地中より出でし刺客
「一応力は示したし、敵対するなら容赦しないと忠告したはずなんだがな……」
後者に関してはハッタリに過ぎない上に、向こうとしては願ったりな気もするけど。
しかし親父さんを俺が倒したと理解したなら試す必要など無いだろうに。
「ただの馬鹿力では障害足り得ませんし、奴を倒したのは弱体化したところを不意打ちしたからでしょう? それに、容赦なんて私が望むとでも?」
「そうかよ。しかしその馬鹿力に、ずいぶんと驚いてたように見えたがな」
あわよくば戦闘を回避出来ないかと、往生際悪く指摘する。が、
「えぇ驚きましたよ? ただし、そこにではありません。……私の他にそんな真似が可能な人間がいる。その事実に、少しばかり意表を突かれただけのこと」
そう言って優男は、右腕を前に突き出す。
──次の瞬間、腕が無数の蛇に変化しこちらを威嚇してきた。
うわキモい!? ……じゃなくて! こいつまさか秘儀を!?
「レスト……!」
『レストさん……!』
リシアとイロハが緊迫した声を上げる。
「あれ、特撮っぽい!」
『完全に悪の怪人ですよアレ! でもレストさんはそんな感じしませんよね。……やはり蛇ってのが良くないんでしょうか?』
「この一触即発の空気で、よくまぁそんな無駄口が叩けたな!?」
ちなみにクロエはその間も沈黙を貫いている。
けどその理由はこれ、多分蛇に変わった腕を見てドン引きしてるからだな……めっちゃ毛が逆立ってるし。
「レストの緊張を、和らげようと思って……」
「リシア……」
『そっ、そうですよ! レストさんの為を思えばこそですね!』
若干疑わしい気もするが……リシアの気遣いに癒され少しだけ落ち着く。便乗しようとしたイロハは後でぶっとばす。
「ではそろそろ始めましょうか」
「……!!」
その言葉を皮切りに三体のワームの内、その一体がこちらに向かって突っ込んでくる。
それを回避して周りを見やるとリシアとクロエにも一体づつ向かっているのがわかった。
まぁ混戦になるよりはマシ、か。
「二人とも気を付けろよ!」
そう声をかけて目の前の敵に集中する。
正直ワームの速度はそれほど速くない。リシアとクロエはすばしっこいので早々遅れを取ることはあるまいし、心配する必要はあまり無いだろう。
出来ればちゃっちゃと片付けて援護に向かうくらいの甲斐性を見せたいところだ。
『レストさんファイトー!』
「おまえは応援なんてしてないで状況把握に努めてろ!」
一人上空の安全圏から呑気な声をかけてくるイロハにそう吐き捨てて、振るわれたワームの尻尾を受け流す。
そうして数度相手の攻撃を捌いたところであることに気付く。
こいつ……あんまり強くない?
力は確かに強いし体もデカイ。けど、それだけだ。なんというか動きが単調なのだ。今までやりあった連中はどいつも狡猾さを感じさせる動きをしてきた。しかし、このワームにはそれが無い。
「まぁ楽な分には結構だけどな!!」
ワームが頭で押し潰そうとしてきたところに鋭利な爪でカウンターを仕掛ける。
一閃。
頭を切断されたワームはあっさりと息絶えた。
秘義様々である。クロエのお陰で切断属性が手に入ったのはかなり大きい。骨のない軟体生物相手に打撃属性は、衝撃を吸収されてしまう可能性が高い。
さて分析はひとまず置いてどちらかの救援に、と思ったのだが。
どうやらリシアとクロエの方もほぼ同時に片付けたらしい。
クロエも特に問題なく戦えるようで安心する。初対面時の印象がね……まぁあれは相手が悪かったのだろうが。
しかし存外楽勝だったな。あ、いっそ苦戦した振りをして障害としての落第認定を受けた方が……いや、ダメか。自暴自棄になられて装置を組織に流されたらその時点で終了する。まぁナノマシンの少ない高山なんかに逃げれば俺たちだけは助かるだろうけど……。
「ふむ……苦もなく倒してしまわれましたか。まぁ出来損ない程度に苦戦されたのでは話になりませんが」
どうも今倒したアレは出来損ないだった模様。
道理で弱いわけだよ。
「満足してくれたか?」
「いえ、これからが本番です」
次の瞬間、またしても地面からワームが飛び出してきた。
ただし、先程の倒したやつと比較して一回り以上デカイ上に、触手らしき何かを全身に生やした物が。
頭部についた他より長い二本の触手が、こちらを品定めするように蠢いている。
……わーい出来損ないじゃねーやつだこれー。さっきのは小手調べ的な前哨戦だったのだろう。
てかキモい。正直今すぐ逃げたい。
「現時点でどこまでやれるのか、その力を私に示してください」
「あとで絶対ぶん殴ってやる」
「楽しみにしています」
本当に楽しみな様子でそう告げて、ワームをこちらに差し向けてきた。
正直明らかにヤバイ感じだ。獣と混じったからか、それとも生来の勘の鋭さによる物か。
このまま戦かった場合、恐らく成す術なくやられる──
「クロエ! 俺と化身だ!」
「……! わかったわ!」
ノータイムでクロエが応じる。いつもこれくらい素直なら助かるのだが。
一気に視点が低くなり、視界の隅に猫の前足が見える。この変化はクロエとの化身がしっかり成功したことの証左だ。
「レスト、私は後方から援護する」
リシアはいつもながら話が早くて助かる。恐らく単一の強大な敵を相手にする場合において、現状で最も有効な戦術はこれだ。
クロエは一人では多少心許ない。それは俺も同じことだが強敵相手に互いを守りながらと言うのが何よりキツい。これならその問題を一度に片付けられるって寸法だ。半端な二人より強力な一人の方が勝手がいい。
リシアの方は単独でも化身してない俺やクロエよりは戦闘能力が上だし、集中さえ出来れば攻撃用の魔術が扱えるので後方支援に徹してもらう。我ながら完璧だな!!
「ほう! そんな芸当も可能なのですね」
……なんだこの反応。自身も蛇と秘儀を行ったからこそ腕を変化させることが出来るんじゃないのか……?
ってそんなことより、だ。さしあたってこのヤバそうなワームをなんとかしないと。
さっきの出来損ないのような、力押しばかりの攻撃しかこないなら楽なんだがなぁ。
そんな願いはいつもの如く叶わなかった。
頭部についた一際長い触手の先端。そこに光が集まり、輝きが増していき――
「レスト!!」
咄嗟にリシアが障壁を展開してくれる。そこに間髪入れずワームの放ったレーザーとしか形容出来ない何かが突き刺さる。
障壁により偏向したからか、かん高い音を立ててあらぬ方向に消えていくレーザー。
これ、リシアが間に合わなかったら死んでたのでは?
「……なぁクロエさんや。あれ……避けれそう?」
「……頑張る」
「頑張ってくれ……出来る限り援護はする」
これは本気で不味い。
何が不味いって、初見とは言え回避行動すらまともに取れなかったのが不味い。
障壁でも逸らすことしか出来なかった辺り、食らえば一発でアウトだろう。
回避も相当厳しそうだし俺は障壁を張れないので、防御はリシア頼みだな。
……いや、一応張れないこともないのだ。どこぞの研究所のバリアみたいなものが出来るだけだが。圧倒的強度不足。腕輪が展開してるやつも民間用らしく高が知れてるからなぁ……。
とりあえず、あのレーザーを撃たせない為にも接近戦を試みるしかない、か。どのみち遠距離攻撃はストーンエッジしかないのでそうする以外無いけども。
「クロエ、頭の触手を狙え! 戦うにしても逃げるにしても邪魔すぎる!」
「わかったわ!」
クロエの意思により駆け出す自身の身体。彼我の距離は一瞬で詰まる。
もう間もなく爪が届く──その刹那、唐突に横に跳ねるクロエ。
どうしたと問う暇はなく、そうする意味もすぐに消えた。横目に地中から飛び出したワームの半身が映る。
「こっわ!!」
危うく突き上げられてお陀仏になるとこだったらしい。
「妙な音がしてて嫌な予感がしたのよね……」
ワームはすぐに半身を地中に戻すとまた触手を発光させる。
ただし今度は一本でなく二本を、こちらとリシアに対し別々に向けて。
クソが! リシアは障壁の複数展開は出来ない。離れた事が裏目に! いや、相手は狡猾な魔獣……どちらにせよ似たような状況にされたか。
「リシア! こっちはどうにかするから自分の身を守れ!」
「ん、わかった」
「どうにかってどうするの!? 正直言って避けられるかわかんないわよ!」
「こうするんだよ……!!」
こちらを向いた触手に、予め生成しておいたストーンエッジをぶつけ照準を狂わせる!
その結果、放たれた二筋の光線は片や障壁により、片やストーンエッジにより、その役目を果たすことなく彼方に消えた。
「やるじゃない!」
クロエが珍しく誉めてくる。しかし、
「……全力で当てても触手一本を逸らすのが限界らしい。やっぱ叩き切るしかないな」
「レスト、どうする?」
「あの触手を潰すまで防御に徹しててくれ」
さてどうしたもんかね……。地中攻撃にレーザーと遠近まるで隙がない。どう見ても目に頼ってる感じではないのでブラインドも無効だろうし、さて。
「……クロエ、上から攻めよう」
「それじゃ的にならない……?」
「だな。多分一気に決めようとしてくる。けどピンチはチャンスだからな」
「……?」
「我に秘策あり、ってな」
化身しているクロエには俺の思考が読み取れる。
まぁワームに人語が介せるとは思えないが、万が一優男に妙な指示を出されても困るので口には出さない。
「……わかったわ。行くわよ!」
そう言い放ち近くの木を三角飛びの要領で足場にし、上空から急襲する!
それを迎撃するべくワームの触手が光り、地中から飛び出した半身が迫る。
「障壁展開!」
勿論俺の障壁では何も防げない。レーザーはおろか、ワームの物理攻撃の前にも全くの無力だろう。
しかし、これは防御のための代物ではない。
俺の張った障壁を足場にクロエが再度跳躍する!
地中攻撃をスレスレで回避して、攻撃を続行する。
しかしそれに一切動じることなくレーザーを放とうとするワーム。
「リシア!!」
「任せて」
頭部に肉薄した俺たちを狙うレーザーは、リシアの手によって逸らされた。
最早こちらを阻むものは何もない!
「これで終わりよ!!」
猫の爪というにはあまりに凶悪なそれが、ワームの長い触手を双方とも切り裂く。そして返す刃の如く空中で回転しながら二撃目を首元に入れる。だが、
「やっぱり無理か」
予想できてはいたが、やはり出来損ないのように一撃で、と言うわけにはいかないらしい。
ワームに蹴りを入れて飛び退きながらクロエが言う。
「みたいね……悔しいけど多分、今のアタシたちじゃ……」
「いや、リシアの魔術なら通るかも知れない」
触手を破壊した今、リシアは障壁の展開にリソースを割く必要がない。
「任せて」
そう静かに告げて、攻撃魔術を行使するリシア。
ワームの周辺の空間が歪み、その全身に過負荷がかかっているのが見てとれる。
「……とんでもないわね。フィジカルだけでも大概なのに」
「まぁ本人的には満足してないみたいだけどな。攻撃に使えるレベルのものは念動系や重力系に偏ってるらしいし、何より集中しないと使えないのを嘆いてたよ」
「何もないアタシたちよりはマシでしょ」
ごもっともである。一応、ストーンエッジがあると抗弁することは出来なくもない。が、あれと比較されてもたまらないので無言で返す。
「……えっと、まぁアンタの魔術にも助けられたし? 何もないってのは言い過ぎだったわね。少しは褒めてあげなくもないわよ?」
「……」
しまった。化身中だから筒抜けだった……。
そんな下らないやりとりをしているとワームが魔術による負荷に耐えかねて、地響きを立てながら崩れ落ちた。
その姿を見て思う。
あれ? なんか既視感あるな。……あ、リシアにのされた時の親父さんだわ。
今考えるとあれは念動と重力の合わせ技だったことがわかる。
まぁまさか押し潰す訳にもいかんから回転を加えたのだろうが、あれは本当に無慈悲な一撃だった……。
「え、何その記憶……」
そして俺の回想を覗いてドン引きするクロエ。
案ずるな。当時の俺もそんな感じだったよ。
「レスト、やったよ」
「あぁ……なんとかなったな」
「さて、後はあの妙な人間を片付けておしまいよ!」
まぁ俺も終始優男で通してるので言えた義理じゃないが、妙な人間て。
しかしそんな失礼な物言いに対して当の本人は何の反応も返さない。
と思ったがクロエやリシアの発言は普通の人間には──
「妙な人間とは酷いなぁ……」
「なっ!!」
「驚きましたか? 実は私も、貴方と同様にコレを身に付けているんですよ」
そう言って左手の袖を捲る。そこには俺のつけている物に酷似した腕輪が存在していた。
気付いたら無駄に長くなってた。




