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暗躍する影

 いつか見た景色の草原を進む。

 腕に抱いたリシアが身じろぎする度、触れる尻尾がくすぐったい。

 心地よい風が吹く中、親父さんを先頭にひたすら目的地へ向かって歩き続ける。

 ……昨日の話のせいか、その後ろ姿にはいつもの余裕はあまり感じられなかった。





 イロハの助命嘆願は、予想外にあっさりと受け入れられた。

 少しは揉めるかと覚悟していたのだが、リシアが事情の説明から説得に入る前に「ふむ、まぁ良かろう」の一言で終わってしまったのだ。

 正直拍子抜けもいい所だが、問題無いので気にしないことにする。

 遺跡についても特に言及されず、取り越し苦労だったなと夜空を眺めながら思う。

 今日は結界を張って、夜が明けるまで休む事になったので、特にすることがないのだ。

 リシアは既に寝ているし、イロハもシステムチェックをしているらしく、話しかけても反応がない。

 そろそろ俺も寝るかと思った辺りで、親父さんが隣に腰を下ろす。


「レスト、話がある」


 重要な話なのは、すぐにわかった。

 親父さんの顔を伺うと、緊張で少し強張っていたから。

 開口一番、中々に衝撃的な事実が飛んでくる。


「我が向かった遺跡に、怪しい集団がいた」

「それはいつか話した魔獣以外の、使命の達成を阻むもの……ですか」


 俺の問いに頷き、親父さんは続ける。


「痕跡はあれど、相まみえることは滅多にないのだがな……運が良かったのか、悪かったのか」

「こうして合流出来たって事は、問題なく倒せたって事でいいんですよね?」


 俺のその問いに、親父さんは弱々しく首を横に振る。


「それがそうとも言い切れんのだ……」


 親父さんの言葉がいよいよ深刻な色を帯びる。

 ……少し、覚悟した方がいいかもしれない。


「聞きたいことがあったので、拘束して尋問しようとしたが自害されてな。その時に妙な魔術を放たれたのだが……その影響か、実は結界を張るのもギリギリなのだ」

「大丈夫なんですかそれ!?」


 予想以上に重い事実を告げられた。

 洞窟暮らしの時は結界を二重に張った上で、他の魔術を平然と使っていた事を考えると、魔術に疎い俺にでも著しく弱体化したのがわかる。


「静かにしろ、娘にはまだ伏せておきたい」

「そうは言っても隠し通せる物じゃないでしょう……」

「なに、そこらの魔獣程度なら力でどうとでもなる」


 そういえば道中、ただの一度も魔術なんて使っていなかった。

 全て力尽くで叩き潰してたっけ……

 圧倒的な力の前には、小手先の技術などあって無いような物と言わんばかりの戦いばかりだった。


「でもずっとそのままって訳には……」

「無論、理解している。自然治癒が望めるとも思えぬ故、金狐の隠れ里を頼ろうと思う」


 確か狐と狸は、この世界でも術に長けてるような話を以前聞いたな……


「そこでなら治療出来るんですか?」

「奴らは我ら白狼族より余程魔術に精通しておるし、何より他に頼るアテもない」


 リシアと親父さんは白狼という種族らしい。俺はまだまだ何も知らない事を痛感する。

 そこで思い出す。リシアにはいつか話すと言われたが、そもそも何故二人旅なのかを未だに聞いていない。

 あの時のリシアの反応や、他に頼るアテがないという言葉からあまり愉快な話ではないだろうが、既に一蓮托生なのだし正確に知っておくべきだろう。


「親父さん、白狼族の他の狼は……今、どうしてるんですか?」


 親父さんは一旦目を伏せ、ここではない何処か遠くを仰ぎ見るような仕草をする。


「……分からぬのだ。数えきれぬ程の魔獣に奇襲され、群れは散り散りとなりそれきりだ。我は娘を連れ、際どく逃げ果せたがな」

「……………」


 元の世界で平和な日本に暮らしていた人間に。

 そんな状況に陥った者に対して掛けられる言葉など、あるはずがない。

 俺は黙って前を向いて続きを待つ。溜息を吐く音が聞こえた。


「同族のみに分かる遠吠えで呼び掛けても、全く返事がないのだ。娘も既に全員死んだ物と思っておるよ……」

「辛い事を思い出させて、すいません……」

「いや、いい。それにこれは先刻の話と無関係ではないのだ」


 そう言ってこちらに顔を向ける親父さんの目には、憎しみが宿っていた。

 絶対の味方だという確信が無ければ、恐らく俺は逃げ出していただろう……

 そんな俺の心境に構わず、目の前の狼は続ける。


「魔獣から逃げる途中、人間の匂いが複数感じられたのだ。あり得ないことにな」

「……!!」

「そもそも魔獣は徒党を組むような事がない。にも関わらず群れは大勢の魔獣による襲撃を受けた……ご丁寧に風下からな。そしてそこに、本来なら真っ先に襲われて然るべきであるはずの人間の存在」

「何者かが魔獣を操り、群れを襲わせた……?」


 状況から考えると、そうとしか思えない。

 いや、待て。一応もう一つだけ可能性があった。


「たまたま居合わせただけって線は……」

「そうだな。その可能性は我も考えた。しかしな、人間の血の匂いが全くしなかったのだ。白狼族の群れが逃げ出さざるを得ない数の魔獣に襲われて、血の一滴も流さない人間等いないし、仮にいてもそいつは人間の枠組みからは外れた存在であろうな」


 ……そんなバケモノの存在よりは、操った人間がいると考える方が現実的だろう。


「それにな、似ていたのだ」

「何がですか……?」

「遺跡にいた連中の匂いと、群れが襲われた時に感じた人間の匂いだ」


 それは……恐らくそういう事、なのだろう。

 俺は事実を再確認するように口を開く。


「……使命で遺跡を破壊する白狼族。それを疎ましく思う連中がいて、群れが滅ぼされたのはそいつらの仕業……って事ですか」

「確かな事は何もない。だが状況から見て、それで間違いないのだろうな……」

「…………」

「怖気付いたか?」


 沈黙をどう捉えたのか、親父さんがそんな事を言ってくる。

 まぁ全く怖くないと言えば嘘になるが、怒りの方がずっと大きい。


「いえ、リシアや親父さんをそんな目に遭わせた連中は、絶対許せないです」

「同族と争う事に抵抗は無いのか?」

「今更何言ってんですか、この世界に来てすぐ敵対しましたよ」


 重苦しい空気を和らげようと、わざと冗談っぽく言う。

 親父さんもそれを察して笑ってくれた。

 気付けば恐ろしい雰囲気も、いつのまにか消えている。


「そういえばそうだったな。 何やら多少強くなったようだし、期待しているぞ?」


 話は終わりなのだろう。

 そう言い残して親父さんは少し離れた場所に移り、地面に横たわった。

 正直色々衝撃的過ぎて眠気など消し飛んだのだが…寝ておかないと明日地獄を見る羽目になる、そんな予感がしたので、無理にでも眠るべく俺は瞳を閉じた。





 翌朝、親父さんが目的地を告げると、リシアが飛び上がって喜んだ。

 聞けば幼馴染が隠れ里にいるらしく逢えるのが楽しみとのこと。

 リシアの記憶で見た狐だろうと当たりをつける。

 ついでに化身やデートなどの情報を吹き込んだ張本人でもあるはず。

 色んな意味で俺も会うのが楽しみである。


「では往くぞ」


 親父さんのその言葉に従い、隠れ里を目指して出発する。

 ここからそれほど遠く無いとの事だが、ゆっくりしていては1日で着くかは怪しいらしい。

 昨日の予感は正しかった。強行軍を覚悟すべきかも知れない。


『レストさん! これから私達の大冒険が始まるんですね……!』


 テンション高くイロハが話しかけてくる。

 こいつは能天気でいいなぁ……


「そうだな、冒険ついでに魔獣が出たらお前が倒してくれ。任せたからな」

『ちょっとレストさん!? 私は非武装の応対用なんですから、野犬一匹にも遅れを取りますよ!」


 情けない事を胸を張って言うイロハに、ある意味癒される。

 ついでにこの世界に来た当初、自分も似たような事を考えたのを思い出し、地味にショックを受けた。

 俺はこのポンコツと大差ない思考レベルなのか……


 今では野犬どころか、サバンナの動物とも容易に渡り合えそうな強さを手にしたが、実感はあまりない。

 努力して得たものがほとんどないからだろう……そんな思いに囚われているとリシアが体を駆け上がってくる。


「レスト、どうかした?」


 肩に乗ったリシアが、気遣うような声をかけてくる。

 どうも俺が何かに思い悩むと、すぐに反応する気がする。

 秘儀による繋がりか、生来の優しさか、恐らく後者だろう。


「ん、多少強くなったけど、大半が借り物の力だなと思ってな……」

「うーん……私も父さんも、あと多分ポンコツもだけど。レストがレストだから、力を貸してるんだよ? それは、誇っていい事だと思う」


 俺の腕に収まったリシアが、さも当然という感じに言うが、イマイチ納得出来ない。

 自己肯定感の低さ故だろうか。自分自身の事は存外分からないものである。


「そんなもんかねぇ」

「そんなもん、だよ。それより隠れ里に着いたら、コトノハを紹介するね!」

「あの狐はコトノハって言うのか。っとそうだイロハ、腕輪の言語解析はちゃんと機能してんだよな?」

「ちょっとお待ちを……えぇ、ちゃんと機能してますね」


 開幕で会話が通じないとシャレにならないので、確認を取る。

 魔術を使って自力でやるより、こういうのはナノエフェクトに任せた方が楽そうだから、今後はこれ頼れるのは本当に助かる。

 どうもどちらも一長一短な感じだし、適切に使い分けられるようにならんとなぁ……

 そんな真面目な思考が出来たのはここまでだった。


「あ、でもコトノハに手を出したら、ダメだよ?」

「いやリシアさん、唐突に何言ってんの…?」

「コトノハは、私を抜かせば、隠れ里で一番可愛かったから」


 ……このコ、今さらっと幼馴染にマウント取りましたよ?

 本当に仲が良かったのか、少し不安になって来た…

 記憶では睦じい感じだったが、全部見たわけじゃ無いからなぁ。


「それ狼や狐目線でしょ……人化した状態ならまだしも、獣状態なら絶対ありえないって…^_^」


 特に深い意味も無く、そう否定した。

 しかしこの発言が命取りだった。


「……ふーん。人化してたらあり得るんだ?」


 注意一秒怪我一生というフレーズが何故か脳内に浮かぶ。

 え、そう捉えちゃうの…?


「いやそういう意味じゃなくて言葉の綾というか!」

「レストは、そういうゲームばかりやってたから、そんな思考なんだと思う」


 心に致命打を入れられる。

 完全にカンストダメージだった……


「…………せやな」

『レストさんって意外に気が多いんですね……私には手を出さないで下さいよ?」

「もう反論する気力もねえよ……」

「……お前達、話は里に着いてからにしろ」


親父さんに怒られたので、全員黙って歩き出す。イロハは浮いてるが。

隠れ里に着いたら少しはゆっくり出来るといいなぁ…

そんなほぼ確実に叶わないであろう願いと、腕の中のリシアを抱いて一路隠れ里への道を進み続ける。



 

整合性より面白さを重視すべきだと思う。

そういう真理に私は至った。

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