表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/106

想定外の接敵

 洞窟の奥に潜む魔獣。

 ゲームの話であったなら、何もおかしい事はない。

 ダンジョン化した洞窟の場合、様々なものがそこで生成され、食物連鎖など知らぬ存ぜぬとばかりに、半ばアーコロジーとなっているケースが大半だ。


 だがこの世界は、そんなに都合よく出来ていない事がわかった。


 親父さんに、魔獣の駆除など新たに湧いたりして不可能ではと聞いた結果、


「入り口を塞いでおるのに、増える訳なかろう」


 と言う呆れを多分に含んだお言葉共に得られた貴重な情報だ。

 夢も希望もない本当にただの洞窟らしい。

 勝手にWiz的なノリを期待した俺が悪いけども。


 聞けば、そもそもここに定住してる訳ではないとのこと。

 旅の途中で見つけた洞窟の奥から、遺跡の存在を感知してそれを破壊する為に、一時的に拠点にしたらしい。


 新たに洞窟内に魔獣が入り込まぬよう、結界で蓋をした上で狩り尽くす。

 そうして脅威を排除し終えてから、奥に進み遺物を破壊する。

 使命とはこの一連の流れを指して言うのだろう。

 これまでにも幾度となく、繰り返してきた事であり慣れたもののようだ。





 俺は今リシアを膝に乗せ、洞窟内の最終確認に向かった親父さんの帰還を待っている。

 退屈なので雑談混じりに気になった事を尋ねてみる。


「こっそり入って、破壊するってのはダメなの?」


 するとリシアはこちらを見上げ、


「破壊する時、どうしても音が出る、囲まれると危ない」


 そう言って、また前に向き直る。


「そういうもんか。大変だな……」


なるほどね……魔獣がどの程度の強さか知らないが、雪崩の如く押し寄せられては、いくら親父さんが強くても危ないだろう。

 しかし使命ねぇ……正直、前時代的というのが、偽らざる本音だ。

 大事な意味があるのだろうが、そんな物に振り回される人生など、ロクなものじゃない。

 しかしここは異世界。元の世界でだって、隣の国どころか隣の地域ですら、特殊としか思えない常識があった。外様の俺が何かを言う資格など、勿論ない。

 だが分かってはいても、思うところはある。

 それが口調や態度に出ていたのか、リシアの体が少し強張る。


「私は別に、気にしてない。それより、もし私と一緒になった場合、レストに迷惑かける事になる、それだけが心配」


 気遣うはずが、気遣われてしまった……

 流石にこれは看過出来ないので、努めて何でもない風に、


「リシアの手助けなら、全く問題ないよ。だからそう深刻に考えるな」


 頭を撫でながらそう言うと、安心して気が緩んだのか、リシアが船を漕ぎ始める。

 きっとまだ、恩人だから迷惑は〜……なんて、思ってるんだろうなぁ。

 そんなリシアの背中をしばらく眺めていると、奥から親父さんが帰ってきた。


「今、戻ったぞ………」


 なんか……怪我とかは無いけどボロボロなんですけど。

 恐らく愛する娘の為に、相当無茶をしたのだろう。

 半強制だった気がするがそこには触れない。


「父さん!?」


 リシアが跳ね起きる。俺は慌てて仰け反り、ロケット頭突きを回避する。

 危うく顎にいいのをもらうとこだった……


「全て片付いた……我は少し、休む………」


 そのまま寝床に倒れるように横になってしまう。


「レスト! 人化の秘儀、探しに行こう」

「うん、行くけども。少しは親父さん労ってあげて?」


 リシアは既に洞窟の奥に走り出しており、それどころでは無い様子。

 誰の無茶振りで、親父さんがこうなったと。

 哀れな狼に黙祷を捧げながらリシアに続く。

 ってか道はわかってんですかね……




「横道は沢山あるけど、基本真っ直ぐ進めば着くって」


 リシアに追いつき、松明を作りながら聞いてみたら、そういう事らしい。

 二人並んで洞窟の奥に進んでいると、リシアが楽しげにこちらを見る。


「それよりレスト、これってデートみたい」


 とても可愛らしい事を言ってくるが、残念ながら賛同しかねる。


「……そうだね。周りに魔獣の死骸が無ければ、そうと言えなくもなかったかもね……」


 死屍累々という表現が、ここまで的確に当てはまる状況初めて見たわ。

 親父さんが仕留めたり、魔獣同士で争ったりしたのだろうか。

 激戦の爪痕が生々しく残っており、ほぼ間隔を置かず屍が転がっている。

 ここが地獄か……


「むぅ……男女が一緒に歩けば、それでデートって言ってたのに……」


 間違っちゃいないが、なんだろう。付け焼き刃感が半端ない。

 誰かに入れ知恵されただけの知識だなこれ。

 そしてそれは恐らくだが……化身の件と同一人物な気がする。

 まぁそれは後々究明するとして。


「んで後どれくらい歩けば着くの?」

「洞窟は3km程らしいから、もうすぐ遺跡に着くと思う」


 ふむ、km……ね。距離の単位が地球と一緒なのは、何かの偶然か、はたまた伏線か。

 と、一瞬深読みしかけたが、これ多分意思疎通の過程で、翻訳とかされてんだろうなぁ。

 特に困らないし、便利だから別にいいけどね!(フラグを建てていくスタイル)

 しかしまだもう少し歩くみたいだし、何となく聞きそびれていたことでも聞いてみるか。


「そういえばリシアってさ、何であの時罠にかかって………」


 それ以上言葉を続ける事が出来なかった。

 目の前に、巨大ラプトルと表現するしかない生き物が突如現れれば、誰しも会話どころでは無くなる。

 長い牙、鋭い鍵爪、堅牢そうな鱗。

 これ絶対強いって……!

 横を見ればリシアも完全に硬直している。

 親父さん……?魔獣、全て片付いたはずでは………?


「リシアさんや、これ……ヤバいよね?」

「……困った」


 いや本当にね! どうすんだよこれ!

 結構歩いたから結界まで、かなりの距離がある。

 親父さんを呼ぶにも遠すぎるし、逃げ切れるかも不明。

 ラプトルもどきは、今にもこちらに飛びかかってきそうだ。

 いつかのおっさんとのバトルを思い出し、化身したらとも思ったが、身体能力が多少上がってどうにかなるレベルだろうか……

 あの時と違って二人とも怪我は無く、万全ではあるが。

 取り留めのない思考に翻弄されながら、リシアに一応確認する。


「君、あれ倒せたりする……?」

「今の私じゃ、絶対無理」


 無力さを噛み締めるように首を振られる。

 まぁそうですよね。倒せるなら困ったりしないよね!

 さて参ったねと思考放棄しかけていると、リシアが叫ぶように言う。


「今のレストなら、きっと真の化身状態になれるはず!」

「どゆこと! あ、魔力増えたからとかそんなか!?」


 そいや獣耳&尻尾のアレは、出来損ないとかボロクソ言われたな!

 真の化身とやらなら勝てる可能性がある……?


「説明してる時間はない、私を信じて」

「最初から信じてるよ!」


 そう返した瞬間、身体中に違和感が膨れ上がる。

 子狼の姿が消えるのと、ラプトルもどきが飛びかかってくるのは、ほぼ同時だった。

 俺の意思に反して、体が勝手に横に身を投げ出し、すぐに立ち上がる。

 目線すら全く動かせないが、妙に低い視界の端に前足が見えるので、狼になってるっぽい?


【今レストは、完全獣化してる】

【おぉ……これがちゃんとした化身状態なんだなぁ】


 緊張感がカケラもないが、正直もうあのコスプレ姿にならなくて済むのは、本当にありがたい。

 ついでに頭痛が無いのも助かる。魔力を増やした甲斐があったというものだ。


【身体の主導権は、全てこっちにある。後は任せて】


 完璧にいつかの再現ですね……いやあの時は一応、俺の意思でも動けたか。

 今の俺にできる事は、リシアを信じる事だけと。


【わかった、あのトカゲ野郎をぶっ飛ばしてくれ!】


 リシアが返事の代わりに一声上げ、突貫する。

 強烈な体当たりで本当にぶっ飛ばすことには成功したが、さすが魔獣と言うべきか。

 一撃でKOという訳にはいかないらしい。

 すぐに起き上がり、こちらに対する警戒を高める。


【もう一撃…!】


 再度体当たりを敢行するも、学習したのか躱され、爪による反撃まで入れられてしまう。


【クッ…】


 その後もリシアは牙や爪による攻撃を繰り返すが、全て向こうの方が技量的、体格的にも上手な様で苦戦を強いられる。


 ヤバい……やっぱ一筋縄じゃいかんか……

 出来損ないの時より遥かに機敏な動きをしているが、相手が悪過ぎるらしい。


 今の俺にもできる事……

 本当に信じる事だけか……?

 何か、何か些細なことでも。

 一瞬でも相手の気を引ければ……

 この状態でも意識はある……意識があるなら魔術が使える……?

 しかし俺は、布や木の棒くらいしか、未だに作れない。

 そんなもので何が……


【ハァ……ハァ……】


 リシアの消耗が激しい。

 どのみちこのままやられるなら、四の五の言わずに何でも試す!


【リシア! 俺がなんとか隙を作るから、喉元に食らいつけ!!】

【!! …わかった、やってみる!】


 まず大き目の布切れを、ヤツの真上に生成する……!

 突然布切れが覆い被さり、慌てるラプトルもどき。

 一瞬だが視界を奪えた! だがこれだけでは恐らく不十分。

 次に布切れを払いのける前に、真後ろに木の棒を生成!!

 木の棒が地面に落ちる音に反応し、布切れを被ったまま反射的に攻撃を繰り出すラプトルもどき。

 やはり視力を奪った程度じゃ危なかったらしい。

 しかしここまで隙を晒せば………


【これで、終わり……!】


 崩れた体勢を整える間も無く、ラプトルもどきはリシアに首を噛みちぎられ、一瞬で絶命した。







書いててトーキョージャングル思い出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ