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障害の顕現、それに伴う憂い

 離れに戻った途端に調べ物があるからと、イロハはアーカイブに潜ってしまった。

 こうなると当分は帰ってこないので放置して、俺は一人考える。

 さっき得られた情報で最も重要な事、“魔術を使う獣を探す人間がいる”という事実。一体どうやって通常の獣や魔獣と見分けているのか不明だが、確実に障害となるであろう存在。


 さてどう対処するかと悩んでいると、ふとーークロエはこれからどうするのかが気になった。

 化身による好意が消えれば、ここにとどまる理由の無いクロエはすぐにでもこの里を離れるだろう。

 かなりの割合で嘘が混じった説明しか聞いていないが、単独で行動しているのは間違いない。

 つまりクロエはこの先、常に追っ手がかかったような危険な状態で一人旅を続ける事になる。


 金狐族はいい。イブキさんは殺しても死なないタイプだし、そんな食わせ者が長についている里だ。案じるまでも無く、何があろうと上手く切り抜けるだろう。

 俺にしても恐るべき戦闘力を持つ親父さんの庇護化にあり、リシアと化身すれば自身の身を守る程度の事は多分可能なので差し迫った問題はない。

 もし見つかっても強引に突破なり、警戒が強まる恐れがあるので出来れば避けたいが、最悪始末なりすればどうとでもなる。


 しかし、クロエにはそういったものが何もない。

 戦闘訓練は受けていないし、魔術も不得手。強力な爪と俊敏さがあるとはいえ、並みの猫程度の大きさしかないので体格差が物を言う接近戦は正直向いてないと言わざるを得ない。

 事実、煙で弱体化していたというのもあったのだろうが俺がたまたま居合わせなければ、あの場で牛もどきにやられていただろう。

 そしてこれがある意味一番の問題だが、一人というのが致命的に不味い。

 親父さんレベルならともかく、複数相手には圧倒的に不利な上に、囲まれてしまえば離脱すら容易ではなくなる。

 希少な存在を探すのに、金に物を言わせるタイプの人間が取る手段など一つしかない。

 間違いなく相当数の人間が、魔術の使える獣の捜索依頼を受けていると予想される。

 これらを踏まえて考えた場合、クロエとこのまま別れるのは見殺しにする様な物ではないだろうか……。



 そんな風にこの先の事を延々考えていたら、リシアとクロエが帰ってきた。外を見ればもう日暮れも間近であり、かなりの時間考え込んでいたようだ。しかしその甲斐もあってか、一応の答えは出た。

 とはいえそれはクロエの反応次第なとこもあるので、出たとこ勝負を覚悟の上でクロエを呼ぶ。


「クロエ、ちょっといいか?」

「何よ? あ、撫でたいってのは不許可よ? あの狐と違ってアタシは安くないんだから」


 お嬢様キャラのように前足を顔に当てて、微妙に酷い事を言うクロエ。

 その言葉で一昨日の件を思い出す。

 ……自身には触らせないのにコトノハを触るとキレるって、冷静に考えたら理不尽の権化みたいな奴だなこいつ。アタシやリシアがいるのにーーと言っていたが、実際手を出そうとしたら逃げられる未来しか見えない。どうしろって言うんですかね……。

 いやそれはいい。あんまり良くないけど、今はいい。それよりもだ。


「違うから。クロエはさ、化身の件が片付いたらどうするんだ?」

「それは……。今は決められないわ。この里から出るのは間違いないと思うけどね」


 今は決められない……? 少し不思議な言い回しな気がしたが、それには触れずにさっき得た情報を伝える。

 クロエは俺の説明を神妙そうな面持ちで、いつもの様に口を挟む事なく黙って聞き続けた。


「そういう訳で、正直一人旅はやめたほうが良い。……それでな、もし嫌なら断ってくれてもいいんだが……」

「何でもはっきり言うレストにしては、珍しく歯切れが悪いわね。別に突然怒ったりしないから言ってみなさいよ」


 俺の評価はそんなことになってたのか、とか。

 いやお前は場合によっては突然怒る可能性あるだろ、とか。

 色々思うところがあったが勿論顔には出さず、俺は覚悟を決めてクロエに告げる。


「良ければ一緒に行かないか? 俺たちは使命で遺跡の破壊をしてる関係で妙な連中と敵対してるってデメリットもあるが、それでも一人よりはずっと安全だと思うし、親父さんもいるからさ」


 若干早口気味になってしまったが、言うべきことは全て言った。親父さんとリシアには事後承諾になるが、やはり危険と分かっていて放っては置けない。

 後はクロエ次第ーーと反応を待っていると、いつの間にか隣にいたリシアが口を挟む。


「黒猫族が遺跡に対して不干渉なのは、分かってる。使命に直接の協力を要求したりはしない。レストは純粋に、クロエの心配をして言ってる。だからクロエ、私たちと行こう?」


 どうやら全てを察して補足と援護をしてくれたらしい。

 遺跡に対するスタンスまでは頭が回ってなかったので助かった。


「別に遺跡なんてアタシとしてはどうでもいいわ。それよりレスト、何でアンタはここにとどまれでも、故郷に送るでもなく、一緒に旅をする事を勧めてきたの?」


 いつになく真剣な目で問いかけられる。

 あまり踏み込まないよう注意していたが、こうなっては正直に話すしかない。


「……クロエ。お前は何かの目的があって旅してるんだろ? ならやめる様に言っても素直に聞かないだろうし、それなら俺たちと行動した方が安全だと思ったからだよ」

「そう。まぁ間違ってはないけどね。それで返事なんだけど……」

「………」

「気を遣ってもらって悪いんだけど、少し待ってもらえる? それも、今は決められないの。でもレスト、お誘いはとても嬉しかったわ。リシアも、ありがとね」


 そう言って感謝を述べるクロエ。

 またしても今は決められない、か。一体どういう意味なのだろう。

 まぁクロエにはクロエの考えがあり、事情があるので深くは考えるべきではないと思い疑問を打ち消す。

 保留にされたのでそれ以上食い下がる訳にもいかず、この話は一旦それで終わりとなった。


 リシアとクロエが揃って部屋を出て行く。

 二人は何か小声で話していたようだが、耳に届く声は断片的で内容はよく聞き取れなかった。

 けれど去り際に聞こえた「これは多分、本当のアタシの気持ちだと思うから」というクロエの言葉が、理由は分からないが妙に印象に残った……。



 

真面目な話すると茶番入れられなくて辛い。ネタを挟まないと死んじゃう病は重篤な病気。

あ、活動報告でとても重要な話をしてますんで、気になる人は見てね!

※ 全然重要じゃなかったという苦情は一切受け付けません、悪しからず。

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