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不意打ちの告白

「かなり話が脱線してしまったねぇ」


 イブキさんが爽やかに笑いながら言う。結局言い争いは勝者のなきまま終息した。

 争いは何も生まない……と思ったが、どうも重苦しい空気を嫌ったイブキさんが、この状況を狙ってやった節もある気がする。

 俺を試せて空気も変えれて、一石二鳥といった所だろうか。まぁこれは完全に俺の勘だが。


「それでリベちゃんのせいでもうバレてるだろうけど、極刑にしたりはしないーーというか、出来ないよね。それに酌量の余地も十分だし」

「我のせいにするな。全く貴様はいつもいつも……」

「はいはい長くなりそうだからまた今度ね! ……それでクローリエ姫様、貴女の置かれた状況を鑑みて今回の件は不問としますが、次はありませんよ?」


 たった今までふざけていたイブキさんから、丁寧な言葉と共に強烈な圧力が放たれた。

 クロエはそれに全く怯むことなく、毅然とした態度で返す。


「今回の件に対する寛大な処置、大変感謝しております。二度とこのような真似はしないと、黒猫族の誇りにかけて誓います」


 おぉ……二人とも別人みたいだ。

 なんて思っていたら、この空気は当の本人たちによって一瞬で掻き消された。


「じゃあお堅い話はここまでって事で、黒猫族を襲ってきた人間については後で詳しく聞かせてもらうとして……まずはクローリエ姫の最適化をどうにかしよっか。あ、先に言っておくけど、どうにか出来るのは感情の方だけで、他はどうにもならないから、そこのとこよろしくね?」

「それで構わないから早速お願いするわ。……これでやっとこの煩わしい気持ちから解放されるのね、全く清々するわ」


 それを聞いて俺は、自分に寄らない感情を押し付けられた状態というのは、やはり相当のストレスになっていたんだなと今更ながら思う。

 ただ、こうもハッキリ「お前を好きでいた状態は辛かった」みたいな言い方されると、微妙に凹むよね……。


「じゃあ、始めるよー」


 イブキさんがそう言って集中し始める。すると周囲に劇的な変化がーー起きたりする事もなく、


「はい、終わりー」


 そう言ってあっさり集中を解いてしまった。

 え、もう? 簡単すぎない?! と思っていたら、よく見るとイブキさんは軽く肩で息をしていた。

 俺が魔術に疎いせいで分からなかっただけで、今の一瞬でかなり高度な事をしていた、らしい。


「クロエ、どうだ? 違和感とか無いか?」

「もし失敗してたら、里長は私が締めるから、遠慮なく言って」

「ちょっとリシアちゃん!? これでも僕、かなり頑張ったんだけど!」


 そんな感じで騒ぐ俺たちに取り合わず、静かに瞳を閉じて動かないクロエ。

 え、まさか本当に失敗? と、本気で俺が案じ始めた辺りで、突然クロエが俺に飛びついてきた。

 ギリギリで抱き止める事に成功したが、正直強化されてなかったら押し倒されてたと思う。


「うおっと!?」

「レスト、アンタはアタシに何も聞かないまま、ただアタシが危険に晒されるのを嫌って、一緒に行かないかと誘ってくれたわね」

「え、いきなり何。ってか、なんだこの状況」


 混乱する俺に構わずクロエは続ける。


「アタシが嘘ついてる事には気付いてたんでしょ?」

「……あー、それはリシア以外、全員気付いてたと思うが」

「え、嘘! ってまぁいいわ……。よく考えたらリシアの訓練を受ける前だったから、それもそうよね」


 少し気まずい感じに言うと、クロエは一瞬驚いた後、一人で勝手に納得してしまった。

 俺はついでにこの状況の説明を求めようと試みるがーー


「んで、これは一体「アタシはレストに隠し事やワガママばかりなのに、それでもいつだってアンタは、それこそ出会った当初から気遣ってくれてた」


 どうやら俺の質問には一切答える気がないらしい。

 いや大事な話っぽいから、大人しく聞くけども……。

 しかしワガママな自覚あったんかい! これは後で突っ込もうと思う。

 他の皆も空気を読んだのか、口を挟んでこない。金狐親子がニヤニヤしてるのが視界に入ったが、それは見なかった事にする。


「嘘ついてまで言いたくなかった事を、無理矢理聞き出す理由が俺には無かったしな」

「……ありがと。アタシは例え相手が命の恩人であっても、許可なく自身のテリトリーに入って来て欲しくないって考えなの。そういう気持ち、察してくれてたんじゃないの?」


 気を許した覚えのない人間に距離を詰められるのは不快な物だ。

 それこそ恥を知れ、俗物! と、罵りたくなる程度には。

  ……ここにきて気が抜けていたのか、うっかりリシアにやらかしてからは本気で気をつけていたからなぁ。


「まぁ、俺もそういうとこあるしな。だからクロエから話してくれるまで、俺から事情を聞き出そうとする事は無かったと思う」


 そんな会話をしていると、外野の方から「あれ? なんか僕悪者扱いされてない?」とか「実際その通りだろうが」なんて声が聞こえてきたが、当然無視する。


「あの時点で本当は、ほとんど確信してたんだけどね。それでも、どうしても、余計な物が片付いてから伝えたかった事があるの」

「決められないってのは、やっぱり……」

「えぇ、まぁそれだけって訳でもないんだけど」


 そう言ったクロエから、何かを覚悟したような、そんな気配が腕を通して伝わって来る。

 俺はクロエが今から言う事は、旅への同行を承諾するものだと、そう思い込んでいた。だからーー


「レスト、最適化なんて無くったってアタシはアンタが好きよ。この気持ちを受け入れてくれるなら……アタシにも人化をかけて欲しいの」


 クロエの言葉に完全に虚を突かれて慌てた挙句、抱えたクロエを放り投げた事は罪に問われないと思う……。


隠れ里編もいよいよ終盤なんやなって。

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