選択の余地のない選択肢
予想外の告白を受けた結果、その相手を放り投げるというあり得ない失態を犯した俺はーーそれはもう滅茶苦茶に怒られた。
いや怒る気持ちは分かる。実際アレは無かったと思う。けど俺にも言い分はある。
森で助けた時の事だが俺とクロエは危機的状況で、仕方なく化身を使うという流れだった。つまり最適化が発生する前に好意を持たれるような時間が存在しない。
それにこいつは最適化されてから頼んでも全然触れさせてくれなかったし、どうも距離を置かれていたように思う。元々好かれていて、さらに好意を植え付けられたら始終べったりになってもおかしくないと思うのだが……。
特殊な状態故に、本人も態度を決めかねていたのは想像に難くないが、それでもこの展開を予測しろというのは無理がある話だろう。
もちろん最適化が無くとも嫌われてはいないのは分かっていたが、解けた瞬間告白というのはあまりに想定外過ぎる。だから驚愕に見舞われるのも仕方ないはずだ。
説教が一通り終わった後にそんな事を必死に訴えていたら、俺とクロエ以外の全員がいつの間にか消えていた。
全然気付かなかった。もしやこれは、後は若い二人で的な対応なんだろうか……。
クロエも気付いてなかったらしく、「何で誰もいないの!?」と驚いている。
まぁ正直今からする会話は、どう考えても周りに誰もいない方が都合がいいので、これは結果オーライだなと無理矢理納得して、俺はクロエに問いかける。
「それでな……今言った通り告白されるような心当たりがまるで無いんだが、理由を聞かせてくれるか?」
「それは……。…………れよ」
「え?」
「………惚れよ」
「いや、すまん。マジで聞き取れな「一目惚れって言ってんのよ! 何か文句でもある訳!?」
「無いです。本当にすいませんでした」
何度も聞き返した事により、先刻の説教以上に物凄い剣幕で怒鳴られ、反射的に謝罪する俺。
いや難聴系ではないのだ。あれが実際にはクソみたいに役に立たないのはこの前身を以て知ったし。
単純に声が小さ過ぎて聞こえなかったんだよなぁ……。恥ずかしいのは分かるんだけども。
というかだ。まさか過ぎる理由が判明した。確かにそれなら一応説明がつくが……。
「……アタシにはあの時のレストが、危ないところを助けてくれた王子様みたいに見えたの。一応アタシは姫だった訳だし、昔はそういうのに憧れてたのよ。理由としてはそんなとこ」
クロエが観念したようにため息を吐きながら顔を逸らす。
これまた予想外に乙女チックな思考回路だ……。
でも似合わないなんて言ったら、多分キレると思う。
「じゃあ、あのツンデレみたいな行動の数々は…… ?」
「そのつんでれってのが何かは知らないけど、アタシとしては魔術の影響を受けた状態で何かを、まして好きかもしれない相手への態度を決めるだなんて耐えられなかった。アタシの事はアタシが決める、何物にもそれに干渉させる気は無いわ」
今度は先程と異なり、しっかりこちらの目を見返して力強く言ってくる。
この発言はとてもクロエらしいと思える。少なくともさっきの物よりはずっと。
「俺が撫でようとしたら抵抗してたのも……」
「ただでさえ好きって気持ちを抑えるのに苦労してた所でそんな事されたら、治る前に告白しちゃったかもしれないでしょ! ……そしたらアンタ、どういう返事をした?」
「それは……」
間違いなく受け入れないだろう。リシアの存在以前に、それは術の最適化のせいだからーーそう言って、クロエの気持ちを否定したはずだ。
「そういう理由もあって、適度に距離を取らせて貰ったの。そして最適化の効果が消えて確信出来た。そんな下らない物の影響が無くったって、アタシはレストが好き。これで言いたい事は全部よ。……レストの答え、聞かせてくれる?」
迷いのない瞳で見つめられ、重大な決断を迫られる。
何しろ俺にはリシアがいるのだ。ここでクロエを受け入れれば、確実に惨劇の幕が上がるだろう。
仮にそうならなくても、単純に不義理でありどちらに対してもーーそこまで考えて、何故ここにリシアがいないのかという疑問が浮かぶ。
あのリシアが、俺に告白なんて真似をしたクロエを放置してどこかへ行く?
ありえない。本来なら既に第三次大戦が始まっているはずなのだ。
これはまだ、俺が知らない何かがあるはず……!
自身の考えに確証を得るため、答えとは別の事を口にする。
「クロエ、その前にまだ聞きたいことがある。お前、リシアと一体何を話した?」
俺がそう問うと、クロエは仕方ないという感じに、リシアとのこれまでの経緯を話し出す。
「最初に離れでやり合った後、まず不戦条約が結ばれたわ」
「それは何となく察してたが、その割には次の日微妙に煽られてたような……」
「まぁその時は本当に仲良くなった訳じゃ無かったし、仕方ないわよ」
その時は、ね。
つまり今は本当に仲良くなっているらしい。
そうなったきっかけはまぁ、一つしかないだろう。
「打ち解けたのはやっぱり訓練を始めてからか」
「そう。あの訓練は、アタシがリシアに頼み込んだの。自身の過去を話して、復讐の為の力が欲しいってね」
「よくリシアは許可したなそれ……」
「まぁ最初は渋ってたんだけど、無力で返り討ちにされるくらいならって、協力してくれる事になったの。後これは予想だけど、アタシの境遇に思うところがあったんでしょうね」
「…………」
「そんな感じで訓練してる内に色々話してたら、アタシが最適化による影響でなくレストを好きって事がバレちゃって」
「まぁクロエは嘘が下手だしな……」
「うるっさいわね! リシアにも言われたわよ!! それから尻尾の制御も訓練して、多少はマシになったんだから」
「そういや尻尾の動きが少なくなってたな」
「えぇ、訓練の成果よ! ってそれは今はいいわ。それでバレた時の事だけど、まぁ大変だったわ……。殺されるかと思ったし」
……どうやら既に第三次大戦は勃発していたらしい。
それを聞いて思う事はたった一つーー巻き込まれなくてよかったーーこれに尽きる。
「それで、際どく生き延びたクロエはどうした訳?」
「アンタね……。まぁ事実だからいいけど」
事実なのかよ……。
半分冗談だったんだが、恐らく壮絶なバトルがあったのだと思われる。
「うん、俺が悪かった」
「本当にね。で、殺気混じりの質問を数度されて、アタシが本気で悩んでる事を察してくれたのか、リシアがある提案をしてきたの」
「それは?」
「もし最適化が解けて、それでも本気でレストが好きならその場で告白しろって。その結果受け入れられたなら、人化するのも許可するってね」
……リシアさん、何でそゆこと勝手に決めてしまうん。
そこで俺は思い出す。そういや未だに10割所有してる件についてリシアと話してねえ……!
これは早急に対策を練らねば……。
そんな思考をしている俺を他所に、クロエは話し続ける。
「って訳だからリシアの事は気にせず、レストの本心を教えて欲しいの」
正直断りたい気持ちが大きい。ハーレムは面倒だし……。
ただ断るとこいつは、一人で復讐に向かいかねないという懸念がある。
やはり首に鈴をつけるために受けるしかないだろう。そこまで考えてリシアの狙いも恐らくここにあると気付く。あんな姉を持っただけはあるという事か……。
「…………まぁ、クロエの事は元々嫌いじゃないし、人化をかけるのは構わない。ただ俺にはお前ほど好きだといえる強い気持ちはないぞ? なのに婚姻関係、その上重婚になる訳だが、それでも本当にいいのか?」
そう、念のため最終確認を取るが、
「それでいいわ。アタシなら人化しても素晴らしく可愛いだろうし、すぐにメロメロにしてあげるから」
そんな凄まじい自信に満ちたクロエの物言いに、心配して損した気分にさせられる。
本当に苦笑しか出てこない……。どう足掻いても流される運命にある己の身を思うと。
ーーこうして俺は、リシアに人化をかけた時の誓いはなんだったんだという思いを極力意識しないようにしながら、クロエに了承の意を伝える事となった。
アズレンのルーム1で駄弁ってたら時間がだな……
うん、遅れてすまない。




