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後を濁さぬための代物

 そこは不思議な空間だった。

 リノリウムのような床に、天井には電灯らしき物。

 荒れ果ててはいるが、一見すると元の世界の病院や、何かの研究所を連想させる造りであり、沢山ある小部屋の中には実験道具らしき物まで落ちている。


 これだけなら異世界から帰ってきたような錯覚すら覚える。が、それは残念ながら有り得ない。

 辺りに散らばる奇怪な形の調度品や、祭壇と思しき何かの存在がそれを明確に否定している。

 故に元の世界の常識からすれば、不思議な空間としか形容出来ない訳だが。


「遺跡って変と言うか、妙な場所なんだな……」

「そう? 私からすれば、こういう物って認識だけど」


 今、俺たちは遺跡の中を歩いている。

 あの戦闘の後、リシアと相談した結果、遺跡に避難した方が安全という結論に至ったからだ。

 理由は不明とのことだが、遺跡内に魔獣は一切立ち入らないらしい。

 洞窟内にまだ生き残りの魔獣がいる可能性と、戻るより進む方が距離的に短い事を考慮しての事だ。


 まぁ少し戻らなければ、親父さんが救援に来てくれるだろう。

 そんな楽観的思考の元に、それまでの時間をここにきた目的である、人化の秘儀探しに充てている。

 ……ガラクタばっかで、全然見当たらないんですけどね。


「これ、わざわざ探してまで破壊する必要あるようには全く見えないんだけど……」

「私達の一族の伝承に“災厄の種子”っていう言葉が度々出てきて、それが遺物を指してる、って聞いてる」

「つまりよくわからないけど、それらしき物は壊しとけって感じか……」


 考古学者が聞いたら発狂しそうな話である。


「うん、でも何となくこの場所は、ここに存在するべきじゃないって感じる」


 リシアが何かを確信するように言う。

 本能的な物で、明確に説明出来る事ではないようだ。

 しかしそんな場所に人化の秘儀がねぇ。

 何か引っかかるが、今は探索に集中する。


 それはいくつめかの小部屋で見つかった。

 これまでも祭壇らしき物はいくつか見かけたが、特別な物は何も置かれていなかった。

 だがその祭壇には、ディスプレイがついた腕輪のような物が祀られている。

 え、なに? フォールなアウトなのか……?


「これ……何かわかる?」

「分からない。私はまだ、使命を引き継いだ訳じゃないから、遺跡には殆ど入った事がない」


 あぁ、見習いポジションなんだな。

 よく考えたら魔獣に勝てない以上、使命はまだ無理だろう。


「ちょっと調べてみるか……これが情報端末なら助かるんだが」


 埃を拭いて側面のスイッチらしき物を、手当たり次第に押してみる。

 正直あまり期待していなかったが、予想に反して起動する。

 そして画面に並ぶ、意味不明の文字列……。


「…………………」


 知ってたし! いや待て。俺が読めずとも、リシアなら読めるかも!


「リシアさん、これ読めたりしません……?」

「………父さんなら、読める、かも」


 ……親父さん、はよ来てくれないかな。

 とりあえずこの謎の機械、確保はするが保留となった。

 少しデカイがポケットに押し込んで、探索を続ける。




 その後はめぼしい物も見つからず、最奥部に到達する。

 これまで見てきた遺跡内部も無秩序であり、元の世界の中世と現代を混ぜたような奇妙な空間ではあった。

 だがそこは、これまで以上に混沌とした気味の悪い場所で、ヒビ割れた大型のモニターと操作パネルの前に、魔方陣らしき物が描かれ、周囲には人や獣の骨がそれとわかる形で残っており、割れたケースが散乱している。

 そして極めつけは壁一面に踊る血文字で、それはまるで数式のようにも呪文のようにも見えて。


 全てがちぐはぐであり、生理的嫌悪感を生じさせる場所。

 俺が抱いたのはそんな印象だった。


「なんだここ……」

「多分これが、使命が使命たり得る理由、だと思う」


 まぁ素人目に見ても、これはロクでもないヤツだなと断定できるくらい禍々しい。

 マッドでサイコな研究者集団と、生贄上等の闇の魔術結社が手を組んだ結果、誕生しましたって感じだ。

 何に使う施設かは分からないが、少なくともこの設備に関しては、人を幸せにする目的ではないと思う。

 仮に使命でなくとも、こんなとこはさっさと破壊すべきな気がするが、俺にはその手段がない。

 余計なことして変なもんが起動しても困るので、さっさと離れようと思った時、パネルが光った気がした。


「リシア? 今一瞬、光らなかった……?」

「え?」

「少し見てくる」


 そう断って骨やガラス片の隙間を縫って進む。

 地味に苦労しながらパネルの前まで辿り着く、その寸前。


「っと!?」


 うっかり骨を踏んでしまい、バランスを崩しパネルにもたれかかる。


「レスト!大丈夫……!?」

「悪い、転びかけ……」ビーーーーー!!!


 途中まで言いかけた所で、けたたましいサイレンのような音が鳴り響く。

 慌てて飛び退くも、サイレンは一向に止まる気配がない。


「すまんリシア……変なとこ押したっぽい」


 ……どうも余計な事して変な物を起動させたらしい。言ったそばからフラグを回収していくスタイル。

 リシアが謝罪する俺に構わず、慌てた様子で恐ろしい事実を告げてくる。


「これ、父さんが遺跡を破壊する時に聞こえる音……!」


 音がするから魔獣が──って、破壊音じゃなくこれかよ!!

 俺はこの警報の意味を考える。

 不届きな侵入者撃退用の、警備システムの起動、ないしは自爆装置の作動。

 よくあるパターンとしてはこの二つのどちらかだろう。

 そして悲しい事に、どちらであろうと命に関わる。

 そりゃ殲滅してからな訳だ。

 遺跡の入り口を魔獣に封鎖されたら、どちらにせよ詰みだろう。


「リシア! 洞窟に引き返すぞ!!」

「うん…!」


 二人して元来た道を全力で走る。

 幸い行く手を阻む何かが出てくる気配はない。

 だがそれは裏を返せば、自爆でほぼ確定という事でもある。

 どの程度の爆発規模になるかは不明だが、施設内は当然として、洞窟内に居ても無事で済むとは思えない。

 もうすぐ遺跡の出口という辺りで、親父さんが現れ俺達を一喝する。


「誰が勝手に遺跡を破壊しろと言った!!?」

「いや本当にそんなつもりは無かったんです……!」

「いいから、早くここから出る……!」


 一瞬立ち止まった俺と親父さんを、リシアが進むよう促す。


「そうだ、時間が無い! 早く退かねば崩落に飲まれるぞ……! 我に掴まれ!!」


 松明を放り投げて急いでリシアと共に飛び乗ると、振り落とされないように、長い毛を手に巻きつけ必死にしがみつく。

 親父さんは一瞬にして遺跡を飛び出し、そのままの速度で洞窟を駆け続ける。

 と、サイレンが鳴り止み、次いで凄まじい爆発音。

 恐ろしいスピードだがそんなもの、後ろの光景に比べれば何でもない。

 施設の自爆によって生じた爆風が、洞窟の壁面を削り取りながら土石流の如く迫ってくる!


「何だよこのアクション映画のラストシーンは!?」

「父さん、もっと速く! 急いで!」


 俺達の絶叫と爆風を置き去りに、しばらく走り続けた親父さんは結界内に滑り込む。

 振り返れば結界より向こうは、崩落で完全に埋もれてしまっていた。

 本当に危機一髪だったらしい………。





 一息ついた俺達は、


「親父さん……すいません、本当に助かりました……」

「父さん、ゴメン。助かった……」


 素直に謝罪と感謝を伝える。多分俺達だけでは、逃げ切れなかっただろう。

 親父さんが偶然間に合って良か………


 偶然。

 本当にそうか……?

 やはり何かが引っかかる。

 今回の件に限らず、この世界にきてから今まで起こった事。 

 それらに何かの作為を感じる……

 そんな思考はリシアの残念そうな呟きによって中断される。


「結局秘儀……見つからなかった……」

「あー、また別の遺跡を探せばきっとあるって!」

「そうかな……」

「どうせ使命で周ることになるんだから平気平気」


 俺はリシアを元気付けようと、必死に励まそうとする。が、正直そんな必要は全く無かった。


「あぁ、秘儀なら、我が見つけておいたぞ? 偉大な父に感謝するがいい!」

「父さん……」

「フハハハ!!」

「早く、言って」

「グガァ!?」


 リシアの前足が、親父さんの鼻を痛打する。

 まぁ俺も正直、早よ言えやと思ったので、特に同情はしなかったが。


 こうして俺とリシアの洞窟遺跡大冒険は終わりを迎えた。





最初の遺跡終了。やっとリシアが人間モードになるんやなって…

あ、またどうでもいい活動報告書いたんで、暇な人は見てやって下さい。

ついでに何かコメn(この先は血で汚れていて読めない


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