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犬に憑かれると言う経験

 さて格好良く(?)決めたつもりだった訳だが。子犬は逃げる気配が全くない……。

 ……おっさんの反応に困ってる感が凄く伝わってきて正直気まずい。

 何で俺がやらかしたみたいになってんだよ!


「早く逃げろ!!」

「グルル?」


 首を傾げちゃって超可愛い! ……違う、そうじゃない。

 おっさんは一応状況把握したのか、剣を構えて警戒態勢を取った。まぁ実際は警戒する必要なんて微塵もないんだけど……。

 言うまでもなく俺は剣など握ったことはない。学生時代体育はサボっていた……後はわかるな?


「sheufkcnkshe!」


 何かを叫びながら突っ込んでくる。時間稼ぎくらいはしたかったが、コレは厳しそうだ……選択に後悔は無いが子犬は助けたかった……。

 おっさんの剣が迫る! 大振りの袈裟斬りだ。これなら幼少の頃の傘チャンバラを思い出し受け……れるかこんなもん!


「いってえええええ!?」


 一応ガードは出来たが、ガギィン! という創作物の中でしか聞いたことの無い剣戟音と共に、剣がどこかに飛んでいった。

 ……唯一の身を守る武器を失い、手も酷く痺れている。割と本気で絶望的だ。

 後は降伏した振りしつつ、隙を見て……という姑息な手段(正しい意味でも誤った意味でも合ってる!)しか残ってないわー。

 頼む、そろそろ逃げたよな? と、祈るような気持ちで振り返る。


 するとそこには、凛々しいお顔で何か決意を固めたような子犬の姿が!!


 なんでやねん。言葉通じないからどっちの説得も不可能なんだよなぁ。

 そこまで考えて降伏も無理な事に思い至る。

 なんで言語チートないんだよ! それかご都合で日本語通じるとかさぁ!

 そんな風に嘆いていると、何か微妙に頭痛までしてくる。

 あれ? なんか子犬の思考がわかる?? 漠然とだけど、何となく何が言いたいかわかる、ような。


 何を伝えたいのか集中しようとするも、どうやらタイムアップらしい。

 おっさんが再度攻撃に移る気配。無論今の俺にそれを防ぐ術はない。

 子犬が『私に任せて』的なことを言っているような気がする。

 けれどこの状況では、どの道手遅れだろう……。

 さて走馬灯ってどんなのかな? と、諦観による思考停止をしていると、頭痛が一気に激しくなる。

 ちょい待って本当に死ぬほど痛い。目を閉じて頭痛に耐える。いっそ早く切られて楽になりたい。そう考え始めた辺りで、唐突に頭痛が治まる。足に軽い衝撃。切られたにしては痛みがない……?

 こめかみを抑えながら目を開くと、おっさんが10メートル以上離れた位置で驚愕している。

 え? バックステップの達人か何か? いや仮にそうでもこの状況で下がる意味が……等と考えていると軽い頭痛と共に、脳内に声が響く。


【大丈夫、私が守ってあげる】


 おぉ……ついにチュートリアルキャラ降臨か! この流れでチート能力を手に入れ異世界無双開幕! ……うん、ないな。身の丈に合ってない。とりあえずこの状況さえ凌げればそれでいい。


【よくわからないけど頼みます!】


 届くと信じてこちらも脳内で返す。

 てかおっさん凄い慌ててるな。

 そこで気付く。……あ、チュートリアルキャラの力で俺が後ろに下がったのか?

 暗くてよくわからんがそうっぽいな。これは操り人形ですね。

 身体能力上がったからと言って、いきなり戦えとか言われても困るので助かるが。

 と言うか子犬は逃げたのかな? それならそれでいいが、自分に任せろ的な意思を感じたのは錯覚だったんかね?


【えっと……私はチュートなんとかなんて名前じゃないし、子犬呼ばわりには後で文句を言うとして、その子犬が私なんだけど。】


 冷ややかで棘のある声が告げる驚愕の事実。

 えぇ……思ったより随分しっかりしてる!? 助けようとしたら噛んだり(これはこちらにも非があるが)サラミ一本で懐柔されたコと重ならない……正直謎の力より驚いたまである。


【文句が増えた……けど、今はいい。とにかくアレを倒す】


 伝えようと思ってないことまで伝わるのかこれ……迂闊なこと考えられんな。

 おっさんの方は、動揺が隠せていないが退く気はないようだ。

 そこで気付く。……視点が何か、俺の頭に向いてる?

 俺はそっと頭に手を伸ばす。問題なく動いたので、身体の操作権的な物は一応こちらにもあるらしい。

 しかしそんなことはどうでもいい。何かモフっとしてる事実の方が重要だ。

 ……凄まじく嫌な予感を覚える。

 鏡があれば! いや見たくないからやっぱいい。

 野郎のケモミミとか、どこに需要あるんだよ!

 いっそワーウルフ的に全部変わってれば良かったが、耳以外は……いや尻尾もあるね。

 何の救いにもなってないけど。

 声が響く度に軽く頭痛がするし、この姿は頭とは別の意味で痛過ぎる。

 だから俺は、早いとこ済ませてくれと願う。


【わかった、二本足だと動き辛いから、慣れてる方でやる】


 慣れてる方? という疑問は即座に解消された。ついでに四つ足で疾走すると、地面が真下で超高速に流れて怖いことも知った。

 俺の身体はそのまま体当たりを敢行し、一撃でおっさんを撥ね飛ばす。

 強烈な衝撃の後、交通事故にでもあったかのような飛び方をして、地面に倒れこむおっさんの姿が見えた。


 遠慮も容赦も全く無い一撃だった。……俺の体に対しても。

 脳内麻薬のせいか怪我した足も、たった今酷使されたであろう関節等も痛みはないが。

 おっさんは……微かに動いてるが起き上がる気配はない。気絶してるかな?

 とりあえず戦闘は終了したようだ。


 さて当面の危機は去ったが、翌日筋肉痛で地獄見たりするのかという懸念が過ぎる。

 ……かなり無茶な動きしていたので覚悟はしておこう。

 てかこれは一体なんだろう……憑依合体的な何か? 

 その辺を聞こうと思ったら、いつの間にか目の前に荒い呼吸を繰り返す意識の無い子犬が倒れていた。


「おい平気か!? ヤバい。これどうしたら……」


 慌てふためいてたら、次第に呼吸の方は安定してきた。

 どうも切り札っぽい感じだったし、極度の消耗で倒れたとかだろうかと推測する。

 安静にしてれば大丈夫なやつであることを願う。まだお礼も言えてないし……。

 子犬を抱いて思案する。

 さてどうするか……気絶してるおっさんに仲間がいるかもだし、早くここから離れるべきとは思う。

 けど子犬をあまり動かしたくはない。

 それに落ち着いたからか足の痛みが戻ってきたので、正直遠くまで逃げられる気もしない。

 そもそも彷徨ってた身であり、どこに逃げればいいかもわからない。うーむ。

 ……どうでもいいが憑依が解けたからか、耳も尻尾も消えてるな。助かった……。永続効果だったらどうしようかと。


「グルルルル……」


 ん……起きたか? と、思ったが子犬は腕の中で寝こけている。 

 と言うかこいつの鳴き声はこんなに重低音ではなかった。

 ならばこの声の主は。……アカン、振り返りたくない。現実を直視したくない。お家帰ってゲームしたい。

 現実逃避(本日二度目)をしていると声の主に回り込まれた。熊みたいなサイズの狼だった。

 超かっこいい! あんなのが懐いてくれたら最高だろうなーあはは。

 ……これは終わった。


 さっきは奇跡が起きてセーフだったが、子犬は一向に目覚める気配がないし、仮に起きてさっきの力を使えても勝てる気がしない。

 諦めの境地で狼を眺めていると、頭が割れるような頭痛に襲われた。

 さっきの比でなく痛い。今になって副作用か……? ダメだ……何も考えられ……な…………。

 意識を失う直前に見たものは、ゆっくりとこちらに向かって歩み寄る狼の姿だった。




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