意図的曲解による使命遂行
飯を食い終わり特殊空間内に、使えそうな物と保存食を詰め込みながら、リシアにイロハと話した内容をざっくり伝える。
いよいよここですべき事が終わった段になった所で、この場所をどうするか3人で話し合う。
「使命を考えると、破壊すべき」
「まぁリシアの立場だとそうなるよな」
『私としては、職場であり家なので出来れば壊されたくは……』
正直イロハの言い分も理解出来る。
それに個人的にはどちらでもいいのだが、残して置けば何かの時に役立つ可能性を考慮すると、安易に破壊したくない気持ちも大きい。
ここは折衷案を出すか……
「リシア、拡大解釈になるが、要するに誰も使えないようになれば、使命達成と考えてもいいよな?」
「うーん、多分平気だと思う。誰かが監督してる訳でもないし」
『何かいい案でもあるんですか?』
「いや、魔術で封印出来ないかなって思って」
「結界は時間経過で解除されるし、本人が一定距離離れると維持できない……」
『ナノエフェクトなら可能ですよ!それとレストさん、ずっと気になってたんですが、魔術とナノエフェクトは同じですが違うので、一緒くたにしたらダメですよ!』
イロハが意味不明な事を宣う。
同じだけど違うってなんやねん。
というか面倒だから一緒って事でいいんだけど……
『ナノエフェクトは機能性特化で、無駄を省いた洗練された技術です! それに比べて魔術は原始的で効率が悪い物が大半な古いやり方なんです! ……まぁ一部は芸術的とも言える構成で、ナノエフェクトで再現不能だったり、やり方そのものが失われてる物もあるんですが』
わかるような、わからないような……
銃火器の登場で陳腐化した刀剣類だけど、一部の刀は今でも価値がある。しかし製造法が失伝してロストテクノロジー化とか、そういう認識でいいんだろうか。
あとどうでもいいが、微妙にリシアの機嫌が悪くなったな。
自分が使ってる物が効率悪い言われりゃそうもなるか……
「オーケー、ナノエフェクトの講義はそのうち聞くとして、どうすりゃいいんだ?」
『ここの施設のハッキングして、セキュリティを最高レベルに設定します』
「するとどうなる?」
『解除されない限り、建物そのものがナノエフェクトで特殊空間内に隔離されます』
なにそれ凄い。てかその機能を使えば滅びも……いや無意味か。単純に間に合わなかった可能性もあるが、仮にそうやって逃れた所でその後が続くまい。
「それ、急に質量が消えるって事になると、気圧とかヤバいんじゃねえの? 今は地中だけど、それはそれで崩落すると思うし……」
『その辺は平気ですね。消えた存在と同質量のナノマシン構造体を生成して置換する事により、周囲に影響を与えないようになっています』
「むぅ……言うだけあって、確かに魔術より凄い」
少し悔しそうに口を尖らせるリシアが可愛い。
しかし一度否定したが、やっぱナノマシン万能な気がしてきた。これチート枠なのかな……
でも自由には使いこなせないので、絶対に認めないけど。
俺より上手く扱える奴しかいないんだよなぁ。
そこまで考えて、まだ聞くべきことがあった事を思い出す。
「そいや少しズレるけど、ナノエフェクトを効率的に云々の具体的な説明聞いてなかったから、教えてくれ。さっきブラインドやストーンエッジを使った時、普段より速かったがそれか?」
「そう言えばレスト、さっきは随分速かった。普段ならもっと、生成に時間かかってたよね」
訓練でマシにはなってたが、それでも戦闘時に使うのは少し厳しい物があった。
ヴォルフグリートもそうだが、魔術の方の強化も無ければもっと苦戦していたように思う。
『それはどう説明したものかですかね。処理出来る回路が増設された……って感じですか。正直何故こんな機能を付加したのか理解に苦しみますが」
「あぁ、それで速度が上がってたのか」
二つを併用して効率を上げる物なのだろう。
しかしイロハはこの機能に懐疑的な様子。
『正直言って私の時代では、ナノエフェクトとは人が使う物では無いんですよ。機械に入れて、機械に使わせる物なんです。人間の処理能力なんて知れてますからね。その辺も魔術とは違う点です』
「確かに……それなら何故そんな環境で、非効率な人間をわざわざ強化するんだってなるか」
『その辺もブラックボックスを解析出来れば解るんでしょうが、軍施設のメインフレームでも使わないと現状で安全には無理ですねぇ』
ふむ、まぁ使命を進めていけば、そのうち当たるだろうと楽天的に考える。
焦ってもロクな事はないし、今すぐ困る事でもないのだ。
「それじゃ、セキュリティ? をお願いね、ポンコツ」
話がひと段落したのを見て、リシアがイロハに封印を頼む。
『はいはい、このポンコツなイロハさんにお任せ下さいね……』
「んじゃ外に出て親父さん呼ぶか」
最早反論する事も無くなったイロハを残して、人化して引っ付いてくるリシアと外に出る。
リシアの遠吠えを聞きながら、イロハの帰還を待つ間にある問題に気付いた。
「イロハの事、親父さんにどう説明しよう……」
施設は埋まった事にすればいいが、イロハも破壊対象なのは間違いない。
しかしたった半日程度の付き合いとは言え情もあるし、何より腕輪の監視やらもあるので、絶対に壊される訳にはいかない。
喧しい点と抜けてる点と人の神経を逆撫でする点を除けば、意外と優秀なイロハなのだ。
……いや本当に優秀と呼んでいいのか迷うレベルで欠点も目立つけど。
「父さんは、私が説得するから、大丈夫」
「んじゃ、頼むわ。一応釘刺しとくが、くれぐれも物理的説得はやめてくれよ?」
「任せて。それにあのポンコツ、壊すなら私がやるから。父さんには壊させない」
「うん、出来ればそれもやめたげてね……」
一抹の不安を抱きつつ待っていると、警告音が鳴り響きイロハがセンターから出てくる。
次の瞬間、地下へ続く階段が一瞬で消え去り、地面と一切遜色のない感じに変化する。
恐らくナノマシンで周囲の地形をコピーとか、そういうのだろう。
『これでもう私がセキュリティを解除しない限り、誰もセンターには干渉出来ませんよ!』
「助かるよ。しかし一瞬でシステム掌握って、本当に有能なんだなぁイロハ……」
『えっ……あ、はい。私ほら、最新鋭ですし?』
………嘘のつけない応対用機械である。
どう考えても何か裏があると思い、暇つぶしに鎌をかける。
「ふーん。本当は400年の間に暇だったから、一生懸命少しずつやってたんじゃないの?」
『違いますよ! 結構簡単だったんでゲームの片手間に……あっ!』
「そんな事だろうと思ったわ。滅んだの知らなかったって事はだ、廃棄処分も覚悟の上でやってたって事になるんだが、勇者にも程があるだろ……」
『いいですかレストさん、退屈は死に至る病なんですよ?』
真面目腐った声音でふざけた事を抜かすイロハ。
なるほど確かにその通りではあるが、その言には残念ながら致命的な間違いがある。
「おまえ機械だし、死なねーだろうが!」
『いやいや劣化するんですよ! 大切な何かが!』
「確かにこれ以上劣化すると、もうどうしようもないけどな……お前」
「なんて事言うんですか! ゲームしたり本読んだり、メインフレームにハッキングかけたりしてたから、他の機械と違って私はレストさん達に会えたと言うのに!」
最後のはやっぱりどうかと思う。が、気になる事が一つあった。
「デリケートな質問になりそうで遠慮してたが……他の機械はダメだったのか……」
『ですね……レストさんが気絶してる間に、生き残りを探したんですが全機停止してました。修理出来ないことは無いんです。でもメモリが壊れていたので……人間的に言うなら全員死んでます』
「そうか……他の施設で、生きてる奴がいたらいいな」
俺は孤独に耐性があるが、普通は辛いものだろう……と考えた所で、こいつも大概だったと思い直す。
無用な心配だったかと、神経質な自分に若干呆れているとイロハが普段とは違う真剣な声で言う。
『機械の私に対して行き過ぎとも言える配慮、ありがとうございます。レストさんが私を人間のように扱ってくれる事、本当に嬉しいです』
「……お前が機械らしく無いから、そうなってるだけだよポンコツ」
イロハとは思えないほど穏やかで丁寧な言葉だった。
そんな恥ずかしい発言をされて、照れ隠しで憎まれ口が出る辺り、俺はいくつになってもガキだなぁと思う……
そんな会話をしてると唐突にリシアが背中に引っ付いてくる。
「レスト……何でそんなポンコツと、イチャついてるの……? AI萌えってやつ……?」
「うん、違うからね? 全然そういうんじゃないからね?」
「でもレスト、ちぃとか茶々丸好きだったし」
「……君はそこまで色々精通してるなら、そろそろプライバシーとは何かについても学習出来てるよね?」
「ぷらいばしーってのが何なのか、残念ながらさっぱり分からない。不勉強でごめんね?」
「おい目を見て話せ。絶対既に知っててスルーしてんだろうが!」
『レストさん、私をそんな風に……でもすいません。私の理想はリニアガンとミサイルランチャーを搭載した軍用モデルなので、レストさんの想いに応えられないです!』
「ふざけんなポンコツ! 違うっつってんのに何で俺は振られた感じになってんだよ!! やっぱ今ぶっ壊してやろうか!?」
この狂乱は親父さんが現れて「何をしているのだ…」という呆れ声と冷たい視線を賜るまで続いた。
最近こんなのばっかだが、俺に落ち度はないと思う、きっと、多分、恐らく、そうだといいなぁ。
設定資料も作らずにこんなの書いてる人がいるらしい。
まぁギャグだし多少はね?