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銀色と金色の織りなす惨禍

 金狐の隠れ里。

 そこは森と草原の間にある、普通の村だった。

 家があり、畑があり、道がある。

 ……いや、狐の里なんだよな?

 どう見ても獣の住処には見えない。

 完全に人間の村という感じであり、入り口に立っていた見張りらしき存在も、やはり人間だった。

 見張り役らしいその人が親父さんに親しげに話しかけてくる


「これはリベルス殿! お久し振りでございます」

「うむ、久しいな。息災であったか?」


 そこでやっとここが狐の里であると俺は確信する。

 普通の人間が、この巨大な狼を見て平然としているだけでなく、名前まで呼んだ以上そういう事なのだろう。

 つまりこの見張りも狐なのだ。全くそうと分からないが……

 しかしまさか全員秘儀を使っているのか? と訝しんでいると、リシアが説明してくれた。

 彼らは魔術で実体のある幻影を作り、それで体を包んでいるとの事。

 これも人化といい、紛らわしいと思ったが人化というと、普通はこちらを指すものらしい。

 先天的に魔術に優れた、狐や狸以外には使いこなせない代物みたいだが。


「それで、その後ろの人間と宙に浮く遺物らしき物は……?」

「連れだ。貴様らの正体も知っている。勿論害意はない。他の者にも伝えておいて貰えるか?」

「そうでしたか、…………よし。ついでに里長に来訪をお伝えしたので、お疲れでしょうが顔見せだけお願いします」


 何やら俺とイロハは連れという一言だけであっさり承諾されている……

 あまりに慇懃な見張りの対応が気になった俺はリシアに小声で尋ねる。


「親父さん、やたら敬意払われてるけど、実はかなり偉かったりするの……?」

「父さんは一応、群れの長だったから、ある程度顔が利くみたい」

「マジかよ……」


 そんな偉い立場だったとは……ただこれで腑に落ちた。

 あの強い憎しみは恐らく、群れを守れなかった無力な自身へも向けられた物だったのだろう。


『レストさん、どう見ても人間の村ですよねこれ……』

「これを見て狐の里と思う奴はいないだろうなぁ」


 イロハが呆然と呟く。静かだったのは、どう見ても狐の里に見えないという、さっき俺も感じた衝撃のせいだったらしい。

 リシアにその辺を詳しく聞いたところ、定住する以上人間の干渉は避けられないので、人間の村という体裁を取り冒険者などから身を守っているらしい。

 種族全体で人間に化けられるからこそ出来る方法である。


「往くぞ。まず里長に会うのだが……少々変わった奴でな、まぁ悪い奴ではないのだが、一応気をつけるようにな」


 何か物凄い不安を煽るような発言を受けた。

 リシアに視線をやると、目を伏せられる。

 一体どういう人……じゃない、狐なんだろうか。

 覚悟を決めながら親父さんに先導される形で村に入る。

 少しばかり住人の注目を集めているが、見張りが魔術か何かでしっかり全員に伝えているらしく、呼び止められたりする事なく里長の屋敷についた。

 屋敷までの道のりで思ったが、本当に昔話に出てくる村って感じで、日本の田舎にきたと言われれば信じてしまいそうな場所だ。家の外観や着ている服に多少目を瞑ればだが。

 しかし親父さん、どう考えても入れないよなと思っていると、屋敷の扉を吹き飛ばして何かが飛んできた。


「…………!?」『………!!』


 驚愕に包まれる俺とイロハ。

 それとは対照的に、親父さんとリシアは全く動じていない。

 飛んできた何かは、尻尾が6本ある一匹の狐だった。それは親父さんの目の前で砂煙を上げながら止まると、凄いテンションでまくし立てる。


「久しぶりじゃないか! 会いたかったよリベちゃん!! リシちゃんも!!」

「喧しい、その名で呼ぶな! 全く、こちらは出来れば会いたくなかったがな……!」

「里長は相変わらず、元気そう……」


 ……正直このやり取りだけで全てを察したまである。

 あんま関わりたくないタイプだこれ!


『何か凄いのが来ましたね……』

「静かにしてろ……絡まれるぞ」


 あの常時ハイテンションでお馴染みのイロハですらドン引きしている……出来ればこの場は影のようになってやり過ごしたい。

 まぁ、そんな事が出来るはずもないんだけども。


「それでイブキよ、実は折り入って話が「ふぅむ……? 君、変わってるねぇ?」

「……えっと、変わってるとは?」

「おい我が「混ざってる感じがする……何となくだけどさ」


 里長が自己紹介も抜きに、親父さんの話をぶった切って俺に話しかけてくる。

 秘儀により狼と混ざった事を言っている……?

 というかそれはともかく、親父さんの話を聞いてやれよ……


「えっと……里長様? 親父さん、キレかけてますが」

「え? あー平気平気! それより僕の事はイブキって呼んでね? ……よろしくレスト君!」

「……はい、わかりました。よろしくお願いします。それでイブキさん、そろそろ後ろを見た方が」


 この狐、どうも一癖も二癖もありそうだなぁ……

 どうやって名前を知ったんだか。イロハやリシアと話してた時も、見張りには聞こえない距離だったと思うんだが……

 しかしまぁ、それは些細な事だろう。

 イブキさんの後ろに発生した鬼神の方が余程重要だ……


「話があると……言っているだろうがぁ!!!」


 振り下ろされる死神の鎌の如き狼の腕。

 当たれば一瞬で地面の染みになりそうな一撃を鬼神と化した狼は躊躇なく放った。

 轟音、局地的な地震、そして粉塵。辺りは一時の静寂に包まれる。

 容赦ねぇ……!! 死んだんじゃ無いのかと思っていると、砂煙が晴れた時腕の下敷きになっていたのは、原型を留めていないが狐のヌイグルミ……らしき物だった。


「ちょっとリベちゃん!? あんなの食らったら狐の敷物になっちゃうよ!!」


 ……余裕で避けたのかと思ったら、存外慌てふためいてるな。

 よく分からん狐だ……というかこんなのが里長って、この隠れ里大丈夫なんですかね。

 その後も多少揉めたり騒いだりしたものの、何とかこちらの事情を説明する事が出来た。

 ……親父さんは魔術がまともに使えない事を隠していた咎で、リシアにぶん殴られたりしたがその辺は割愛する。





 屋敷の奥に親父さんも楽に入れる、大きな道場のような建物があった。

 そこに案内された俺たちは二人の長の会話を黙って聞いている。


「その魔術封印みたいなものは、こちらで何とかするよ」

「……済まない。こればかりは貴様の手を借りる他無くてな」


 何でも無い事のように言うイブキさん。

 とても親切そうに見える。が、……この手合いは、腹の底で何考えてるか分からんからなぁ。


「構わないよ、その代わりと言ってはなんだけど、こちらも君達の手を借りたい」

「……話せ」

「まぁ正確には、レスト君の手を、って事になるんだろうけど」

「どういう意味だ?」


 本当にどういう意味だ!

 蚊帳の外のまま話が終わると思ってたら、何か名指しされたぞ!


「ここからはコトノハに任せようかな、僕は少し書庫を漁ってくるよ」


 そう言ってさっさと道場から出て行ってしまう。

 本当に自由だなあの狐……!!

 それからしばらく待っていると、一人の少女が現れた。

 輝くような金色の長い髪、艶のある白い肌、ツリ目がちの瞳、全く似ていないのだが何故かリシアが初めて人化した時を思い出す。

 恐らくこの少女がリシアと同様、三次元の存在とは思えないほどに可愛いからだろう。

 少し見惚れていると、少女がこちらを見て薄く微笑む。

 どちらかと言うと綺麗系だなぁとぼんやり思っていると、どこかのロボットなら一撃死しそうなくらい鋭い視線が突き刺さるのを感じた。


「レスト、私の言いたい事、分かるよね?」

「分かります。ごめんなさい」


 ここで分からないと言ったらどうなるんだろうと、素朴な疑問を抱いたが、どう考えてもロクな未来が見えないので押し殺す。

 俺がリシアに怯えていると、金色の少女が取りなすように口を開く。


「リシアちゃん、そんなに脅したら可哀想でしょ?」

「コトノハ……レストは、私のだから。色目を使うなら、容赦しない」


 そう言うや否や人化してコトノハに食ってかかるリシア。

 ……俺が見たあの記憶は何だったんだろう。

 捏造だったのか? いやでも、コトノハに会えるって喜んでたしなぁ……


「まぁそれは後で決めるとして、久し振りね。少し見ない内に人化まで覚えて、お姉ちゃんビックリしちゃったわ」

「後でも何も既に決まった事。これは動かない。あと、ほとんど差はないんだから、いい加減妹扱いはやめて」


 ……これは長くなりそうだな? イロハとでも遊んでようと振り向く。

 するとこのポンコツ、特殊空間内から取り出したゲームなんかしてやがった!!

 俺はそっとキャットファイトの前哨戦から離脱すると、久し振りのゲームに興じるべくイロハの近くに腰を下ろした。





今更基礎知識を得て改稿作業に忙殺され投稿が遅れた作者がいるらしい。

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