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新たなる力

「驚くことでもないでしょう? 貴方がそのような姿になれるのも、腕輪の恩恵によるものと推察しますが」


 なんだろう……この認識の齟齬は。まぁこちらは情報が圧倒的に不足しているので適当に合わせて探りを入れるか。


「……予想はしていたが実際に見れば驚きもするさ。俺が無理矢理つけられた忌まわしい枷を、アンタは自ら望んでつけたみたいだしな」

「なるほど、何かの魔術で外せないようにされている訳ですか」


 微かに同情的な目を向けてくる優男。

 あれ? この反応だとあいつのは普通に外せる感じだな?

 これは似て非なるものな予感。

 もうちょい何か情報を引き出したいところだが……。


 ──しかし、その目論みは一瞬で崩れ去った。


「おっとすいません、まだ力を示してもらっている最中でしたね」

「どういう意味よ! あの気持ち悪い生き物ならアタシ達が倒し──」


 クロエがそこまで言った辺りでワームの身体に変化が起こった。

 明らかに絶命しているようにしか見えないにも関わらず、全身の触手が淡い光を放ち始める。


「この魔獣は死の間際に最後の力を振り絞って、全身から魔術を放つんですよ」

 

 ファイナルアタックかよ!! え、これ本気でヤバイな?

 リシアの障壁を張ったところであの数では……。

 ほとんど全体攻撃みたいな感じになるだろうから回避も絶望的。これは詰んだのでは?


「貴方自身も、無事じゃ済まないと思うけど」


 リシアがもっともなことを指摘する。が、


「ご心配痛み入ります。しかし私よりも自身の身を案じるべきでは?」


 あの口振り。何らかの防護策を講じているのは確実だろう。

 まぁ自分で連れてきた魔獣なので当たり前だが。

 俺がこの状況にかなり本気で絶望しかけていると、


『レストさん! あの魔術を分析したところ、リシアさんの障壁強度が3倍くらいになれば完全に防げそうな事がわかりました!』


 いつの間にか側にきていたイロハが追い討ちのような情報を寄越してきた。


「さらに絶望する情報を聞かせてくれてありがとよ」


 俺が投げやりにそう答えるとイロハが敵に聞かれないようにか、声を潜めて食い下がってくる。


『まだ続きがあるんですって! クロエさんとレストさんが化身とやらをしてその姿になったとき、ナノマシン適合が跳ね上がったんですよ!』

「……!」

『もうお分かりですね? 私の計算によれば、リシアさんとその姿になれば……障壁強度が2.5倍程度になります!』

「足りてねえじゃねえか!!!」

『そうなんですよねぇ……気合いと根性でなんとかなりませんかね?』


 まさか異世界にきて機械に根性論を吐かれようとは。

 しかしもう一刻の猶予も無いだろう。触手の光はどんどん強まっており、いつレーザーが放たれても不思議はない。


「クソ! 他に手も無いし、やるだけやってやるよ!」


 そう叫んだところでまさかの時間切れだった。ワームの発光が一層強まる。それと同時にリシアが張ってくれたであろう障壁が目の前に現れた。

 リシアは少し離れた位置に居たため、イロハとの会話が聞こえていなかったのだろう。……そして恐らく、側に寄る時間も無いと判断し、せめて俺たちだけでも助けようと障壁を張ってくれたのだ。


 そんな健気な彼女を守るため、俺は初めて自分から化身を試みる。


 このときの俺には。

 自分の意思だけで化身が使えるのか、とか。クロエと化身をしたままであること、とか。そういった細かいことは全く頭に無かった。が、結果的にそれが事態を打開する鍵となった。


「間に合ってくれよ……!」


 化身によりリシアの姿が消えるのを横目に、俺は祈るような気持ちで障壁を展開する。

 イロハの分析が正しければリシア単体で使うより強化されるらしいが、頼む暇が無かったとはいえ俺が張った障壁で防げるかは正直未知数だ。

 ……そもそも化身した状態のリシアが使っても防げないって話ではあったが。

 

 次の瞬間、視界を焼き尽くす程の光がワームから放たれた。

 しかし特に身体に異常は、ない。どうやらポンコツの分析が間違っていたのか、完全に防ぎ切れたようだ。

 

「あれ? 化身してる??」

「……死ぬかと思ったわ。ってリシア!? 今アタシ達ってどうなってるの?!」

「あー……咄嗟にリシアと化身して障壁張って、みたいな?」

『バッチリ防げましたね! もしや愛の力ですか! というかレストさん、何か新種の生き物みたいになってますね……』


 騒がしい……ってかしばくぞポンコツ。新種の生き物ってなんだよ!

 そこではたと気付く。

 視点が元に戻っている……?

 それに腕は狼の物なのに爪を伸ばせる感覚がある。

 もしや同時に複数と化身したせいで不完全な状態になってしまったのだろうか。そういえばこの状態を出来損ないと呼ばれていたことを思い出す。雑魚と名称が被ってるから半化身みたいな感じにしとくか……。


 そんな思考をしていると突然腕輪が、


『ヴァラヴォルフ形態への移行を確認しました』


 そんなことを抜かしてきた。

 え、なにそれ。初耳なんだが?

  

『キマイラシステム起動』

「待って。ちょっと説明を──」

『警告。この状態は装着者及び従属獣への負担が甚大です。長時間の起動は肉体や作戦行動に深刻な影響を及ぼします』


 システムメッセージのような──いや、それそのものな腕輪の音声がそこで止まる。

 …………。

 危機的状況を脱した途端、山のような謎が生まれたんだが。


「いやはや凄いですね! そんな奥の手を隠していたとは」


 優男が感心したように声をかけてくる。

 そんないいもんじゃないんだよなぁ。誰も状況を理解できてないし。


「レスト、何か普段より強くなった感じがする」

「あ、アタシもそんな気がする」

「……さっきの一方的なメッセージから察するに、恐らくリスキーなパワーアップだなこれ」

「なら利用しない手はないわね! 今のうちにアイツを倒すわよ!!」


 すげぇなこいつ。無鉄砲にも程があんだろ!?

 もう十分に力は示したし、多分引いてくれるからそれ待とうよ……。


「そんな力を隠しているのならもう少し──」


 そこまで聞いたところで俺は全力で駆け出した。

 クロエ……俺が間違ってたよ。 


「いい加減にしやがれ!!」

「……!!」


 一瞬で肉薄した俺は全力で腕を叩き付ける。

 強化された為か、はたまた不意打ちのお陰か。

 優男に見事一撃をくれてやることに成功した。

 まぁ障壁を張っていたのか、妙な抵抗により浅い一撃ではあったが。


「レストも無鉄砲なとこ、あると思う」

「今のは仕方ない。俺も結構頭にきてるしな!」

「まさか手傷を負わされるとは……。ふむ、ここは引いておきますか」


 そう告げると優男は一瞬でこちらの視界から消え失せた。

 ……最初からそうして欲しかった。マジで。


「ちょっとレスト! 逃げられちゃうわよ! 畳み掛けて倒しちゃいなさいよ!!」


 うーんこの向こう見ず。……今は相手にする気力が無いから放っておこう……。


 いや本当に疲れた。もう二度と会いたくないなぁ……。

 多分また向こうからくるのだけど。



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