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秘められし物、その片鱗

 隠れ里での生活 2日目


 昨日の疲れもあり惰眠を貪った結果、昼過ぎに起きると離れには誰もいなかった。

 どうやらクロエとリシアは何処かに出掛けたらしい。

 イロハの姿も見えないが……それはまぁ別にいいか。

 とりあえず朝食兼昼食を屋敷の人に用意してもらい、それを食べる。

 メニューは焼き魚と味噌汁、それに麦飯のような物だった。

 美味い。けれどやはり異世界ということか、微妙に味が異なる。

 まぁそんな些細な事は全く気にならないのだが。

 一瞬で食べ上げると、そこで特にする事がない事に気付く。


「さてどうするかね……」


 ゲームの類はイロハが収納しているので、今は出来ない。

 二人を探しに行くのも正直言って、外に出るのが面倒臭い。

 ここで出来る事はと考えた結果、何となく離れを物色する事にした。

 一応ここには生活必需品以外にも、色々なものが置かれている。

 何か暇を潰せそうな物はと辺りを見回すと、先の狼猫戦争で実害を被った本棚が目に付いた。

 奇跡的に中身は無傷だったらしく、本棚も既に魔術で完全に元通りになっている。


「ちょっと前まで散々ラノベを読み漁ってた身だが、もう随分何も読んでないな……」


 正確には『読めない』だが。

 この里に来るまで本など何処にも無かったし、さらに言うなら俺はこの世界の字が読めない。トドメに読み書きを覚える程の気力もない。まさかラノベはあるまいし。

 まぁ挿絵があるものなら多少暇が潰せるかと、適当な物を選んでパラパラとめくる。

 しかしそれは残念ながら、一切挿絵のないタイプの本だった。

 溜息を吐きながら理解不能の文字を睨み、本を戻そうとしたーーその時。

 突然本の文字が日本語に変化した。


「なんだこれ!?」


 驚いた拍子に本を放り出してしまった。バサっという音を立て、本が床に落ちる。

 人の本を粗末に扱っては不味いと、急いで拾い上げ傷が無いか確認するが、幸い傷は無かった。

 安堵しつつ何が起こったか確認するべくページをめくってみるが、特に変わりはなく既に理解不能な文字に戻っていた。

 俺が本を閉じ不思議に思っていると、背後から声をかけられる。


『おやレストさん、読書ですか? そういえばここにも色々な本がありましたね。 何か面白い物がありました?』


 イロハが帰ってきたらしい。

 俺が字を読めないのは知っているだろうに、何を言ってるんだと思いながら振り向く。


「読めないから面白いもつまらないもねえよ……あ、でも今一瞬だけ日本語に変わって読めるようになったんだが。もしや超能力にでも目覚めたかも?」


 ふざけ半分でそう言った俺に、イロハが驚愕の答えを返す。


 『え? 読めるでしょう。日本語ってのはレストさんの母国語ですよね? 言語解析の効果でレストさんが理解出来る様、視覚的に変換されたんですよ』

「はぁ!? いや、だって最初腕輪にセンターの場所聞いた時も、この腕輪は言語解析使ってたが文字は読めなかったぞ!」

『そりゃそうでしょう。だってその時レストさんは腕輪をはめてもなければ、登録もしてない訳ですから。つまりその時は腕輪がレストさんに解るように話し、聞いていただけですね」

「………!!」

『あれま、気付いてなかったんですねぇ……。言語解析は自身が発した言葉を相手に理解出来る言葉で伝え、聞いた言葉と見た文字を知っている言語に変換する物ですから」


 つまりどこまでも本人準拠な物という事か。

 そこまで考えたところで俺はとんでもない事実に思い至る。


「じゃあさ、一応親父さんとかイブキさんの手伝いもやれた……?」

『いえそれはどうでしょう。昨日魔術関係の文献等を大量に読みましたが、正直お手上げでしたし。いや、やっぱり昔の人は頭オカシイですよ本当に』


 そう言うと参った参ったという感じにイロハが笑う。

 良かった。罪悪感は感じなくていいらしい。親父さん本気で読むの嫌がってたからな……

 金狐族は人化出来るし、人と関わりもあるし、そもそも蔵書があるくらいなので同じ獣とは言え例外だと思われる。

 しかし知らぬ間に読めるようになっていたとは……。大体追加能力は後で気付くパターンなんだけど、これはお約束化してる恐れがありますね。

 試しに壁にかかった掛け軸らしき物を注視する。

 普通に日本語に変わり読めるようになった。

 因みに『使える物は親でも使え』と書かれていた。俺に分かりやすいように変換されたのだろうが、金狐族がどういう存在か一発で理解出来る代物だと思う。


『そう言えばレストさん、話は変わりますが少し気になる事があるんですけど』

「ん? 何かあったか?」

『いえ、その腕輪なんですけど。レストさん腕を、なんでしたっけ。ヴォルフ……』

「ヴォルフグリートな。最近わざわざ名前呼んだりしてなかったから、覚えてないのも仕方ないけど」


 折角かっこいい感じにしたが、別に叫んで使う必要もないからなぁ。

 それを言うとこの腕輪にしても、グレイプニルなんてかっこいい名前なのに腕輪としか呼ばれないし。

 スマホを一々機種名で言う奴なんぞいなかった事を考えると妥当ではあるのだが……。


『そうそのヴォルフグリートです。それすると腕の太さ変わるじゃないですか? でも腕輪は壊れたりしないですよね? あれ何ででしょうね』

「え、腕輪の機能で勝手に調整してくれてんじゃないの?」

『レストさん、それ一応、純軽合金製なんですよ……。つまりそんな機能はないです』

「マジかよ。でもイロハに解らんなら俺にはもっと解らんぞ……」

『それもそうですね、では一度変化させて貰えますか? その瞬間を解析しておきますんで』


 そう言われて俺は了承し、右腕を変化させる。

 全然意識してなかったのだが、確かに一回り大きくなっている……。


『……この腕輪、地味に凄いことしてました……』

「え、何……」

『えっとですね、多分これ魔術も取り入れてるんだと思うんですが、変化に合わせて輪っかの部分を一瞬で分解して再構成してるみたいなんですよ……。ほんと何なんでしょうこの技術の無駄遣い。普通にベルトタイプの物にすれば不要な機能ですよこれ!』


 何かイロハが怒り出した。

 しかし言い分は分からなくもない。そうまでして軽合金に拘った理由はなんだろう……

 そこで試して無かったことがあると気付いた。


「壊せば外れるかもだし、やってみるか。この前クロエと化身する羽目になったのもこいつのせいだし、絶対まだなんか隠し機能あるだろうし……」

『!! 確かにその手がありましたね……。自社製品を壊すのは抵抗がありますが、違法改造品ですし最初に試すべきだったかもですね』


 早速左手も変化させ、内側を狙って腕輪にだけ当たるように細心の注意を払いながら、腕を振り下ろす。

 しかしそんな注意を払う必要はなかった。

 左手が腕輪に当たる寸前に、強烈な抵抗が発生して俺の腕が思いっきり弾かれる。

 そして弾かれた腕が裏拳気味にイロハに当たり、不幸な応対用機械はそのまま本棚の横の壁に突き刺さる。


「………あー、その、すまん。」

『私、本当にこんなのばっかですね! 自動修復機能があるからって、壊してもいい理由にはならないんですよ!?」


 流石のイロハもお冠らしい。わざとではないのだが……

 そう言えば昔読んだラノベで、傷が再生するからリョナ要員化してたヒロインいたなぁと、どうでもいい事を思い出す。

 しかしこの本も運がいい……既に三度の厄災を跳ね除けている。一冊懐に仕舞っておこうかとかなり本気で考えているとイロハが壁から這い出てきた。


「本当に悪かった……なんか腕輪に当たる前に弾かれたんだよ」

『えぇ、見てましたよ。だからレストさんには怒ってません。この世の不条理に怒ってるんです!! ……まぁそれはそれとして、弾かれた原因なんですが」


 あっさり切り替えたイロハを見て、慣れの恐ろしさを痛感しながら尋ねる。


「何か解ったか?」

『はい、簡易フィールドが腕輪に搭載されてるのは前に話しましたよね? 一瞬ですが、その軍用モデルの範囲を絞り、異常な程強固にした斥力場が発生するのを確認しました』

「そんなの普通の腕輪には……」

『勿論入れられません。容量的にも、法的にも不可能です。ただこれでブラックボックスの一部が判明しましたね。かなりの部分が腕輪の保護に用いられてるはずです』

「爪を挟んで引っ張るとどうなるかな……?」

『弾かれた衝撃で手首が落ちる可能性がありますが、やります?』


 そんなリスクを冒せないので、速やかに諦めた。

 しかしこれ、本当になんなんだろうなぁ……

 まともな品ではないのは確定しているのだが。



 それからイロハと二人であーでもない、こーでもないと考察をしていたら気付けば夕方でリシアとクロエが一緒に帰ってきた。

 二人で出掛けていたという事だろうか。

 どこに行っていたか気になって聞いてみるもお茶を濁される。

 何だろう、いつかみたいに水面下で妙な事態が進行してないといいのだが……。


 腕輪の事、リシアの事、クロエの事。

 それらを延々考えている内に里での2日目は終わりを迎えた。






 

何故書けなくなっていたのかが解らない。

まぁ調子戻ったしいいか。

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