悠久の時を経たもの
目指す遺跡までの距離は10kmと聞き、近いし楽勝だなと、そう思った。
たかが10kmなんて、のんびり歩いたって2時間と少しで辿り着く距離だ。
その感覚自体は、そう間違ってもいなかった。ただし元の世界なら、という注釈付きで。
実際森を抜けた後の道程は、ちょっとしたハイキングコースと大差ない代物だった。
距離にも、道にも、問題はなかった。
「ガルルル…!」「グギャァァァア!!」
魔獣が襲撃してくる事を除いて……
親父さんが前足で、巨大な鼠を叩き伏せる。
洞窟を出て1時間くらい経ったか、既にこれで3匹目だ。
つまり俺は運が悪ければ、初日に最低でも3回は死んでいる計算になる。
この辺りの魔獣の分布など分からないので適当だが。
本当に運というか、奇跡に極振りだった事を痛感する。
「往くぞ」
事も無げにそう言って、さっさと歩き出す親父さん。
戦闘自体はこうして一瞬で片がつく。
しかし不意打ちで俺やリシアが狙われると危ないので、どうしても警戒しながらの移動になる。
化身しての移動も提案したが、長時間化身状態を維持するのは、どちらの身体にも負担がかかるらしいので却下となった。
周囲警戒の出来るリシアはまだしも、俺は本当に足手まといなので体力より精神がキツイ。
気配察知系スキルとかそういうの、無いんですよね、一般人ですから……
一応これでも魔術の訓練を続けて、袋状の布を顔に被せるように生成して視界を奪うブラインドと、石を生成して周囲に浮かべて相手に飛ばすストーンエッジを使えるようにはなったのだ。
因みに名前は俺が適当に付けたが、後者は本家とは似ても似つかないほどゴミだったりする。
急所に当たり易くもなければ、仮に当たっても多分ノーダメだし……なお命中率は割と忠実な模様。
これは余談になるが、この訓練で魔力が増えたお陰で、俺もリシアの過去を好きに見れるようになった。
見られるばかりじゃ不公平だから、良かったと言えば良かったのだが、前にも思った通りリシアには見られて困る過去など存在しなかったっていうね……
解ってはいた事だが改めてこっちが不利にしかならないという悲しい事実の再確認となった。
まぁランダム発動じゃなくなった事が唯一の成果だろうか……閑話休題。
こんなへっぽこ魔術しか使えない、身体能力も並しかない、そんな俺は絶賛お荷物中という訳だ……
切実に力が欲しい……肩身の狭い思いをしなくなる程度でいいから。
そんな事を考えてたら、またお客様がお越しになられて、即座にこの世からお引き取り願われていた。
気分は某RPGの序盤だと一瞬考えて、それでいくと親父さん死ぬし、俺は奴隷だし、リシアは野良になるじゃん!! と慌てて打ち消そうとして気付く。
……いやこの場合リシアが奴隷で、俺が野良か。違うそうじゃない。
謎の敵がいるっぽいし、親父さん強キャラ過ぎるからな……
変なフラグ建てると、マジでシャレにならないかも知れん。
「レスト、ボーッとしてたら、ダメだよ」
まったくもう、という雰囲気のリシアに叱られる。
……言ってる事は大変もっともなのだが、つい先日まで結界内とはいえ、頻繁にボーッとしてたリシアには言われたくないってのが正直な感想だ。
しかもやってた事は人の記憶鑑賞っていう。
「……まぁ、私と父さんが守るから、大丈夫だと思うけどね?」
俺の微妙な視線から色々察したのか、リシアはそう言って会話を打ち切って警戒に戻る。
逃げやがった……空気の読める子狼である。
多分俺の記憶のせいもあるのだろう、既に手遅れだが閲覧制限したい。ペアレンタルコードが欲しい。
何故異世界に来て、子供にスマホを持たせたくない親の気持ちを知る羽目になってんですかね……
「この辺りのはずだが……」
親父さんの微妙に困惑したような声に、現実に引き戻される。
目的地周辺に着いたようだが…小高い丘で見渡す限り何もない。
腕輪で地図を出し、親父さんに確認してもらうが、ここで間違いないようだ。
「既に壊されてる?」
「その可能性もある。過去に我らの一族の者が訪れていたのかも知れん」
「なるほど……」
その可能性を失念していた。
それでなくとも誰かみたいに、不用意に触れて自爆なんて事があったかもだしな……
よく考えたら残っている方が珍しいんじゃなかろうか?
でも残骸とか爆発跡くらいあっても良さそうだが……
仕方なく、もう一つの遺跡に賭けるかとそう思った時、腕輪から音が鳴り、同時に地面が動き出した。
すわ地震かと思いきや、俺しか揺れてない……?
「レスト、地面が……」
「おぉ……すげえ………!」
どうやら俺が立っていた位置がスライドして、地下への入り口が現れたらしい。
自動で光が灯り、奥まで階段が続いている。
まさかの秘密基地仕様! 腕輪に反応して開いた感じか?
とても格好いい。が、しかし一つ問題があった。
「これは我は入れぬな……」
入り口が人二人分程度の幅しか無いのだ。
これではどう頑張っても、あの巨体じゃ入れそうに無い。
「まぁ、この感じなら魔獣も入ってないと思うけど……」
「父さん、私とレストで、行ってくる」
リシアがそう言うと、親父さんは一瞬思案し、
「では我はもう一つの方へ向かおう。危なくなったら呼ぶのだぞ」
そう言い置いて、一瞬で走り去ってしまった。
早いし速い……てか呼べって言われても、どうやって聞き取る気だ。
「ある程度の距離なら、遠吠えで呼べるから平気」
疑問は質問の前に解消された。
よもや出来るメイド的な反応をされるとは……
「んじゃまぁ、行きますか」
「レストの探し物、見つかるといいね?」
「おう、見つかれば楽出来るかもだしな!」
こうして二度目の遺跡探索が始まった。
前の遺跡は横に広かったが、こっちは縦に広かった。
各階層の小部屋はまるで事務所や会議室といった感じで、前者の方はPCらしき物まであった。
残念ながら起動はしなかったが。
入り口が開いたし、電源は生きてるはずなんだがなぁ。
まぁ仮に起動したところで、散らばってる紙類もそうだが読めはしないのだけど……
探索しながらどんどん階段を降りていくが、特に得る物もないまま最下層まで辿り着く。
「というかここ壊す時、階段駆け上がって逃げにゃならんのか……」
「ちょっと大変」
「そいや使命って、普通の場合ってどうやってんの……?」
この前のは俺が妙な操作をしたせいで発生したイレギュラーだと思う。
何処にでも自爆機能があるとは思えないというか、アレが特殊な施設だったと思いたい。
リシアと親父さんは多分、たまたまそんな場所ばかりに当たってたのだろう。
……そうであって欲しい。毎度映画的脱出は嫌過ぎる。
そんな願望は、敢え無く打ち砕かれる。
「父さんが奥で魔術を使って壊してると、大体あの音が鳴って爆発する」
「そう、か……」
なんなんだろう。昔の人、機密保持に対する意識高すぎやしませんかね……
いや、そういう建物だけが残ってるのか……?
まぁ考えてもわからんな……切り替えていこう。
最下層を歩いてると、メインフロア的な場所に出る。
受付っぽいカウンターに、自動ドアらしき物……ただし向こう側は完全に埋まっているが。
「これ本来の入り口、多分ここじゃないかな」
「うん、レストの記憶に、こんなとこあったね」
「……君は一体どこまで見てるのか、そのうちゆっくり聞かせてもらおうかな」
全力で目を逸らすリシア。
この前は自業自得で逃げられたが、近いうちに口を割らせる事を誓う。
まぁそれはそれとして、お目当の物が無いなぁ。
……そこで、今更とんでもない事実に気付く。
所定の手続きとは聞いたが、そのやり方を知らないことに。
やっべえ考えてなかった! いや待て腕輪だ! そんくらい教えてくれるだろ……!
俺は慌てて腕輪を起動し、質問する。
「センター着いたけど、手続きってどうすればいい……?」
『係りの者に渡して、生体認証システムの登録上書きを行なって下さい』
係りの者とか、いる訳ないんだよなぁ……
軽く絶望していると、リシアが突然辺りを見回し出す。
「どうかしたか?」
「気をつけて……何か、くる」
そうリシアが俺に警戒を促したところで、奥から何かが飛んでくる。
一瞬魔獣かと身構えるも、シルエットがどうも生物的では無い。
よく見れば、それがドローンのような物だと分かった。
「まさか警備システムも生きてんのか……!?」
電源が生きてるなら、その可能性も考えておくべきだった……!
わらわら出てきたらどうしようと焦って打開策を考えていると、そのドローンは俺たちの数メートル手前で止まり、
『おぉ!300年振りのお客様ですね! 当センターにお越し頂きありがとうございます! 本日はどういった御用件でしょうか!』
そんな酷く状況にそぐわない、的外れな発言をした……
このタイトルで久々の新キャラが機械っていうね。
あ、活動報告また書いたんで、気が向いたら見てやって下さいな