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オーバードーズがもたらした物

 鬱蒼とした森の中を俺は全力で駆け抜けていく。

 念のためにと数分ほど歩いた距離だが、化身の影響で強化された身体なら本気で走れば一分とかからないはず。

 そんなことを考えていると遠目に目的地が見えてきた。


「着いた……!」


 そこで俺が目にした物は──


「レティシア……。ちゃんと、説明してくれるかな?」

「はい……」


 項垂れる小動物に対してやんわりと、だが誤魔化しは許さないという決意を秘めた目で問いかける、怒れる飼い主の姿だった。



 ……いや何があったんだよ! 魔獣は!?


 極めて予想外な展開に困惑しながら辺りを見回す。すると綺麗に首を落とされた哀れなウサギが転がっているのが見えた。他に外傷は見当たらないので一撃で屠られたようだ。

 次に視界に入ってきたのは酷く残念な物を見る目をクリス達──いや、レティシアに向ける俺の同行者達。


 うん、何となく察してきた。まぁ懸念はしてたけどね?

 だから急いで戻ってきた訳だし。徒労だったが。

 とりあえず今、俺がやるべきこと、それは。


「おいこらポンコツ。なんだこれは。あらゆる意味で状況が終わってんぞ……」


 秘匿回線を用いてイロハに文句を言うことだった。


『いやその……ちょっとわかんないです』

「……」

『えっとですね……まず突如現れたウサギがクリスさんに突撃したんです。それに対してクリスさんが剣を構えて応戦しようとした直前に、レティシアさんがナノエフェクトを使いました』

「ふむ、それで?」

「次の瞬間、クリスさんの姿が一瞬ブレて、気付けばウサギの首が落ちてました。振るった剣から衝撃波でも出てたのか、背後にあった木々も真っ二つに」


 先程は気付かなかったがウサギの向こうに恐ろしく切断面が綺麗な倒木があった。それも複数。

 何故言われるまで気付かなかったのか。それは単純に距離の問題だ。

 夜営をしていたのは森の中でも多少開けた場所で、ウサギの背後の木は一番近いものでも数十メートルは離れている。

 なので視界に入らなかったのだが……。


「……レティシアはバカなのか? 多分魔術で強化でも施したんだろうけど、ここまで強化してバレない訳──」

「それがちょっと違うのよ……」


 いつの間にか近くにきていたコトノハが会話に加わってきた。


「というと?」

「どうもレティシアちゃん的には軽いアシストのつもりだったみたいなの。あの手慣れた感じからして、日常的にやってたみたいだし」

「なら何故あんなことに……」

「多分だけど、訓練の影響でクリスさんが魔術に適合し過ぎて、過剰に効果が出てしまったんじゃないかしら」

「そういう……。いやでもそれだけじゃレティシアの正体まではバレないんじゃ? 最悪コトノハが強化したって事にすれば──」


 ここまで言ったところで今度はリシアに遮られた。


「今のクリス……距離が近ければ、問題なく魔術で発した声も聞き取れるみたい……」


 リシアの発言をクロエが引き継いで言う。


「あの小動物、耳元で叫んじゃったのよ。「いつも通りにやったはずなのに!?」ってね」


 なるほど。これはもう誤魔化しようがない。完全に現行犯である。

 魔術での会話も肉声同様、個々で声質は全く異なる。なので他者との判別は容易だし、至近距離から聞こえているんじゃどうしよもない。

 これではどんなに鈍いやつでも状況証拠から犯人を推測出来るだろう。


 詰問されるレティシアを横目にそんな会話をしていると、クリスがこちらに向かって歩き出した。

 どうやら向こうも話がついたらしい。

 秘匿魔術とは言え、目の前で意思の疎通を図っていれば気付かれる恐れもあるので、リシアとクロエに目配せして会話を打ち切る。


「大変お見苦しいところお見せしました……」


 先程までの雰囲気を霧散させたクリスが、こちらにくるなり開口一番、謝罪を入れてきた。

 まぁ……正直居たたまれないから、なるべく話を耳に入れない為に雑談してた節はあるよね。

 勿論状況確認という意味合いも大きいが。


「いやそれは全然構わないんだけど……」

「それと昨夜もレティシアがご迷惑をお掛けしてしまったようで……」


 接客業でもしてたのかな? というくらい丁寧な対応をされる。

 そんなに畏まられると逆に──ん? 昨夜?


「クロエ“さん”に暴力を振るったり、コトノハさんに失礼を働いたと本人から聞きました」


 これは……アウトじゃな?


「……えっと、それは要するに、コトノハ達の正体って」


 コトノハが顔をひきつらせながら、半ば答えを確信しつつ尋ねる。


「その件も申し訳無いです。レティシアに事情を聞く過程で……」


 ちょっと、レティシアさん……?

 俺達の視線が一斉に、クリスの肩で小さくなっているお嬢様口調の小動物に突き刺さる。

 レティシアは一瞬だけ僅かに身をこわばらせると、


「……不可抗力ですわ」


 平静を装いながら、そんな言葉を口にした。


 ……こいつ、さては全部ゲロってくれたな!?

 確かに遠くないうちに、ある程度は打ち明けるつもりではいた。が、クリスの身の安全のために伏せておくべき事柄も少なからずあったのだ。

 しかしこの分では、恐らく洗いざらい吐かされている事だろう。


 …………よし、これはもう仕方ないな。


 目には目を、歯には歯を、不可抗力には不可抗力だ。


「クリス、突然で悪いがよく聞いてくれ。実は俺達は、妙な輩に目をつけられているんだ……」


 

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