旧文明の恩恵
ボタンを押す。謎の文字列が現れ、すぐに消える。
画面を擦る。特に何も起こらない。
振ってみる。特に何も起こらない。
腕輪をぶん投げる!木にぶつかりいい音が森に響く。しかし特に何もーー
「だあああ! 結局変な文字以外出てこねえ!!!」
進展がまるで無いせいで、凄まじくフラストレーションが溜まる。
俺は今、遺跡から持ち帰った腕輪を調べている。
そろそろ次の遺跡に向かうと、親父さんに聞かされたからだ。
リシアと共に使命に臨む事になった以上、どんな情報でもいいから得ておきたいと考えてのことだ。
どう見ても情報端末なこの腕輪の使い方さえ解れば、色々楽が出来そうってのも、ある。
なので朝から必死に弄り倒しているのだが……
「電源切れでもないし、特定の操作を入力しないとダメなやつかね……」
だとしたら正直お手上げだ。せめて文字が読めればなぁ。
そう嘆きながら、偶然ロックが解ける奇跡を信じて、でたらめにボタンを押し続ける。
動け動け動いてよと、どこぞの初号機パイロットのような事を呟きながら、意地になって操作を続けていると突然変化が起きる。
画面の文字列が、高速で流れ続けた後、ピーーという発信音のような音が響く。
「おぉ……やった……のか?」
『未登録言語及び、意図せぬ操作を確認。当機の登録者ではない可能性により、解析命令を実行しました』
「え、なんだって?」
いかん、事態が唐突過ぎて難聴系主人公になってしまった。
いやまさか、いきなり音声ガイダンスみたいなのが来るとは……
腕輪は無機質な機会音声で続ける。
『お手数ですが、速やかに当機を最寄りのセンターへ、お届け願います』
「センターってどこやねん………」
そう投げやりに言うと、立体映像でいくつかの光点があるマップが表示される。
すげえ。この世界こんな進んで……いや最初のおっさん、どう見ても中世レベルだったな。
そもそも遺跡にあった物だし、どうも旧文明の遺産的なアトモスフィアを感じる。
とりあえずマップの光ってるとこがそうなのだろう。……あれ? これ要するに遺跡の場所ってことじゃ。
思わぬ収穫にテンションが高まる! 与ダメが4倍くらいになってそう。
もう少し何か引き出せないかと、足りない頭を捻る……
すると一つ案が浮かんだ。
「登録者の変更をしたいんだが」
『管理者権限の変更には、パスコードの入力。またはセンターでの所定の手続きを行って下さい』
現実は無情である。
俺の浅知恵は即座に腕輪に切り捨てられた。
パスコードなんて勿論わからない。
おのれぇ……結局センター行けの一点張りじゃねえか。
しからば権限が無くとも出来そうな事をば……
「解析命令って何?」
『ナノマシンによる言語解析及び、それに合わせた言語選択です」
よくわからんが、それがなけりゃ多分腕輪と話せてないのは理解できた。
しかしナノマシンときたよ……この腕輪に入ってたのか? とんでもねえな旧文明。
「この腕輪は何?」
『その情報はセキュリティクリアランスの確認出来ない人間には開示出来ません』
根本的なとこを聞いてみるも、UV様みたいな事を言いだす腕輪。
え、そっからダメなの? これかなり上の立場の人間しか持ってないヤツなのかな……
いや、確認出来ないだから、ある意味一番下よりさらに下な訳で、聞くだけなら下っ端でもいけたかも?
今の俺には全く関係ない考察だが。
「どんな用途に使う物なの?」
『その情報はセキュリティクリアランスの確認出来ない人間には開示出来ません』
まぁ何かも教えてくれないなら、そうだよね。
「……貴方のお名前は?」
『その情報はセキュリティクリアランスの確認出来ない人間には開示出来ません』
クソがぁ!!! ちっとも使い物にならねえ……!
遺跡だ……この光ってる点のある遺跡に行くしかねえ!!
まぁシステムが生きてるとは限らないのだが。
俺が無益な問答を続けていると、親父さんが後ろから覗き込んでくる。
「ほう、動いたのか。しかしそれも本来は破壊せねばならぬ事、忘れぬようにな」
そう、釘を刺される。
それに一応頷きながら、親父さんに光点のある場所に恐らく遺跡がある事、出来れば次はそこに行きたい事を伝える。
「ふむ、二箇所ほど、ここから程近くにあるな。10km程度といった所か。まずそこに向かうとしよう」
即決だった。
まぁ自分がやれる内に、出来るだけ多くこなして娘をなるべく危険から遠ざけようという親心だろう。
俺は腕輪に地図を消してもらい、親父さんと洞窟に戻った。
夕食時、今日は珍しく焼き魚だった。
魚はあまり食卓に並ばない。大体肉で俺だけ山菜があったり。
しかしいつも思っていたがこれ、どうやって獲ってるんだろう……
熊の鮭取りみたく素手で豪快に……? それとも魔術でダイナマイト漁……?
食糧事情はお任せ状態のせいで、正直突っ込んだことが未だに聞けてないのだが、事これに関しては申し訳なさより恐怖で聞けていない所が大きい。
魚はリシアが担当らしいしなぁ……
そんなことに思いを馳せながら、夕食に舌鼓を打つ。
目の前では、親父さんが腕輪の件と、ここを明日発つ旨をリシアに伝えている。
因みにリシアは子狼モードだ。そちらの方が普段は楽とのこと。
親父さんと話し終えたリシアが、こちらを向く。
「レスト、遺跡まで結構距離あるけど、大丈夫? 辛くなったら、父さんに乗っていいからね?」
いや親父さん、何だと!? って顔してんぞ。
遺跡脱出時は緊急事態だったからともかく、そら普段から乗り物扱いはされたくなかろう。
「まぁ10km程度なら平気だって」
「でもレスト……子供の頃、もっと短い距離で、死にそうになってたよね?」
「……………」
心配してくれてるのはわかるのだが……
やりづれぇ……!過保護な母親か!
というか下手すると肉親以上に、情報を握られているこの状況がキツ過ぎる。
これは対策を打たねば、精神が参る。
必要以上に世話を焼かれぬ為には……
「リシアさんや、よくお聞きなさい」
「……?」
突然の丁寧な言動に、何が起きているかよくわからない様子のリシア。
機先は制した。後は落ち着く前に畳み掛ける……!
「俺はあの世界では大き過ぎる力を、日常生活の妨げにならぬよう封印していたのです」
「そうだったの……?! それは知らなかった……」
驚きに目を見開く純真なリシア。
まぁそうだろうな、俺も知らなかったし。そんな中二病的な力は当然無い。
親父さんは興味無さげだ。多分即座に嘘と見破られてるなこれ。
まぁリシアさえ信じてくれればいいのだ。
……騙して悪いが精神の為なんでな……欺かれて貰おう!
「封印さえ解けば、俺は何でも出来るのです」
「そうなんだ……! じゃあ魔獣とかも、一人で倒せるの?」
……やべえ、盛り過ぎた。
期待に満ちたリシアの視線が痛い。ついでに親父さんの冷たい視線も痛い。
焦るな、落ち着いて方向転換を図ればいい……
「いやぁ、魔獣はほら、元の世界に居なかったし? ちょっと辛いかなって……」
「そっか……じゃあ父さんより速く走れたり?」
キラキラと輝く目で鬼畜な事を言われる。
親父さんは完全に興味を失ったのか、自身の分を食べ終え何処かに行ってしまう。
この前掴まってた時、体感100kmオーバーだったんだよなぁ……
暗くて周りはあまり見えなかったが、受ける風圧がバイクで高速を走った時よりキツかったのは間違いない。
「それもちょっと厳しいかな……ほら親父さんデカいからさ……?」
「レスト……本当に封印された力なんて、持ってるの?」
うん、流石に疑われだしたね?
リシアの瞳からは既に輝きが失われている。
……何でもとか言った俺が悪いのは百も承知だが、相当な無茶振りをしてくるリシアさんサイドにも、多少問題があると思う。
何とか上手い切り返しをと考えていたが、
「よく考えたら、そんな力あるなら、最初の時自分で何とかしてたよね?」
「えっと……はい、そうですね……」
どうやら間に合わなかった模様。
思いつきの出任せで、何とかしようとしたのが運の尽きだったかー。
やっちまった感に浸っていると、リシアが何かを察したように言う。
「……心配し過ぎたのは謝るけど、疲れたらちゃんと言ってね?」
「ん、そうする……」
最初から素直に言えば良かった!
今後はもう少し正直に生きよう……
そんな教訓を胸に刻み、微妙に気まずい夕食を終えて、俺は眠りについた。
軽く今更ですがリシアの容姿のイメージは、電子の妖精とかよくフリーダム扱いされる駆逐艦とかマジ天使なコを想像して貰えば大体あってます。




