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天秤にかけられたもの

「すまないが我はとある事情で里に留まる」


 全員が集まったのを見計らって親父さんが口火を切る。

 いきなりぶっ込んできたなぁ……さて。

 その発言を聞いた俺の愉快な旅仲間はというと、案の定衝撃を受けている。やっぱ皆頼りすぎてたんだよなぁ……いやあっちが主人公で良くない? って感じの強さだったし仕方ない面もあるが。


「事情って、なに?」


 リシアが当然の疑問を口にする。

 親父さんは恐らくイブキさんが考えたものである理由を話そうとしたのだろう。が、出来なかった。


「うむ、それがだな……我は「リベちゃんったら変な体勢で本を読んでたから腰やっちゃって、歩くのも辛いみたいでさぁ」


 イブキさんが割り込んだから。

 あの狐……全力で茶化しにきやがった……!!

 イブキさんはとても愉しげでコトノハは吹き出すのを堪えている。リシア達はまさかの腰痛発言で機能停止。


「おい貴様!! 話と違うぞ!!!」


 親父さんが声を荒げる。あの反応から察するに打ち合わせの時はもっとまともな理由にする手筈だったんだろう。


「んー? まるでこれが嘘みたいな言い草だね? もしそうであるなら本当の事を話すかい?」

「……!!」


 うわぁ……これは酷い。

 数度の物理的制裁の報復も兼ねてそうだな。

 迂闊なことを言うなら真実をバラすと脅している……


「いや……そう。我は腰が痛くてな……すまんが旅に同行できそうにない……」


 そう言う親父さんからは闇のオーラが放たれている。

 見ようによっては使命を遂行できない事に忸怩たる思いを抱えてるようだ。

 そんな親父さんにリシアが気遣わしげな声をかける。


「父さん……その、ゆっくり療養してね?」


 心配気な娘を見てさらに項垂れる親父さん。でも絶対あれ腰痛キャラにされたせいなんだよなぁ……

 あの感じは怒りとやるせなさによるものだろう。


「いやー歳には敵わないねぇ! あの病気なんて言ったかな?」

「ヘルニアよ父様」


 可笑しくてたまらない様子のイブキさんにコトノハが補足する。こいつらは確実にまともな死に方せんな。


「覚えておれよ……!!」


 怖い。殺意の波動に目覚めてんぞ……

 しかし自身の沽券より娘に不安を与えない事を優先する点は凄いと思う。いや腰の心配はされたけど。


「あれ? これってお気楽旅行から常世への旅路に変わったんじゃないの?」


 リシアに続いて再起動したクロエがそんな事を抜かす。

 どんだけ親父さんを頼りにしてんだよ。そしてどんだけ俺やリシアを頼りにしてないんだよ。イロハは確かに頼りないけども! 放り出してやろうかこいつ。


『レストさん。これって道中魔獣が出た場合……』

「俺らでやるしかないだろうな」

『ですよねー!!』

「諦めろ……」

『んー、でもレストさんはあまり驚いてませんね?』


 ちっ……妙なところで鋭いやつめ。普段はポンコツの癖に。

 面倒なので適当に煙に巻きにかかる。


「それよりナノエフェクトで周囲に魔獣がいた場合反応するもんとかねーのか」

『あ、そうですね。手当たり次第入れてたので使えそうなの見繕っておきます』

「頼むから整理して」


 大長編の青狸みたいになる展開しか見えない。例え他人からしたら乱雑に置かれてるように見えても構わんが本人だけはちゃんと把握しといてくれ……


「って訳でリベちゃんにはもう頼れない。当然これからは大変になるだろうし、準備は入念にね! 入り用な物があればこっちで用意するからさ」


 里長みたいなこと言ってる。


「里長みたいなこと言ってる」

「……レスト君、今思ったことそのまま口にしなかった?」

「ははは、まさか」

「まぁ自分でもそう思ったんだけどね?」


 おい。ほんと大丈夫かこの里……

 やはり里長を変えた方がいいと思う。可能な限り速やかに。


「まぁいいですけど。じゃあ後で必要なものをまとめておきます」

「うん、了解。ところで次の目的地とかは決めてるのかい?」

「いえ全く」


 その辺はイロハに調べさせようと思っている。

 恐らく魔獣が多いところや何らかの魔術ーー即ちナノエフェクトを発している場所をしらみ潰しにとなるだろう。


「ふむ……ならついでで構わないから、ちょっとしたお使いを頼めないかな?」

「嫌です」

「ありがとう。それで……ってこの流れで断られた!?」


 珍しく衝撃を受けているイブキさん。

 しまった。反射的につい本音が……

 しかしほんとに珍しいな。物理的衝撃ならいつも受けているのだが。


「冗談です。それで何をすればいいんですか?」

「真に迫ってた気がするんだけど……まぁいいや。えっとね……実は黒猫族の他にも連絡が途絶えてる種族がいてね」

「あぁ……様子を見てこいってことですね。わかりました。狸とかですか?」


 いつか親父さんとの話に出たので何の気なしに出た言葉。

 しかしそれに対する反応は劇的だった。


「は? いやあんな奴等と連絡なんて取るはずないし、野垂れ死んでても一向に構わないんだけど」


 あ、これアカン。地雷踏んだ……

 キャラ変わってるんだが。どんだけ仲悪いんだよ……


「あんな頭の堅い連中は消えた方がいいんだよ。居所が分かるならこの前の冒険者にでも教えたいくらいだよ」


 そう憤慨する狐に里長らしさは微塵もなかった。

 後でリシアに各種族間の関係を聞こう……


「イブキさん……失言は謝りますからその辺で……」

「おっと……取り乱してすまないね。レスト君はまぁ知らないんだから無理もない事だけど、今後この里でクソ狸の話はやめといた方がいい」


 そう諭してくるイブキさんの表情はまだ少しぎこちない。

 普段は完璧なポーカーフェイスなのに。余程因縁があるんだな……この里という発言から察するに種族全体で敵対してるのだろう。


「それでどんな種族なんですかね?」

「うん、緋竜族って言うんだけど……」 

「竜……! この世界には竜が実在するんですね!!」

「おぉぅ……いつにないテンションだね」


 ファンタジー的だしもしやと思ってはいたが……これは凄く楽しみだ!

 イブキさんが若干引いてる気もしたが構わない。厨二と竜は切っても切れない関係にある。


「えっと……彼らの住み処はちょっと遠いんだけど頼まれてくれるかい?」

「お任せください。必ずや吉報をお持ち致します!!」

「突っ込み以外でもこんなにテンション高くなれるんだねぇ」


 イブキさんが何かしみじみと言っている。

 いかん……今度は俺が取り乱した。


「すいません……竜は大好きなもので」

「みたいだねぇ。まぁ気兼ねなく頼めそうで願ったりだけどね」


 そう苦笑するイブキさんに俺も乾いた笑いを返しているとジト目を向ける二匹の仲間の姿が目に映る。


「要警戒……」

「行く先々で女を増やすタイプね。アンタそーゆー話好きだったもんね」

「待って。そういうのちゃうねん。男のロマンっていうか憧れ? 竜ってカッコいいし!!」


 そう弁明するもパタンと耳を伏せるリシアとクロエ。

 クソが! 正しく聞く耳を持ってくれない!!


「両手に花で楽しそうだねぇ……あ、場所は後で地図を渡すからね」


 そんな感じでリシア曰くのぶりーふぃんぐは終了した。


次回は旅立ち

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