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強国に挟まれた小国、その末路

 イロハがゲームを持っているのは知っていたが、残念ながらこれまで遊ぶような時間は無かった。

 だが今はどうだ? 目の前で繰り広げられている争いは静観するより他に無い。

 下手に干渉すれば最悪の場合、どちらも相手取っての二正面作戦待った無しだろうという、危機感知能力による恐るべき見解も出ている。ぶっちゃけ暇なのである。


 つまりどういう事かと言うと、ゲームをする大義名分を得たという訳だな……!!

 例によって完璧な理論武装を施し、イロハがやっていた多人数乱闘型のゲームを俺の分も出してもらい共に遊ぶ。

 初めて触る物とはいえ、俺は腐ってもゲーマーなのですぐに順応して、イロハと一進一退の白熱した攻防を楽しむ。久々のゲーム……たーのしー!!

 ……やってる理由の大半が現実逃避でなければ、もっと楽しかったんだろうなぁ。と、いう切ない想いは胸の奥にしまって、無心で没頭する。




 どれくらい経っただろう? 俺の勝率が7割を超えた辺りで、狼と狐の闘いは終息を迎えていた。

 イロハが『レストさん、経験者じゃないのに何でそんなに強いんですか……』と、感心と呆れが半々の声を漏らしているが、それには応えずにゲームを置いて、向こうの勝敗の行方を伺う。

 決着は全く予期せぬ形でついていた。


「4割は……認める、けどそれ以上は渡さない」

「うーん、まぁそれで手を打ちましょうか。じゃあ今からレストさんの4割は私の物ね?」


 ……………!?!!

 知らぬ間に俺を国とした場合の領土割譲が行われていた。

 いや待って、本当に意味不明過ぎるんですけど!? 何があったら自分を6割しか所持することが許されない事態になるのか。

 そう抗議すべく立ち上がりかけたが、さらなる衝撃が俺を襲う。


「仕方ない……でも6割は私の物だから、勝手な事は絶対しないで」


 コトノハさんが4割、リシアが6割……俺の取り分はどこ? ……ここ?


「お二人は一体どういった話し合いをされたんですかね……」


 俺が頭痛を堪えながら口を挟むと、コトノハさんが俺の腕に抱きついてくる。

 巫女装束のような薄手の生地の服を着ているので、胸の柔らかさがほぼダイレクトに伝わってくる。

 リシアより若干だが……と、そこまで考えかけてこの思考は死亡フラグと察して打ち切る。


「レストさんの4割を所有する事になったコトノハです、よろしくお願いしますね?」

「残念ながら全くよろしく出来る要素がないんですけど!?」


 とてもいい笑顔でメチャクチャな事を言われる。

 イブキさんもそうだったが、金狐族ってまさか皆こんな感じじゃねえだろうな……!


「レスト……顔がにやけてる。まさかハーレムルート狙い?」

「ないから。そもそも君が4割明け渡したからこうなってんだよね!?」

「それは、止むに止まれぬ事情というか、一晩では語り尽くせない物語が」

「本人の意思以上に優先される事情などあってたまるか! それに君らが揉め始めて1時間も経ってないわ……! ……何があったか、さっさと話そうね?」


 そうして聞き出した争いの軌跡は、なんというか非常に残念なものだった……



 曰く、人化の話に始まり、コトノハに耳と尻尾が出ている不完全な物とリシアがバカにされる。

 そこから普通の人化でなく、秘儀による人化という話に飛んで、俺とリシアが秘儀を使い婚姻関係である事がバレる。

 そしてそれを知ったコトノハが、この状況に至る原因となった決定的な一言を告げる。それはーー


「それなら小さい頃に秘儀の事を教えたのはコトノハだし、リシアちゃんがレストさんと関係を持てたのは、コトノハのお陰と言っても過言ではないわよね?」


 というものだった。

 そこからはあっという間で、気付けばコトノハに俺の所有権を奪われたらしい。



 聞き終えて思った事は一つ。

 いや過言だよ……! 遠因ではあるけど、お陰とまで言って恩に着せるような物じゃないよ絶対!!

 あとリシアさん、基本素直過ぎるから搦め手を使うタイプが苦手なんだろうね……

 いいようにされて可哀想とは思うが、俺を10割所有しているつもりだった件は後で追求しようと誓う。


「そもそもリシアは俺の所有権など持ってないから、それ無効ね」

「あらぁ……残念。でもリシアちゃんに飽きたら、私に乗り換えてもいいからね?」

「コトノハさん、リシアが凄い目をしてるんで、勘弁してくれませんかね……」


 俺がそう言うと、コトノハさんはパッと身を離し妖艶に微笑む。

 可愛いけど、イブキさんと一緒で本当にいい性格してんな……


「もう少し遊びたかったけど、リシアちゃんが本気で怒る前にやめておこうかしら? それとレストさん、コトノハの事は呼び捨てでお願いね? そんな他人行儀じゃお姉さん悲しいなぁ」


 目元に手をやり、非常にわざとらしく悲しむ素振りを見せるコトノハ。

 口を開く度にツッコミどころが出てくるのは、恐らく金狐族の仕様と思われる。

 差し当たってこの子狼と子狐(リシアと大差ないならそうだろう)の年齢を知りたい。

 いや、少女にお姉さんっぽく振舞われるのも嫌いじゃないけどね?


『いやぁレストさん、モテモテですねぇ? 本当にハーレム作っちゃいます?』


 イロハが何もわかっていない愚かな発言をする。


 ハーレムなんて冗談じゃない。あんなものは二次元か、石油王並の金持ちにしか許されないのだ。

 倫理的問題ではない。金持ちとは言ったが経済的問題、でもない。では何か?

 答えは心労だ。ハーレムを維持する為には女心の繊細な調整作業を要求される。

 二次元ならほぼ無視される。金持ちなら相手は金目当てなので調整作業は不要だ。

 そのどちらでも無いなら精神を擦り減らす毎日が待っているという訳だ……

 ハーレムは素晴らしいと本気で宣う奴がいたら、こう聞いてみるといい。

 学校や職場で関わる人間が全て異性に変わったら? と。

 喜ぶ奴はまずいまい……

 その全てに気に入られて、間を取り持つなど正気の沙汰ではない。

 つまりハーレムなど愚かの極みであり、夢はどこまでいっても夢でしかないのだ。


 イロハを無視してそんな持論を再確認していると、リシアが本当に今更ながら本題を促す。


「コトノハ、里長からレストの手を借りたいって聞いた。どういう事か、無駄話してないで説明して」


 正論だ。何も間違っていない。その言葉を発したのがリシアという点を除いて。

 無駄話が始まったのは君のせいでもあるんだよなぁ……言わないけど。

 俺は空気が読めるのだ。進んで地雷を踏むようなバカじゃない。

 まぁここに空気の読めない応対用機械がいる事を失念してたんだけどね……


『散々無駄話してたリシアさんが何を言ってるんですか? もう、そんなに笑わせないで下さいよぉ』


 ケラケラと笑いながらイロハがそう言った瞬間、空気が凍りつくのがわかった。

 ポンコツが全力でフラグ回収するのを確認した俺は、あいつは仕事で一体どれくらい客を怒らせたのかなぁなどと、遠い過去に想いを馳せた。


 因みに……親父さんはイブキさんが風のように去ってから今までの間、彫像のように身動き一つ取らず、決して口を挟まなかった。

 恐らく沈黙は金、雄弁は銀を実行しているのだろう。……現実は沈黙は銀、雄弁は金だが。

 なんなら黙らせたいのが金まである。あのポンコツも含めて、多弁な奴にはロクなのがいないという世界の真実に至った俺はイロハの悲鳴を聞きながら、いつ本題に入れるんだろうなぁと天井を仰いだ。




午前2時前に上げたな、あれは昨日の分だ。

こうやって茶番やってるから話が進まないんだよなぁ……

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