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明かされる真相

 あれから数日が過ぎた。

 今は昼頃だが離れの住人は全員揃っている。

 里に人間がいるせいでクロエの訓練は中断されており、引きこもりの真似事をする羽目になっているからだ。


 それが直接の原因では無いが、この数日の間、離れにはどことなくぎこちない空気が常に漂っている。

 その理由は受けるでも断るでもなく、決められない事を気に病んでいると思われるクロエが、終始だんまりな為だろう。

 俺は俺でーー少しお節介過ぎただろうか。とか、事情を聞き出した上で提案すべきだったかも。などと悩んでいたので、この空気を払拭するどころか、むしろぎこちなさを加速させる要因になっている始末。

 リシアとイロハが気を遣って話しかけてくれたり、ゲームに誘ってくれたりするのだが、それでも一向に改善される気配はない。

 

 いい加減どうにかしないとな。と、この数日幾度となく思った事を再度考えていた矢先、そんな状況を一変させる報せを持ってコトノハが離れにやってきた。


「コトノハが朗報を持ってきたわよぉ! 人間が今しがた里を出たそうだから、もう外に出ても平気みたい。それと、急で悪いんだけど父様がクロエちゃんの件で話があるって」

「ん、分かった。すぐに行くよ」


 俺がそう答えるとコトノハは顔を一瞬で真っ赤にして、


「……っ! じゃあ、そういう事だから!」


 そう言うや否や、あっという間に去ってしまった。

 えらく可愛らしい感じだったな……。

 久し振りに顔を合わせたが今の反応を見る限り、どうも未だにあの一件を引きずっているようだ。

 あの日から会ってなかったのも、恐らく避けられていたからだろう。

 俺がやり過ぎたとはいえ、向こうから誘惑しといて……。と思わなくもないが、あれもキャラ作りの一環な気がするので、多分根は純情なのだろう。ここまでするつもりはとか言ってたし。

 なのでこの件は時間が解決する事に任せて、ほとぼり冷めるまで放置する事に決める。


「コトノハ、あんなに急いで、どうしたんだろう?」

「アンタも結構抜けてるわよね……」


 本気で分からないといった様子のリシアに呆れるクロエ。

 コトノハの報せの効果、というよりも愉快な行動のお陰で多少空気が軽くなった気がする。

 サンキューコトノハと脳内で純情狐娘に感謝をする。


「リシアは基本サッパリしてて、済んだことは引きずらないからな。っと、そうだ。イロハはどうする?」

『どんな魔術なのか気になるので、ご一緒しますね』


 そんな感じで少し軽くなった空気に安堵しながら、俺たちはイブキさんの元へ向かった。



 いつもの道場に着くと、イブキさんと親父さん、それにコトノハが待っていた。

 俺たちが座ったのを見て、イブキさんが口を開く。


「さて、早速だけどクロエちゃん、化身の件は何とかなりそうだよ」


 イブキさんがそう言うと、クロエが即座に反応した。


「本当! じゃあすぐに「でも治すに当たって、一つ条件がある」


 それに対して被せるように言われて、気勢を削がれるクロエ。

 ……まぁうん、そんな気がしてたよね。

 今度はどんな面倒を頼まれるのかと思っていたら、かなり真面目な顔でイブキさんが続ける。


「クロエちゃん、旅をしているのは本当みたいだけど、何の理由もなくって訳じゃないよね? あの場で明かさなかった以上、それが言い辛い事なのは重々承知しているけれど、その上で聞かせて貰うよ。君は一体何故旅をしていたーーいや、旅をしなければならなかったのか。そして、鎮守の森に立ち入った理由を」


 俺が触れなかった場所に、イブキさんが躊躇なく切り込んだ。

 クロエが一瞬、体を硬くして目線を落とす。

 正直言って何かを盾に口を割らせるようなやり口は好きではない。しかしこれは俺が個人として動いているのに対して、イブキさんは里長という立場で動いているが故の差だろう。

 里長として、この理由は知る必要がある。そう判断したからこその、クロエへの配慮を無視した脅す様な形での質問。

 まぁ後者に関しては大事な場所らしいし、仕方ないとも思うが。

 そしてこの質問に、この場にいる誰も驚いて……いや、リシアは驚いてたわ。

 驚愕の表情で「里長が、何故それを……!」とか隣で呟いてるし。

 ん? でもこの言い回し……リシアはクロエから理由を聞かされてたのかな?


「バレバレだったって訳ね。じゃあ自己紹介からやり直させてもらうわ。アタシは黒猫族の姫……クローリエ。と言っても、今じゃこの肩書きには何の意味も無いんだけど」


 自身を姫だと名乗ったクロエーークローリエは、しかしそれを誇るでもなく、自嘲気味に無意味だと付け加える。

 やはり愉快な話にはなりそうもない……。


「意味がないと言うのは、つまり……」


 イブキさんが、普段は絶対にしないであろう沈痛な表情を浮かべて言うと、


「察しが良くて助かるわ。同胞は……多分もういない。理由は分からないけど、魔術を使う人間の集団が襲撃してきて、皆が囮になる事でアタシだけが逃がされたの。お陰様でこうして一人落ち延びて、不慣れな旅をしてるって訳」


 クローリエが悲壮な過去を、まるで他人事の様に語る。

 しかしその態度とは裏腹に尻尾は小刻みに揺れ動き、その複雑な胸中を物語っていてーー


「黒猫族とは少し前から連絡が取れなかったけど、そういうことだったのか……」

「まぁ生き残りがいないとも限らないけど、里はもう無いでしょうね……。それでその人間たちが使ってきた魔術なんだけど、アタシたち黒猫族でも簡単には防げない強力な物でね。鎮守の森にあるっていう遺物があれば、周囲の魔術を無効化できるって話を以前聞いたのを思い出して、こうして遥々やってきたの。どうせ黒猫族なら魔術が使えなくなっても、さして影響無いし役に立ちそうだと思ってね」

「……それは、復讐する上でって事だよね」

「そうよ。まぁあの魔獣に襲われて、全く関係ないところで死にかけたんだから、仮に遺物を手にしてても果たせたかは怪しいところではあるけどね」


 リシアといい、クローリエといい、普段の態度からは想像も出来ない程重い過去を背負っているな……。

 俺に何かしてやれる事があればいいのだが。


「うん、大体分かったよ。しかしこれは略奪者って事になるから、里の掟で極刑は免れない内容だねぇ」

「そうでしょうね。あれが失われれば森の神性が維持出来なくなる訳だし」


 イブキさんの口から飛び出した予想外の内容に、一瞬思考が真っ白になる。

 周りを見れば親父さんとクローリエ以外は絶句している。

 流石にこれは看過出来ないので、俺は静観をやめて慌てて口を挟む。 


「……イブキさん、クロエーーじゃない、クローリエも悪気があってやった訳じゃ無いので、どうかそれだけは! 俺に出来る事があるなら何でもしますから!」


 俺が全力で頭を下げるのを見て、クローリエが呆れと感謝がないまぜになった表情を浮かべる。

 そしてそんな俺たちを興味深そうに見ているイブキさん。

 そこで今まで黙っていた親父さんが、イブキさんを睨みながら言う。


「からかうのはその辺で辞めんか。そんな気はさらさら無いくせに意地の悪い……」

「でもリベちゃんだって、レスト君を散々試したんでしょ? なら少しくらい僕が試したってさぁ」

「貴様! 何故その事を!!」

「え、コトノハが楽しそうに教えてくれたけど」


 親父さんがコトノハに視線をやると、全く悪びれもせずにコトノハはリシアを指差す。

 それを受けてリシアは少し決まり悪そうに弁解の言葉を口にする。


「コトノハが今まであった事、しつこく聞いてくるから……」

「えー! リシアちゃんの方から楽しそうに色々教えてくれたじゃない!」


 何故か突然下らない言い争いが勃発した。

 さっきまでの深刻な空気はどこいっちゃったんですかね……。

 見苦しい責任の押し付け合いはいいから、クローリエの件をだな。

 てか、からかうのは辞めろって事は、最初からそんな気は無くて俺がどういう反応するか見るための物か!! クローリエをダシになんつー事しやがるんだ。

 本当にいい性格してんなと思ってると、イロハがコネクタを器用に使って肩を叩いてくる。


『レストさん、その、カッコよかったですよ?』


 なんか慰められた。

 余計に落ち込んでいると、クローリエがこちらをジッと見ている事に気付く。


「レスト、ありがと。酷い茶番みたいだったけど、とても嬉しかったわ。それと、アタシの事は今まで通りクロエって呼んでくれる? これは偽名じゃなくて愛称で呼ばれてた物だから、レストにはそっちで呼んで欲しいの。……これも、間違いなくアタシの本心だと思うわ」

「あぁ、まぁそれなら良かったよ、クロエ。ところでその本心だと思うってのは……?」

「それは……なんか許される流れみたいだし、すぐにわかると思うわ」

「そっか。んじゃとりあえず……巻き込まれたく無いし、場が収まるまで大人しく待つか」


 ーー結局話し合いが再開したのは、それから1時間以上経った後だった……。



案の定減ってるって言うね。

まぁ人を選ぶ内容だから仕方ないんだけども。

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