とはいえ街道であれば人がいないとも限らない。

 狼と猫を連れた旅人なんて、どう考えても目立つからな。耳と尻尾がネックだが、これは帽子や服で隠せば問題ない。


「あいよ」


 俺は彼女の要望を叶えるべく、特殊空間から水を取り出して渡す。


「それ、ほんと便利ねぇ……」


 コトノハのしみじみとした呟き。


「多分現状で一番役に立ってると思う」

「お陰でコトノハは驚かされた訳だけど」

「まぁ、そうなるな」


 万が一にも俺たちに見つからないように、目視不能の距離からつけてきていたらしく、合流したとき初めて荷物が無いことに気付いたコトノハの「あんな大量の荷物、どこに落としてきたの!?」という発言は正直言ってかなり笑えた。いやそんな状況じゃなかったから耐えたけどね?


「里から旅立つとき、明らかに過剰な物資を要求してのが不思議だったけど……」

「これが無ければ必要最低限しか持たなかったと思う」


 大量の荷物を抱えての旅なんて嫌すぎるからな。

 まぁあの時は特殊空間のことは伏せてたので、イブキさんに物資をせびるときは「このくらい楽勝ですよ」と言ってはぐらかしたのだが。

 里から離れてまずやったことはリュックサックごと特殊空間内に放り込むことっていうね。

 まぁ今は突然誰かに出会ってもいいように、空のリュックサックを背負っているのだが。


「しかし便利は便利だが、不審に思われないために余計な気を使わないといけないってのがな」

「まぁこんな辺境を手荷物一つ持たずに歩いてたら、間違いなく奇異の目を向けられるでしょうね」

「コトノハがずっと穏形を使えたら楽なんだがなぁ……」


 それなら見た目に気を使わなくても済むのだが、


「複数対象への長時間の行使なんて父様でも無理だから」


 こういう事情では仕方ない。

 穏形は基本的に緊急避難用だと割り切るべきだろう。


「コトノハ、役立たず……」

「リシアちゃん酷い! ちゃんと気配遮断はしてるでしょ!!?」

 

 あ、これはいつものだな。仲のいいことで……。

 それはともかく、どうやら穏形にも結界と同じく、色々な種類があるとのこと。そして簡易な気配遮断であれば四六時中行使しても全く問題ないようだ。

 今もコトノハが気配遮断を使ってくれているので、あんな風に騒いでも魔獣を招くことにはならない、らしい。

 まぁ完全に姿を消すよりも気配だけを絶つ方が維持コストが安いというのはわかる。


「アンタの腕輪の探知があれば問題ないんじゃないの?」


 フェードアウトしたコトノハに代わって、クロエが問い掛けてきた。

 要するに、何者かと事前に遭遇するのがわかるなら、という話だろう。勿論俺も考えた。が、断念するしかなかった。何故なら、


「あれは対象を指定するのが難しくてなぁ……」


 実際、初めて使ったときはクロエを見落としてたからな。かといって、対象を幅広く設定すればいいという単純な話でもない。

 そんなことをすれば常時反応しっぱなしになるのは目に見えている。

 それに、だ。敵がコトノハみたいな真似が出来る場合、探知に頼りきりだと完全な不意打ちを食らう危険性もある。

 対象を細かく指定して精度を上げれば、気配遮断程度なら見破れるのだが、それ以上となると探知ではどうにもならない。

 一応今も使ってはいるが、結局気休め程度の効果しか望めないのだ。

 その辺、どう説明したものかと思っていたら、


『クロエさん、探知の本来の用途は失せ物探しなんですよ。軍用の索敵レーダーみたいな物と比べたら玩具みたいなものなんです』


 イロハが端的に解説してくれた。

 しかし逆に言えば、軍用のさえ使えれば相当便利になるんだよなぁ。無いものねだりをしても仕方がないけど。


「まぁそういうこと……ってその説明じゃ──」


 クロエには通じない。そう続けようとしたのだが、


「そうなのね。アタシはてっきりオペレーターが眺めてるような代物だと思ってたんだけど」


 完全に通じてますね、これは。

 そしてその理由には一つしか心当たりがない。


「また人の記憶を漁ったのか……」

「リシアには散々見られてるんだから、今更ガタガタ言わない。それに、話が早い方がそっちも楽でしょ? 全く、予習を欠かさない勤勉なアタシに感謝して欲しいくらいだわ」

 

 そう言ってこちらに空の容器を放ってくるクロエ。

 毎度のことながら……この猫、浅はかな癖に口だけは達者だなぁ!


「ありがたすぎて泣けてくるよ」


 俺が諦めの境地で容器をしまっていると、


『レストさん、見えてきましたよ!』


 イロハが声を上げる。

 どうやら目的地に着いたらしい。


「珍しく平和な道のりだったなぁ……」


 いつもの感じなら森からキャラバンまでの道中で、何かしら面倒が起きてたと思う。


「リシアとコトノハがまだ騒いでるみたいだけど」

「あれはノーカン」

『こっちに被害は無いですし』

「ま、それもそうね」


 そんなやり取りを経て、なんちゃって姉妹の騒がしい声をBGMに、俺たちはキャラバンにたどり着いた。



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