旅立ち
親父さんが腰痛キャラにされてから三日が過ぎた。その間に旅の為の準備を済ませた俺は今、離れで出発前の最終確認をしている。
水や食料に医療品の類いに衣類等、一部は魔術で代用できるものもあるが、それだけを当てにするのは危険だろう。
そういうわけで可能な限り詰め込んだ。荷に関しての憂いはない。まぁ違うところでやらかしたのだが……
俺はすっかり失念していた。特殊空間は魔術でなくナノエフェクトによる代物だということを……
二日前の出来事を思い返す。
「こんなに沢山は持てないだろう? 食料も日持ちするとは言え食べきれないと思うし」
俺が渡した必要なもののリストを眺めて呆れるイブキさん。
確かに化身しようがイロハに積もうが無理な量ではある。
「いえ、特殊空間内に保存出来るので」
俺は何も考えずにそう答えてしまった。何故馬鹿正直に伝えてしまうのか。まぁこの状況で誤魔化して大量の品を貰う方法は今でも思い付かないのだけど……
「ふむ……特殊空間、ね。金狐族にもそんな芸当は不可能なんだけど、いつも付けてる遺物らしき腕輪かイロハ君の力かな?」
「あっ……」
「とても興味深い。本来なら根掘り葉掘り聞きたいとこだけど……今は聞かないでおいてあげよう」
意外にも一切追求はされなかった。
逆に怪しく思える。いや今更裏切るも何も無いだろうが。
色々と問題のある人だが義理堅くもあるこの狐は、里に敵対でもしない限りこちらの味方でいてくれるとは思う。
それに滞在してる間世話になりっぱなしだったしな……
そう考えて腕輪について話そうとするもイブキさんが首を振る。
「そうだね。レスト君が本当の意味で僕を信頼出来ると判断した時に教えて貰おうかな」
「……それでいいんですか?」
「恩に着せるやり方って本当は好きじゃないんだよねぇ」
「変なとこで真面目ですね……」
「酷い!! まぁそういう訳だからいつか君から話してくれると嬉しいな」
そう言って笑うイブキさんには余裕のようなものが感じられた。
しかし一線引いてたのはしっかりバレていたか。
出会って日も浅いので仕方ない部分もあるが大部分は本来の人間性によるものなのは間違いない。やれやれだ……
まぁそんな感じで一応伏せていた腕輪と俺の人間性が露見した。いやあの食えない狐の事だ……恐らく想定はしていただろう。しかし確信を与えてしまったのが不味い。
今回は友好的な相手だから良かったものの、これが敵対的な存在だったりすると非常に面倒な事態になりかねない。
この辺、俺のパーティメンバーは欠片も頼りにならないので本当に気を付けねば……
そんな風に地味に酷いことを考えていると人化状態のコトノハが様子を見に来た。
「やっほーレストさん、支度は終わったかしら?」
「問題ないかな。もういつでも発てる」
俺は腕輪を触りながら答える。因みにイブキさんにバレたのでもう腕輪の件は隠していない。
そしてとても重要な事だが、コトノハはやっと普段の調子に戻ってくれた。
例の件を自分の中でどう処理したのかは分からないが以前の様な気安い感じだ。
顔を合わせる度に赤面されたのでは、やりにくくて仕方なかったので正直助かる。
「寂しくなるわねぇ。せめて祭祀まで居ればいいのに」
「それでなくとも森では俺のせいで足止め食らってたからな……」
これ以上リシアにも里にも迷惑はかけられん。
それを聞いたコトノハは意外そうな顔を俺に向ける。
「白狼族の使命がそんなに大事?」
なるほど、そう捉えたか。
しかしそれは違う。俺は正直使命には関心がない。
「いいや、大事なのは使命でなくリシアだよ。だから俺に出来ることはしてあげたい。あとこの里にもこれ以上厄介になれないしな」
何しろ俺は指名手配と言うべきか、お尋ね物の身の上だ。
万が一匿っていたのが人間にバレた場合確実に迷惑がかかる。それを伝えたところまだ納得がいかないのかコトノハが言い募る。
「リシアちゃんの為ってのはカッコよくていいと思うけど、匿ってた件については別に平気じゃないかしら……」
さらっと誉められたのは嬉しい。が、どういう意味だ?
「だってほら……道場には……」
「……それもそうか」
よく考えなくともあんなデカイ狼を隠してる時点でアレか。
まさか「ただの獣です」が通るとは思えんし。
「ってかうっかり流しかけたが、祭祀って部外者が居ていいわけ?」
「初日はただのお祭りだから平気よ?」
そういうタイプか。次の日に関係者だけで儀式を執り行ったりするのだろう。
「まぁ緋竜とやらも気になるし次回を楽しみにしてるよ」
「残念。一緒に踊りたかったなぁ……あ、踊ってる最中に尻尾は触っちゃ嫌よ?」
「何でコトノハと踊ることとセクハラすることが確定事項になってんだ」
「この前の件を思えば絶対触ってくると思うのよねぇ……衆人環視の中腰砕けにされちゃいそう!」
こいつ……立ち直ったのは結構だが自分にダメージを負わせた件を早くもネタにしてきやがった! 転んでもタダで起きない辺りにシンパシーを覚えるがこれで弄り回されるのはよろしくない。
特にリシアとクロエの前でやられるとそれだけで惨事だ。
「コトノハ……命が惜しければそれをネタにするのはよせ」
「んー? どういう意味かしら?」
「そのままだ。さもなくば……」
「さもなくば?」
「二人纏めてリシアに殺されるぞ」
「……そうね。コトノハも命は惜しいからやめとくわ」
賢明で何よりだ。これは脅しではない。厳然たる事実なのだ。
どうせイチャイチャしているなどと難癖をつけられるに決まっているし、いくら否定したところで聞く耳を持つまい。
普段は物分かりがいいのに何故なのか……独占欲かね。
「レスト。確認は終わった?」
そう声をかけてきたのは人化したリシア。
危なかった……あと一歩止めるのが遅ければ……
自身の機転に感謝しながら返事をする。
「おう、もういつでも行けるぞ」
それを聞いたリシアが腕にまとわりついてくる。
幸せを感じる瞬間。
「なら早く行こ? クロエも待ってるよ!」
「わかったわかった! だから引っ張るな」
「あの、リシアちゃん? お姉ちゃんもいるんだけど……」
一瞬で忘れ去られ哀愁を漂わせるコトノハ。
それに対するリシアの返答は追い討ちと呼ぶべきものだった。
「あぁ、コトノハ。いたんだ」
「ちょっとレストさん! 今の聞いた!? お姉ちゃんに対してあんまりな仕打ちだと思うの!」
そう抗議の声をあげる自称お姉ちゃん。
確かに酷い。あんまりだ。しかし俺にはリシアを責めることが出来ない……
何故ならリシアが現れた瞬間俺もコトノハの事を忘れたから。
「あーうん、まぁそんなこともあるさ」
「無いわよ!!」
俺も無いと思うがあったんだから仕方ない。
憤慨するコトノハとそれを意に介さぬリシアを連れて村の入口に向かう。すると人化したクロエとイロハが呼んでくる。
「遅いわよレスト! 早くしないと日が暮れちゃうじゃない!!」
『あぁ……ついにこの日がきてしまったんですね……さようなら、安全が保証された我が家……さようなら、怠惰な日々……』
……俺のパーティはほんと騒がしいなぁ。てかイロハは特に呼んでないな。これ嘆いてるだけだ。めどいから内容には突っ込まない。
「おまえは少し落ち着け」
そう言って気がはやる黒猫少女の頭をわしわしと撫でる。
すると喉を鳴らし即座に大人しくなった。
「お、落ち着いてるわよ」
「どこがだ。そんな感じだとすぐバテるぞ」
やれやれ先が思いやられる……
そんな感想を抱いていたらイブキさんと親父さんがやってきた。
「ついにこの日が来たねぇ……次に来たときはゲームとやらを僕ともしようね! あ、緋竜の件よろしくね!」
とても軽いノリで声をかけてくる里長であるはずのイブキさん。
何で緋竜の件がオマケみたいになってんだよ……
俺が呆れを隠さずじと目で眺めていると、
「我が不甲斐ないばかりに済まぬな……娘のこと、よろしく頼む」
そう親父さんが申し訳無さそうに告げてきた。
今日ばかりはその巨体が嘘のように小さく見える。
余程堪えてるのだろう……この人本当に娘を溺愛してるからなぁ。
「はい、俺が全力でサポートします! 親父さんはゆっくり療養してください」
「うむ、信じている」
俺が出来る限り安心させようと力強く応えると、少し親父さんの表情が和らいだ気がした。……因みに療養の部分で軽くひきつったのは見なかったことにする。
しかしこれで親父さんやコトノハ達ともしばしの別れで話す機会も当分は無いだろう。そう考えると今のうちに伝えるべき事を伝えておかないとな……なおリシアは特にそういうのは無いらしい。人と獣の差……か?
「親父さん、今まで足を引っ張ってすいませんでした。あと面倒を見てくれて本当に感謝しています」
色んな打算があったとはいえ俺が今無事でいられるのは全てこの狼のお陰だ。その感謝を改めて伝えると親父さんは一瞬ポカンとしたかと思えば何かに気付いたように気まずそうな雰囲気を出す。
え、なにその反応。ここは感激してくれるとこでは?
俺が訝しんでいるとイブキさんが笑いを堪えながら割り込んでくる。
「そうだ忘れるところだったよ! はい、これ」
そう言って手渡された物はインカムのような物だった。
「これは……?」
「遠方と連絡が取れる遺物だね。金狐族はそれで他の友好的な種族とやり取りしてた訳」
「なるほど、つまり?」
「いつでも話せるね!」
くそがぁ!! 当分会わないからこそ微妙にこっ恥ずかしい台詞を吐いたんだぞこっちは……!!!
リシアもこれ知ってたから特に親父さんと話してなかったのかよ!!
恐らく知らぬは俺とイロハだけだったと思われる。
見れば金狐親子は既に爆笑しているし他の面子は憐れみの表情を浮かべている。
やだこれ死にたい……
ってかこんな便利グッズあったのかよ! 底の知れない感じはまさに狐といったところか。
「一応貴重品だから無くさないようにねー」
「一応……」
「予備はあと80コくらいしかないから」
山ほどあるじゃねえか!! あ、いや……そうか。遺物ってことは新たに補充できる保証がないのか。
そう納得して丁重に受けとる。
「……お借りします」
「いや別にあげるけどね? うちの里の人間は全員持ってるし。君達がきたときに門番が里の皆に伝えたのもそれだしね?」
希少なのかそうでないのかはっきりしろ!
てかあれ魔術じゃなかったのかよ……いや遺物ってことはナノエフェクトの産物だから魔術と言えなくもない。が、釈然としない。
しかしこれなら特殊空間についても知ってそうなものだが……まぁいいか。
「……では、行ってきます」
「皆、気を付けてねー」
コトノハの呑気な声を聞きながらの出発。
何故か里から出る前に疲労困憊にされたが……それは努めて気にせず、俺達は緋竜の住み処を目指して歩き出した。
そいやマナ・ブレイズって名前でTwitterやってるので良ければ見に来てね(リンクは貼らない精神)
まぁ小説の話なんてほっとんどしないんですけどね!!
因みに好意的な感想があった場合露骨に更新ペースに影響します。割とガチで。一人の要望で復帰したくらいだからな……




