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境界の交わるとき

「そう言えば、娘に何故罠にかかっていたかと、聞こうとしていたな?」


 親父さんは泉に身体を浸しながら、なんでも無い事のように、同じく泉に浸かる俺に話し掛ける。


 さっきまでの真剣で、重苦しい空気はとっくに払拭されており、気が抜けていた。

 もうこれ以上、今日は何も無いだろう。

 そんな意識の隙を突かれた形だった……不意打ちのような一言が飛んでくる。


「罠は娘が抜けていたせいだが、あの場に居たのは我の差し金だ」

「………!?!!」

「位相のズレがあちらで起きそうだ、転移者が現れるかも知れぬ故に、近付かぬようにな。と、こんな風に娘に言い含め、わざと寝入った振りをしたのだよ」


 え、何? どう言う事なの。

 突然爆弾発言をかまされて、混乱する俺を置いて話は進む。


「予想通り娘は好奇心に負け、異界の迷い人である貴様を探すべく、結界の外に飛び出したと言う訳だ」


 ………いやそこまでは読めなかったわー。

 あれ、偶然の出会いって訳じゃねーのかよ!!

 トリックスター過ぎる狼だ……それ父親の方だと思うんですけど。


「何かあったらどうする気だったんですか……」

「無論、バレぬよう後を追いかけたとも」


 はじめてのおつかいかな?

 本当に何してくれてんだこの狼。


「なら罠にかかった時、何故すぐに助けなかったんですか……」

「すぐ近くに貴様の気配を感じてな。少し様子を見ることにした」

「………………」

「敵意や殺意を気取れるギリギリの位置であった故に、どのような状況か読めず苦労したわ」

「……ならあの冒険者風のおっさんが現れた辺りで、助けに入るべきだったんじゃないですかね」


 糾弾するように言うと、親父さんは遠くを見るような目をして、


「実はあの時、多数の人間が来ていてな……そちらに少々手間取っている内に一匹漏らしてしまったのだ」


 そう言う事か……

 今にして思えば武器を持っていても、一人であんな場所をうろつくのはあり得ないと分かる。

 そんな真似をする羽目になった俺だから言える事である。


「他を片付け急ぎ駆けつけた時には、娘を抱いて座り込んでいたな」

「俺としては親父さんの唸り声が聞こえた時、本気でもうダメだと思いましたよ……」


 というかマジで今までの事、ほぼ全てこの狸の如き狼の意思が介入してんのか。

 まさかここに転移したのも親父さんの仕業じゃあるまいな!?

 もしもそうなら、トリスタどころか黒幕である。

 今にも「それも私だ」とか言い出しそうで、恐怖しか覚えない。

 余程俺が胡乱な目をしていたのか、弁明が飛んできた。


「待て待て、貴様が現れたのは偶然だ。流石に歪みなど起こしたりは出来ぬ」

「……まぁ、一応信用しておきます」

「本当だと言うに。もう何も偽りなど無いぞ? うっかり娘はやらんと取り乱したのも、本気であったしな」


 あれはむしろ演技であって欲しかったんだよなぁ………

 半分はリシアのせいだったが、発端は親父さんだったし。


 もう二度とあんな目には遭わずに済めばいいんだが。と、先行きを案じながら洞窟に戻った。





 翌朝。いつものように洞窟内で目覚めた俺は、親父さんに改変が施された人化の秘儀のやり方を教わった。

 対の物である割に化身とは相違点が多く、それほど難易度も高くないらしい。

 化身時、リシアは俺と同化するが、人化はそんなことはなく、さらに一度最適化を行えばパスを通じて情報だけを受け取り、自前の魔力で好きに使えるんだとか。

 融通の利く秘儀もあったもんだ……戦闘用でないからか?

 そんな風に適当に当たりを付ける。

 本番で失敗しないよう、念入りに術のイメトレをしていると、軽快な足音が聞こえてきた。


「レスト、どう? 問題、なさそう?」


 期待に胸躍らせるリシアが、急かすように問いかけてくる。

 集中の邪魔にならないようにと、外に出ていたのだが待ちきれなくなったのだろう。


「ん、多分いける。んじゃそろそろやりますか!」

「うん……!」


 いつもよりずっとリシアのテンションが高く、足が地につかないといった様子。

 そんなに嬉しそうにされると少し照れるんだが。

 リシアに引っ張られるように先導され洞窟から出ると、寛いでいた親父さんがこちらに視線を向ける。

 重要な事は全て話し終えているので、目を合わせて頷く。

 足元を見やれば、リシアが澄んだ瞳でこちらを見つめている。


「……レスト、お願い」


 俺はリシアの正面に立ち、手を前に突き出し集中する。

 さぁ、ここからだ。この世界で俺は、常に成り行き任せであり、選んだ選択も後悔は無いとはいえ、様々な制約の課せられた物だった。

 だがこれは違う。昨日親父さんと一戦交えて、覚悟を決めた。

 

 リシアと一緒になるというのは、完全に俺の自由意志に基づく行動だ。

 恐らくこれからが、本当の意味でここで生きていく、という事になるのだろう。

 状況に翻弄されるままだった自分と決別する意味も込めて、人化を使う…!


 パズルのピースがハマるような、あるべき所にあるべき物が収まるような、そんな感覚が身体を満たし、意識が遠くなる………




 風に草がなびいている。そこは草原のようだった。

 周りには何もなく、誰もいない。遠くの方は霞みがかっている。

 自身の体を見れば信じ難いことに、幽霊の如く半透明。

 突然のことに呆然としていると、草原の向こうにリシアの姿が見えた。


「リシア……! ここは一体何なんだ?!」


 叫んでみるも、何の反応も示してくれない。

 よく見ればリシアもいつもとどこか違う……元々小柄だが、それ以上に小さく見える。

 不思議に思っているとその後ろから、同じような体躯の狐が現れる。


「……しはこうやっ…………こんして、…………まをつよ……………よー」

「そうな…………ノハちゃんは…………だ……」


 風に乗って、会話が途切れ途切れに聞こえる。

 見る限り、仲良くお話中といった風だ。

 リシアの心象風景でも見せられてるのかと、そう察した瞬間、急に元の場所へと戻る。




 目の前に見知らぬ獣耳美少女がいた。雪を思わせる白銀の長い髪。透き通るような白い肌。少し眠たげに見える銀の瞳。二次元から連れてきたような整った顔立ちに線の細い体。

 リシア、だよな……? どうやら上手くいったようだ。

 だが、やった成功だ! なんて喜ぶ暇も無ければ、さっきの謎現象について聞くことも出来ない。

 何故か。すぐに目を背ける必要があったから。

 まぁお約束ではある。が、実際直面すると正直困惑しかない。


「レスト……! やった! 人化出来てる……!!」

「うんうん嬉しいね良かったね素晴らしい事だ! でもとりあえず服を作るから少し待って頂けますかね?!」


 自身の状態を一向に考慮せず、一糸纏わぬ姿で喜ぶリシアが引っ付いてくる。

 そうね……恥じらいとか、そういうの無縁でしたね。

 抱き付かれると、薄い胸が直接当たるから今はやめて……!

 迅速に魔術で簡単に出来そうなワンピースもどきを生成していると、親父さんがこちらを睨んでいる事に気付く。

 その目が言っている……人化した途端欲情しやがって食い殺してやろうか、と。

 俺に託すんじゃ無かったのかよ……とも思うが、それはそれ、これはこれの典型だろう……

 まとわりつくリシアを決して視界に収めぬよう注意しつつ、なおかつ体の感触を無視して、さらに親父さんの殺意の視線を受け止めながらの魔術は……本当に、困難を極めた。

 何とかキレかけた狼に襲われる前に服を作り終えて、顔を背けながらリシアに手渡す。


「とりあえずこれ着て。んで次から人化する時は魔術で何か着る物出してからね……」

「うん、レスト……ありがとう……!」


 俺が作ったワンピースもどきを着て、はしゃいでいるリシア。

 まぁ、あんなに喜んでくれたなら、今までの苦労も報われるというものだ。

 人化そのものよりも、その後の方が余程大変だったのは腑に落ちないが。


 そんなことを考えながら、俺は未だ落ち着く気配のないリシアを眺め続けた。






タグにロリとか入れときながら、14話まで一切ロリが出なかった小説があるらしいっすよ。

……まぁロリコンは最初から出てたしセーフだな!!

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