狼の皮を被った羊の単独戦闘
「大きな音がして、レストが居なくなってて、本当に怖かった」
「ごめん……少し外の空気を吸うだけのつもりだったんだが……」
あの一連のハプニングから数分。
腹と背中の痛みが引いた俺は、リシアから説教を食らっている……
エレベーターが落下した破壊音で飛び起きたリシアは、俺が居ない事に気付いて匂いを辿り、全力で駆け上がってきたらしい。
その果てがあのディストーションアタックである。いやリシアは白いしフィールドも張ってないけど。
「それとポンコツ……次は、無いから」
『私は最し……はい、以後細心の注意を払いますです……』
イロハがお約束になりつつある反論を試みるも、恐ろしい眼光で睨まれそれ以上続けられなかった。
これは優秀なキャンセル攻撃。
そんな馬鹿な事を考えていると、再びこちらに矛先が向く。
「レストも、心配されたく無いなら、心配されない様に、心掛けて」
「はい、仰る通りです……」
ド正論を受けて一切反論出来ない……
不注意もそうだし、単純に俺が貧弱という理由もあるのが痛い。
「そもそも途中の階のボタンを押せば、止まったんじゃないの?」
「『あっ……」』
声を揃える間抜け二人。
それに気付けていれば……あんなヤバい目に合うこともなく、リシアの突撃を貰うことも、こうして説教をされることもなかったという事実が、俺とイロハを容赦なく打ちのめす……!
『すいませんレストさん……やはり私はポンコツの様です……』
「……いや、俺も気付かなかったから…………」
落ち込む俺達のせいで説教という雰囲気でも無くなったので、当初の目的通りリシアも伴い一度外へ出る。
そう時間が経ってないはずなのに、随分久し振りに感じられる外の空気だが、それを満喫する暇は無かった。
何故か。目の前にライオンくらいの体躯をした、ツノが生えたウサギがいたから。
アルミラージかな?
「キュウウウウ……!」
鳴き声は可愛らしい、けど明らかに敵意しか感じられない。
どうもエレベーターが地表に激突した音を聞きつけて現れたっぽいな……
「レスト……!」『レストさんなんですコレ!?』
リシアが化身しようと提案しているのは、すぐにわかった。
しかしこれは、いい機会なのでは無いだろうか……
さっき手に入れた力である程度一人でも戦えるところを見せれば。
少しはリシアに心配をかけずに済むようになるのでは?
俺はリシアとイロハを庇うように前に出る。
「リシア……化身はいい。こいつは、俺一人でやる……!」
「……平気なの?」
『なんかメッチャデカいんですけど……!!』
「あぁ、任せとけ! 俺だけが守られるのは、もうゴメンだしな。俺もリシアを守れるようになりたい!!」
「レスト……」
リシアの熱い視線を背中に感じながら、集中する。
俺は念じて自身の腕をウルフハンド(便宜上命名)に変えて、一応保険をかける。
「でもヤバくなったら、親父さん呼んで、化身頼むね……?」
「レスト……」
『何故そこで上げて落とすんですか……というか何で二人ともスルーなんですか!!』
さっきとは真逆の視線とポンコツの戯言を意識の外に追い出し、ウサギへの警戒に神経を注ぐ。
受けに回って突進されると、二人も危ないと考えて自分から間合いを詰める。
「うらぁぁぁあ!!」「キュウウッ!!」
俺が振り下ろした爪を、器用にツノで受け止めるウサギ。
さらにそこから受け流すように避けると、前足を軸に回し蹴りを放たれる。
反対の手で強引に防いだ俺は、リシア達とは違う方向に一度距離を取り、考える。
……いや、強くね? 力とか体の大きさ以上に、技術がある……
この前のトカゲもそうだったが、まさか魔獣ってどいつも戦闘巧者なんじゃねえだろうな。
ウサギが一直線に突っ込んでくる。尋常でない加速で一瞬で距離を詰められる。
地面に身を投げ出し、辛くも回避に成功するが、ウサギは急制動をかけ再度突進してくる。
「いい気になってんなよクソウサギ!」
俺はブラインドでウサギの視界を奪う。馬鹿正直に腕だけに頼って戦っていたら、多分殺されると思う。
トカゲの時のように、隙を作ってトドメを刺す……!
「キュアアア!!」
ツノで邪魔な布を切り裂き、即座に態勢を立て直すウサギ。
だが突進は止められた……次はストーンエッジで、強引に隙を作る!
そう決めた俺はすぐさまストーンエッジを繰り出す。さっきのブラインドもそうだったが、いつもより生成が速い……!
恐らく腕輪の影響だろうが 、考察は後回しにする。
小石を腕の前に大量生成してショットガンのように放つ。そしてそのまま後を追うように、ウサギに向けて駆け出す。
「レスト、頑張って……!」
ウサギは顔面に当たった小石で怯んでいる。
リシアからの応援を受けながら、このチャンスを逃さずウサギの首を全力で薙ぎ払う。
手に伝わる生々しい感触、一瞬強い抵抗があったが恐らく骨だろう。
ボールのように飛んでいく首と、吹き出す鮮血。そしてゆっくりと倒れる胴体。
まさか首を飛ばされて生きてはいないだろうが、念のためウサギから距離を取る。
「終わった……か?」
『おぉ! やりましたねレストさん! しかし恐ろしい化け物ですね……今こんなのが野放しでうろついてるんですか……? やっぱ私……センターに引きこもってようかな』
勝利の余韻に浸っていると、イロハが寄ってきて好き勝手なことを言いだす。
俺はそれに構わず、リシアの方へ振り向く。
格好良く、勝ったぜ…! 的な感じに決めたかったが、俺はそういう星の元には生まれて無いのだろう……
「レスト……!!」
「ゴフッ……」
人化したリシアが勢いよく抱きついてきて、俺はそれを支え切れずに仲良く地面に倒れ込んだ。
締まらないなぁと軽く嘆いていると、まるでそんな事はないと言うようにリシアに頭を撫でられる。
「レスト、一人でも戦えたね……私が守らなきゃって、そう思ってたのにそんな事ないみたい」
「あんま強そうじゃない奴をギリギリでって感じで全然だったけどな……」
「ううん……レストは喧嘩とかも、ほとんどした事無いのに、きっと怖かったはずなのに、それでも一人で戦ったんだから凄いよ」
『お二人とも、熱々なのは結構ですけどまた変なの来たら怖いですし、一度戻りましょうよ!』
いい雰囲気だった所を、イロハが台無しにしてくれる。
まぁ言ってる事は正論だったので、素直に従おうと起き上がる。
じゃあ行こうかと声をかけようとして、思い留まった。
「ポンコツ……次は無いって、言った」
『えぇぇ!? これでアウト!?? 私、間違った事してなく無いですか!?』
「KYと呼ばれる存在は、殺されても文句は言えない。レストの世界では、そうだった」
いや確かに空気読まないヤツは疎まれてたが、そこまではされないと思うんですけど。
そう思いはしたが、正直リシアの殺気がヤバかったので心の中で合掌しながら、一人階段を降りる事にした。
『ちょっとレストさん! 助け……何一人で先に行ってるんですか!! 貴方の彼女でしょう!? 止めてくださいお願いします!!』
彼女じゃなくて嫁なんだよなぁ。
しかしそんな訂正より、この場の離脱が最優先である。
俺は決して振り返らずに、イロハの悲鳴を聞き流しながらセンター内に戻った。
戦闘描写はどうにも慣れぬ…




