表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/106

全ては肉球の上で

 結局秘儀は、明日試す事になった。

 全員疲れが酷いし、万全の状態でやるべきだろうと、親父さんが執り成したからだ。

 リシアは軽くゴネていたが、最終的には折れた。

 今は親父さんが魔獣を倒し損ねた件に対して、苦情を言っている真っ最中である。


「父さんがしっかり全滅させないから、危ないとこだった」

「我が娘よ……それは流石に酷過ぎぬか? あれだけ急かされれば、そういうこともあろう……」

「あんな大きなトカゲ、どうやったら見過ごすの」


 しょんぼり項垂れる熊並みの大きさの狼に、容赦の無い説教をする小型犬サイズの狼の図。

 ……滑稽だ。しかし内容は笑えない気もする。


「リシア……親父さんもあんなにボロボロになるまで、頑張ってたんだしその辺で……」

「でも、そのせいでレストが……」


 あぁ、このコは俺の為に怒ってくれてた訳か……

 まぁ結構危なかったからなぁ。


「しかしディノタイプを相手に、よく無事であったな。レストと出来損ないではない、真の化身が出来たのか?」

「うん、でもそれだけじゃ、無理だった」

「ふむ?」

「レストが魔術で視界を奪った上で、物音を立てて注意を引いてくれた」

「ほう、ただの魔力貯蔵庫としてでなく、しっかり役割を果たしたのか」


 親父さんが感心したように見てくる。

 何も出来なかった場合、使えない貯蔵庫扱いされるところだったらしい。


「そのお陰で、私は相手にトドメを刺せたの!」


 リシアが興奮気味に言うが、そこに親父さんからツッコミが入る。


「お前自身も魔術で何かすれば、もう少し楽だったのではないのか?」

「…………………………」

「リシアさん……?」


 そういやなんで肉弾戦縛りしてたんだこのコ……!?

 いっぱいいっぱいで、全然そこまで気が回らなかったけど。


「そう、相手に隙が少な過ぎて、そんな暇が無かった、から」

「おう今思い付いた言い訳やめーや」


 確かにそれもあるだろうが、後付け感満載だった。

 親父さんが軽くため息を吐きながら、俺の方を向く。


「まぁ娘はこう、猪突猛進と言うか、一つのことに囚われると他が一切見えなくなる悪癖があってな……」

「あ、はい。よく分かります」


 リシアは、さも自分は関係ありませんとでも言わんばかりに、毛繕いを始める。

 君の話をしてるんですよー?


「故に貴様が見てやってくれると、正直助かる。頼めるか?」

「はぁ……俺も結構抜けてるんですが、出来るだけ気をつけるようにします」


 なんだろう、物言いは変わらず尊大だが、内容は今までからは考えられないくらい殊勝だな。


「まぁそれはいい。にしても布で視界を奪い、木の棒などでで気を引くとは、中々奇抜な事を考えるな貴様も」


 ………!! これはやはり、そういうことか。


「……いえ、咄嗟のことでしたが、上手くいって良かったです。ほとんど賭けでしたから」

「そう謙遜するな。魔力もそれなりになったし、機転も利くなら使命も十分やっていけよう」

「それよりも……親父さん。“よく間に合いましたね”」

「……」

「ボロボロでしたし、助けはもう少し後だと思ってましたよ」

「……あの後すぐに目覚めてな。疲労を押して迎えに行ったらあの騒ぎだ。あまり老体を酷使してくれるな」

「それに秘儀についても──」

「レスト……魔力を消耗して辛いだろう? 我も少々辛くてな。泉に少し付き合わぬか?」


 俺の発言に被せるように、親父さんは言う。

 元の世界で腐っても社会人をしていた身だ、これが何を意味するかわからないほど愚かではない。


「リシア、ちょっと親父さんと泉に行ってくる」

「ん、私も──」


 すかさず親父さんが差し込む。


「お前は飯の用意を頼む」

「むぅ……わかった」


 俺は親父さんに伴って、泉に向かう。

 さて、これで望み通り二人きりって訳か。

 ロマンチックな要素はシチュだけで、実際はこれから一戦やりあうことになるのだろうが。




「さて、聞きたい事があるのだろう?」


 少し歩いた辺りで、親父さんが口火を切る。


「そう、ですね。半分は確認みたいなものですが」

「ふむ、聞こうか」

「では今日の事から。親父さんは俺らの後、ずっと尾けてたんじゃないですか?」


 俺は疑念をぶつけるが、親父さんに動揺は無い。


「その根拠は?」

「リシアは魔術を使ってとしか、言ってないんですよ。布とも、木の棒とも、言ってない」

「多少弱いな。貴様がそれくらいしか、魔術で生成出来ない事は把握している」


 まぁこの程度では、そう言われてしまえばどうしよもない。


「まだあります。助けに来たタイミングに、秘儀を見つけたという発言です」

「それがどうだと言うのだ」

「貴方は、こちらが助かるギリギリのタイミングで現れたにも関わらず、既に秘儀を見つけていたと言う」

「それで?」

「最初から知っていたんでしょう、人化の秘儀の方法を。遺跡で探すまでもなく」

「中々面白い話だな」

「いえ、面白いのはここからです。何故そんな嘘を吐いたのか、俺たちを遺跡に行かせるためだ」


 親父さんは立ち止まり、いつかのようにジッとこちらの目を覗き込む。


「さらに言うなら、魔獣は倒し損ねたんじゃない……俺とリシアが協力して、ギリギリ勝てるレベルの相手を見繕い、戦わざるを得ない状況に追い込んだ」


 思い返せば何もかもが、完璧過ぎるのだ。

 見逃すには大き過ぎる魔獣、引き返すには遠過ぎる位置、化身した上で俺が援護する事でどうにか勝てる敵。

 ──これではまるでゲームだ。

 程よい難易度で、必要条件を満たせばクリア出来る事を前提としているデザイン。


「そんな手間をかけて、我は一体何を得るのだ?」

「……俺という存在が、リシアを託すに相応しいか否か。それを見極める為でしょう?」

「……そこまで看破されるとは、少し貴様を過小評価し過ぎていたようだな」

「まだ終わりじゃないんです。ここまでくれば芋づる式でしたけどね」

「……………」

「化身にしろ人化にしろ、秘儀の方法は本来遺跡と同様、使命による破壊対象じゃないんですか?」

「……そうだ、娘が知っていた事には本当に驚いたがな。何故気付いた?」

「貴方が言ったんでしょう、人化の秘儀は遺跡にあると。それが事実なら、対の存在である化身も……って事です」

「長らく娘としか接してないせいか、腹芸の類いが出来なくなったようだ……」

「勘弁して下さいよ……こっちはこの世界に飛ばされて、そういう下らない真似せずに済むと喜んでたってのに」


 昔を思い出す。家庭でも、学校でも、会社でも、いつだってこんな下らない事に付き合わされて来た。

 中学の頃に両親が離婚してからは、家庭で起こる面倒は無くなったけれど………。

 あんな虚飾に塗れた世界は、二度とゴメンだ。


「ふむ……そんな気はしていたが、向こうでもそれなりに苦労していたみたいだな」


 その発言により、予想していた事が確信に変わる。


「やっぱり、目を覗き込めば相手の思考が読めるんですね……」

「こんなものは児戯でしかない。浅い思考しか読めぬし、遡れるのもせいぜい半日が限度だ」


 初日の百面相もこれだったのだろう。確証が得られたのはたった今だが、思えば大事な話をしている時は、いつだってこちらの目を覗き込んでいた。


「しかしまだわからない事がある。使命に背いて、改変した化身を使わせてまで俺を鍛え、仮にリシアを託せるようになったとして、何をさせたいのか」

「折角だ、それも当ててみせてはどうだ?」

「………これは完全に推測になりますが、使命の達成を阻むものは魔獣だけではない?」

「加えて言えば、我は既に全盛期には遠く及ばぬ程に弱体化している。古傷があってな……万が一があれば、娘は未熟なまま一人使命を果たさねばならなくなる」

「……………」

「洞窟で心を読んだとき、小躍りしそうになったよ。上手く事を運べば、娘の絶対の味方が出来ると思いついてな……まぁそれはそのまま使命に巻き込む事と同義故に、申し訳なくも思ったがな」

「それから今まで、ずっとその計画に沿って動いてた訳ですか……もう狼よりも、狐や狸の方が近いんじゃないですか?」


 通じるか不明だが、軽い意趣返しに皮肉を交える。


「あんな、術式と口先だけの連中と、一緒くたにはされたくないな……」


 あぁ、そういうのは共通項なのか……。

 元の世界との無駄なシンクロだが、正直どうでもいい。


「それで」

「はい?」

「娘にこの事を言うか」

「いえ、こんな話はリシアに聞かせる必要無いでしょう」


 これは俺のエゴだが、あのコには綺麗なままでいて欲しい。

 恐らく親父さんも全く同じ意見だろう。


「そうか……貴様自身の身の振り方についてはどうする?」

「そんなの、とっくに覚悟を決めてますよ。あらゆる悪意から、俺がリシアを守ります」


 まぁまだまだ力不足だが、それでも出来ることはあるだろう。

 親父さんは頭を深く下げて、


「散々試すような真似をして、済まなかった。娘をどうか、よろしく頼む」


 そう、俺に願った。






多分どっか矛盾あるけど、今までで一番よく書けてる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ