覆せない予定調和
「初めて人化出来た時、レストの記憶……? を見た」
「ふむ……」
「でも最初は、人化出来た嬉しさで、そんなこと忘れてた」
……うん、君は二つのことを同時に考えられないからね。
「……それで?」
「次の日また見えて、集中すると自由に見れるってわかった」
「自由に……!?」
俺はそんな事出来ないんですけど……!
どういうことなんですかねぇ。
「うん、ボーッとしてた時は大体、それを見てた」
あれ、そういう事かよ!
……待てよ、あの幻覚もどき……。10分くらい見ても、実際は1秒も経ってなかったりしてたが。
このコ、一時期かなりの頻度で上の空な事あったような……
……相当余計な知識を得ている可能性。
「というかだ、何故俺が聞いた時しらばっくれたりしちゃったのかな……?」
そう、重要なのはこの点だ。
基本俺に対して、害になるような事はしないリシアが何故。
その答えは、少し意外なもので。
「その、勝手に記憶を見てるのがバレると、嫌われるかもって……」
「……別にそんな事で嫌ったりしないよ」
そう言って少し怯えるリシアの頭を優しく撫でる。
俺がリシアを嫌うことなど、あるはずがないのに……
「……良かった。色々見ちゃったから、嫌われたら、どうしようって」
「……………………」
そう言って胸を撫で下ろすリシアだが、こちらはそれどころではない。
色々。色々ってなんだ。
これこそ、一番聞き出さねばならない物では……?
正直怖いし聞きたくないが、放置はあり得ない。
尋問に対する返答の時点で絶望的だが、俺は恐怖に抗いパンドラの箱に手をかける。
どうか底に希望がありますように……!!
「参考までにどんなのを見たのか、お聞かせ願えますかね」
「レストが、変な物に乗って、何かを届けて回ってたり」
仕事中の俺か。セーフだな!
神はいたんだ!
これは日頃の行いの賜物ですね。
「女の子と子作りするげーむをしてたり」
休日中の俺か。アウト過ぎるわ!
神なんざいる訳ねーだろタコ!
日頃の行いもリシアにやらかした件で、マイナスに振り切ってるまであったわ。
……希望なんて無かった。
「他にも沢山、昔のレストを見たけど」
「見たけど……?」
「レストはやっぱり、向こうでも、変わり者だったんだね」
「おう……そうだな……」
やっぱりという酷い言い草に突っ込むような気力は、全くない。
最早俺は瀕死であり、死に体と言うか、むしろ死にたい。
まぁツンデレや妹系みたいなテンプレ属性にげーむ、まんがの時点でお察しではあったけども。
異世界でオタバレの苦しみ味わうとかマジかよ。
いや二次オタであることに関しては、誇りを持っている。
だが、他人に知られていいかは全く別の話だと思う。
「それで、レストがげーむでやってたような事、私にしてきた話だけど」
「その件につきましては、平にご容赦頂けますと幸いです……」
「何を言ってるのか、よくわからない。でもさっきも言った通り、怒ってはないよ?」
そう言えばあの時点で、リシアは全て理解してた訳で。
嫌なら普通に魔術でぶっ飛ばされてたか。いつかの親父さんのように………
リシアが目を逸らしながら続ける。
「レストが、私にどんな意図で、そういうことしてきたか、わからなかったから」
「それで咄嗟に何も知らない振りを……」
すっかり騙されちまったぜ!
完璧に自業自得ですね……
悪い事は出来ない物である。
「子作りしたいのかなって、そう思ったけど、それ以上何もしないし」
どうでもいいが、美少女に子作り連呼されると、謎の居心地の悪さが。
いや全然謎でもなんでもないわ。誰でもそうなるわ。
てか流石にそれ以上は、まだ心の準備がですね?
「その割に、頻繁に触ってくるし」
「ハハハ……」
大分混乱させたらしい。
目の前の美少女が、首を傾げながら言う。
「それで、したいけど、踏ん切りつかないのかなって」
割と的を射ている……!?
元から賢いからなのか、記憶を見たせいなのか。
「だから、レストが好きそうなの、試してみた」
「あれ誘惑されてたんかい……」
あの奇怪な行動がそんな理由であったとは。
謎は大体解けたが、これ俺がもう少し思慮深ければ絶対防げたな。
後悔先に立たずとか、覆水盆に返らずとか、そういった言葉が脳内で踊る。
「レスト」
「……ん?」
「する……?」
「この流れでそれは無い」
「むぅ……あ、お兄ちゃん、しよ?」
「その記憶から得た知識の活用やめい!」
いやもう本当にどうしてこうなった。
そもそもの発端は、人化のせいか……!
でも片割れの化身の時は、こんなの無かったんだよなぁ。
「なぁリシア……何で人化をかけたら、相手の記憶を見れるようになったの?」
「それは……」
「それは……?」
「全く分からない」
「……おい」
「けど多分、秘儀が両方使われたから。そんな気がする」
……なるほど。あの感覚はそういう事か。
あれ? まだ一個謎があるぞ?
「何でリシアは自由に見れて、俺はランダムな訳!?」
「……魔術的素養の差?」
残酷な事実がそこにあった。
またそれかよ!!
訓練でマシになったとはいえ、恐らくリシアの足元にも及んで無いんじゃねえのかこれ!
さらに言うなら、リシアは特に見られて困ることなんてほぼ無さそうなのに対して、俺は山程見られて困ることがあるっていうね。
とんでもない不平等条約感に、活力が失われていくのがわかる。
とりあえず会話出来るようになって以来、全くやってなかった訓練の再開を俺は誓った……
ここで話が終わっていれば、まだ笑い話の範疇だったんだよなぁ。
これは序章に過ぎず、真の悪夢はここからだった。
地獄から響くような声が耳朶を打つ。
「話は聞かせて貰ったぞ」
「……………」
振り向かずとも分かる。背後に立っているのは死神だ。
やべえよ……控えめにいって激昂してるよこれ。
「えーっと、その、出来心だったんです!」
「それが遺言でいいんだな……?」
「リシアさん助けて!」
齢13〜14歳(見た目)の美少女に情けなく助けを乞う、30過ぎのおっさんの姿がそこにあった。
体裁を取り繕う余裕とか、全く無いからね、仕方の無いね。
最もこれは、火に油を注ぐ結果になったが。
「あんな真似をしておきながら、此の期に及んで娘を頼るとは……」
「父さん、レストを虐めないで」
「そうは言うが「それに、私も子作り、したかったし」
「…………!? ガゥフッ……!」
……謎の奇声を発して死神は息絶えた。
いつか見た光景の再来である。
そういやリシアって何歳なんだろうなぁ……
そんなことを考えながら、俺は目の前の出来事から全力で目を逸らし続けた……
休日より平日のがペース速いのほんと草




