転びかけた後の杖
イロハを見捨てて、階段を降りると扉の上半分が破壊されたエレベーターの入り口が目に入る。そこで自身の腕を変化させた顛末を振り返る。
……ふと、こんな思考が浮かび上がった。
あぁいうのは普通なら覚醒イベント扱いで、強敵との戦闘中に起きる物ではないのか。
具体的に言うと、魔獣に突然襲われて命が危ないタイミング等で発生すべき物だと思う。
それがまさかのエレベーターからの脱出時ときたもんだ……
命の危機ではあったが、不条理感が拭えない。
まぁ覚醒と言ったところで、確実に化身の劣化だろうから、どう転がっても微妙ではあるが……
『レストさん……!! 何さらっと見捨ててくれてんですか?! というかリシアさん……なんならさっきの化け物より怖いんですけど!!』
「普段は大人しくて物分かりのいいコなんだよ……お前は地雷を踏んでばかりだから、そうは見えないだろうけど」
『まぁ同僚にもよく一言多いとか、怒らせる達人みたいな事言われてましたけども!』
せやろな。知ってた。想定の範囲内。さもありなん。宜なるかな。
こんな言葉しか浮かんでこない。
本当にこいつは現役時代に、応対用としての職務をこなせていたのか、滅びの原因より気になってきた……
まぁこいつを問いただした所で、決してその謎は解けないという確信があったので別の疑問を口にする。
「んでリシアは?」
『あぁ、私を散々壊そうとした後、丁度いいので食事の用意をするとか言って、ウサギを解体し始めました……』
「飯の事完全に忘れてた……そういや食料の類とか一切持ち歩いてなかったな……」
どうも現地調達が基本のようだ。潜入工作員かな?
……いや野生の獣なら当たり前か。
一応本当に、本当に……最終手段ではあるが魔術……いや、ナノエフェクト? うん、慣れてるし基本魔術でいいや。それで生成出来ないことも、ない。
しかし飲料はまだしも、食料は餓死寸前になるまで選択肢に挙げる事すら避けたい。
もう二度と繰り返してはならない、あの悪夢だけは……
『社員用の食堂がありますから、そこで何か調達します?』
「400年前の物を俺に食せと……?」
どうもこのポンコツは、イマイチ自身の境遇を正確に把握していない所がある。
呆れた目で眺めていると、予想とは少し違う返答があった。
『あっ……そうでした……でもでも、一部の保存食の類なら完全気密された、ナノエフェクトによる特殊空間内にありますから、多分平気ですよ! 本来の用途は災害用なんですけど、使用用途としてはそれほど間違ってませんねぇ』
まぁ相当の時間差はあれど、何らかの災害はあったろうしなぁと思う。
しかし保存食よりも、その便利空間の方に興味を引かれる。
「その空間の魔術は、俺にも使えたり?」
『……理論上は、まぁ使えますね』
「……よく分かった。じゃあイロハや腕輪ならどうだ?」
『あぁ、それなら専用のデータを落とせば平気ですよ。うちのセンターにある使えそうなの、腕輪に今から落としときますね』
そう言ってコネクタを繋がれる。
しばしイロハから漏れる内部の動作音を聞きながら待つ。
恐らく30秒も経っていないが、イロハがコネクタをしまう。
何か俺にも影響があるかと身構えていたが、特にそんな事もなく終了したようだ。
『色々落としときました! ブラックボックスで多少圧迫されてますが、それでもキャパシティが正規品の数倍あったので、片っ端から入れときましたよ!』
「…………内容を聞かせてもらえるか?」
何故便利になったはずの腕輪を見て、俺は危機感を覚えているのだろう…
しかしこの手の嫌な予感はほぼ必中なので、覚悟を決めてイロハに問う。
『はい、まずは簡易バリアですね! 有害な毒素やある程度の衝撃などから身を守るフィールドを、必要に応じて張ってくれる現代人必携のナノエフェクトですね! ……普通初期状態で入ってるんですが、何故かなかったんですよね……消せない設定のはずなんですが』
「ほう、昔の現代人は便利な物使ってたんだなぁ。って待てこら……さっきの戦闘前に入れてれば、多少危険は下がってたんじゃねえのかおい」
『いやぁまさか入って無いとは思わなくて……消せないやつですし? まぁそれはそれとして、他にはさっき言った特殊空間ですね! かなりの容量がありますから、便利ですよコレは!』
あまり突っ込まれると困るらしく、さっさと次の説明に入るイロハ。
絶対こいつの能力は逃走系に特化してるな……
それ以上追求せず、大人しく説明の続きを聞く。
『他にはですね……恋人といい雰囲気になった時に自動でBGMを流すやつにー、暇な時にしりとりの相手をしてくれるやつ、後は動物に懐かれやすくなる匂いを出すやつとーー』
説明出来たのはそこまでだった。
俺がポンコツをウルフハンド改め、ヴォルフグリート(ドイツ語で狼の手足、命名理由はカッコいいから)で、無理矢理壁に押し付けたから。
『ちょっとレストさん、突然なんですか! は……! コレが壁ドンってやつ?! リシアさんという彼女がいながら……肉食系ですねレストさん! 狼の腕だけに!』
壁ドンは相手を壁に叩きつけたりしないとか、お前は機械だろうがとか、狼は雑食のやつもいるとか、そういうツッコミはとりあえず脇に置いて、重要な点を咎める。
「何ふざけたもん入れてんだお前は! 容量に空きが多いことがイコール使えないゴミを詰め込んでいいみたいな、異次元の解釈してんじゃねえぞポンコツ!!」
『あれ! お気に召しませんでした……? 楽しい効果だと思うんですけど……』
「い ま す ぐ 消 せ !」
『承知致しましたので、腕に力を込めるのやめて……やだ、壊れちゃう!』
怠惰に過ごした400年で、ネットにアーカイブされたエロ同人でも読み漁っていたであろうポンコツを、容赦なく締め上げながら消去を要求する。
もう一度コネクタを繋ぎ、しばらく待つと突然イロハが奇声を上げる。
『あ゛っ………えっと、レストさん、大変申し上げにくいのですが……」
もうオチは読めているが、聞かない訳にはいかないだろうなぁ……
「怒らないから、言ってみろ」
笑顔でそう告げる。
それを見たイロハは怯えたように言う。
『嘘だ! それって既に怒ってる人が言うセリフですよ! だって私、その言葉の後に怒られなかった例を見たことないですもの!!』
鋭い指摘をされるが、こちらとしても特に隠し立てするつもりがないので構わない。
腕に力を込めて、再度要求する。
「大体予想出来ているが、お前の口からハッキリ聞きたい、さぁ吐くんだ」
『えっと……その、消せませんでした……! これも全部ブラックボックスってやつのせいなんです! だから私は悪くない!』
ライダーとテイルズが混ざったような自己弁護を図るイロハ。
俺は旧文明の遺物が、何故使命によって破壊対象になっているのかを身を以て理解した。
いや半分冗談だけども……でもこいつは折檻が必要だと思う。
「イロハ……やはりお前は一度、痛い目にあうべきだと俺は思うんだが」
『見解の相違ってやつですね。……私は全くそうは思いませんし、今日だけで再三に渡って破壊の危機が訪れてるんで、大目に見て貰えたりは……?』
「はっはっは。慈悲はない、ここで鉄屑になれ!!」
『私は特殊軽合金製で、鉄なんて前時代的な素材は使われて無いです!!』
微妙に的外れな事を抜かしながら、拘束を振り払い全力で逃亡するイロハ。
それを俺は、ヴォルフグリートで足を変化(茶番で新能力を使っていくスタイル)させ追いかける。
結局リシアが捌いた肉を持ってくるまで、俺とイロハはセンター内で鬼ごっこを繰り広げ続けた……
話が進むの遅い…遅くない?
あ、新シリーズ書いてみたんで良ければそっちも見てやってね!




