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魔獣という存在

「リベちゃんの件だけどさ……ちょっと本気で不味いみたいなんだよねぇ」


 大事な話があるからとイブキさんに呼び出され、以前冒険者と話していた部屋に一人やってきた俺は前置き無しにとんでもない事を聞かされた。


「……!! それは封印のせいで命が危ない……とかですか?」

「いや驚かせてすまない。命に別状は無いんだ」


 それを聞いて安心しかけるもすぐに気を引き締める。

 いつもの場所でなくわざわざ俺だけを呼んで話をしている意味。それにイブキさんの表情は常になく険しいまま。 


「けど深刻な事態ではある、と」

「うん……封印の解除がどうにもならなくてさ。もう旅は無理だろうね」

「……具体的にはどんな状態なんですか?」


 そう尋ねる俺にイブキさんは全く別の話を始める。


「レスト君は魔獣がどうやって生まれるか、知ってるかい?」

「以前リシアに魔獣は普通の獣が魔力過多で、自我を失い凶暴化した存在と教わりました」

「そうだね。それが一般的な認識だった。しかし最近分かったことだが、どうもそうじゃないらしい」

「……」

「魔獣ってのはね……特定の魔術を受けて変異した存在みたいなんだよ」


 なんだろう……ここに呼ばれた時点でイヤな予感はしていたが、それが今さらに強まっていくのを感じる。

 俺のそんな懸念を知ってか知らずか、イブキさんが続ける。


「さて次の質問だ。僕やリベちゃんと普通の獣の違いは分かるかい?」


 問われて初めて明確な定義が分からないことに気付く。

 

「……知能が高いことと魔術を扱えること、ですかね」

「その通り。実は僕らってね、その点以外普通の獣と何も変わらないんだ」


 もっと他に俺の知らない相違点があると勝手に思っていたが……その二つだけらしい。体の大きさとかは……いや、それもこの世界では普通の可能性があるな。それよりも……


「つまり……条件次第ではリシアやクロエも魔獣になると?」

「魔術的素養のお陰で普通はありえないけどね」


 それがあるせいで受け付けないらしい。抗体のようなものだろうか。


「では親父さんは……」

「封印のせいでもうほとんど魔術が扱えない。これじゃ図体が大きいだけの多少賢い獣でしかないよ。つまり条件が整えばすぐにでも魔獣になる恐れがある」


 酷い言い草だが事実そうなのだろう……いやそれにしたってもっと他に言い回しがあったように思うが。


「確かにそんな状態では旅なんて不可能ですね……」

「ただの旅ならまだ打つ手はあったんだけどね。しかし君らの旅は使命がある。故に必ず遺跡に近付かなければならない」


 ……? 敵の襲撃でなく遺跡の存在自体を懸念している?


「一部の遺跡は特定の魔術を発している事があってね。そのせいで周辺に魔獣が氾濫しやすいんだ。お陰で見付けやすかったりもするらしいけどね」


 そうか……リシアと出会ったあの森も遺跡のせいで。

 って待てよ? 遺跡が魔術を発してそれを無抵抗に受けると魔獣になるなら。


「つまり親父さんはもう……」

「使命の続行は事実上不可能だろうね。現状では外的要因で遺跡の発する魔術を防ぐ手立ては無い」

「封印がどうにもならない以上仕方ないですね……」

「それに仮に遺跡に近付かなくともだ。もしも敵対する集団が魔獣にする何らかの知識や手段を持っていた場合」

「最悪親父さんと戦う羽目になる、と」


 なるほど。これでは道中の護衛すら頼めそうにない。親父さんが魔獣になった場合……確実に全滅する。そのリスクを押してさらに親父さんを危険に晒して、となるとあまりにも割に合わない。これは完全にお助けキャラ離脱の流れだな……


「そういう訳で旅は三人……いやイロハ君も合わせて四人でってことになるね」

「わかりました……ところで何故俺だけにその話を?」


 全員に聞かせるべきではと思うが……

 それに対する返答は予想だにしないものだった。


「リベちゃんがどうしても娘に心配をかけられん! って聞かなくてね……」

「えぇ……」


 親父さん……封印受けたこと黙ってた咎で散々折檻されたのにアンタ。


「まぁ本人がどうしてもって言うから意を汲んであげようと思ってね。ただレスト君には一応伝えておくよ。僕の独断だけど」

「親父さんの許可は取ってないんですか……」

「うん。だからここだけの話、だよ」


 いたずらっぽく笑うイブキさんを前に俺は溜め息を一つこぼす。また面倒なものを抱えさせられた気がする……


「この情報をどうするかは君に任せるよ。僕はリベちゃんのために適当な理由を話すつもりでいる。もし真実を打ち明けるなら里からある程度離れたタイミングでね」

「俺は何も聞いてません」

「なるほど。ならそういうことにしておこうか」


 後でバラしたら最悪俺まで怒られるわ! 親父さんの気持ちはわからなくもない。が、流石に巻き添えはお断りだ。


「じゃあ話は終わり! 後でいつもの場所で僕の作った完璧なカバーストーリーを聞かせてあげるね」

「わかりました。期待せずに楽しみにしてます。では失礼しますね」

「わぁ辛辣。自信作なのになぁ」




「レスト、何の話だったの?」


 離れに戻るとリシアが肩に飛び乗ってきた。

 俺は頭を撫でながら答える。


「一度俺と二人で話してみたかっただけとさ」

「それだけ?」

「拍子抜けだったよ」


 戻る途中に考えた理由を話す。今知れば一悶着あるだろうし。


「それより数日後には出発なのよね! ずっと一人旅だったから楽しみだわ!!」


 そんなことを抜かしながらクロエがリシアとは逆側の肩に飛び乗ってくる。いや待て、二匹は普通に重い……!


「まるでピクニックだな……」


 某隊長のような発言をしながら二匹を床に降ろす。


「どういう意味よ!!」

「そのままの意味だアホ。魔獣に加えて敵対する人間や他にも色んな苦労があるぞ。おまえも一人で旅してたならわかるだろうに」

「別に平気よ。リシアのお父様ってすっごく強いんでしょ? それにアタシたちだってそれなりには戦える訳だし!」


 ……なるほど。楽観的な理由はそれか。ならば何も言うまい。遠からず現実を知るのだから。


「ちょっとレスト。その愚か者を眺める慈愛に満ちた目をやめないとアタシの爪の鋭さを思い知ることになるわよ」

「出会った瞬間知る羽目になったのでもう結構です」


 そんな下らないやり取りをしているとイロハが人の頭に着陸してきた。


『ついに旅立ちの時が来るんですね……私正直ここから出たくないんですが。出来ればこの安住の地にパーツを埋めたい!』

「そうか。任せろ。」


 そう言って腕を変化させる。するとイロハは全力で俺から距離を取りつつ言い募る。


『ちょっと!? 何で今すぐみたいな流れになってるんですかすいません許してください冗談です!』

「次はないからな」

『怖っ!!』


 やれやれだ。この先に不安しかない……親父さんがいなくなる以上俺がこの集団をまとめなければいけない訳で。

 あ、俺もここから出たくなくなってきた……


「そろそろ時間。今からぶりーふぃんぐ、だね!」

「なんかそれカッコいいわね!」

「リシア……覚えたての言葉を意気揚々と使うのはよせ。クロエもお子様発言やめろ」


 そう突っ込みながら全員ですっかりお馴染みとなった道場へと向かう。今回はすんなり終わりますように……

 そんな一切期待できない願いを胸に俺は道場の扉に手をかけた。

次の次から三章開幕だ!

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