夜空にかかる虹
すれ違う人たちは、みんな透明な空き瓶を持っていた。
ある人はポケットに入るサイズの小瓶。また、ある人は両手に抱えるほどの大きさの空き瓶を持っていた。
そして、すれ違う人たちはみんな僕を珍しそうに見ていた。
確かに、さっきから見かけるほとんどの人は若いけれど、僕よりもすごく年上の人たちばかりだ。
「どこから来たの?」
「迷子になっちゃったのかな?」
女の人たちからそんな言葉を聞いて、僕は足早に進んだ。
その道中も多くの人とすれ違い、また多くの人が僕を追い抜かしていった。
そして僕はあることに気がついた。それはすれ違う人の表情が大きく分けて二つだということだった。
一つはとびっきりの笑顔、とまではいかない微笑。どこかスッキリしているようなそんな様子だ。
もう一つは号泣、とまではいかないけど涙をこぼしている人がいた。涙をこぼす人にも、悲しんでいるだけではなく、少しホッとしたような表情をしている人もいた。
ようやく僕は目的地に着いたようだった。僕が住んでいる家がとても小さく見える。
そこにいる人たちは、みんな瓶から砂のをさらさらとまいていた。
その砂は太陽の光を受けて、キラキラと光っていた。
「あら、かわいいお客さんが来たこと」
振り向くと、そこには着物を着た女の人が立っていた。
「だれ?」
「私はここの管理人」
「ここのことを知ってる人?」
「そうよ。詳しく知りたいならこちらへいらっしゃい」
着物を着た女の人はニコッと笑って歩き出した。僕はその背中に追いつくように走った。
大きな木の下にあるベンチに女の人は腰を下ろした。僕はその隣に座った。
「聞きたいことがあるなら、何でも聞いてね」
微笑みながら、お菓子とジュースを僕に手渡してくれた。
「なんでみんな砂をまいているの?」
「みんなまいているわよね。でもね、あれは砂じゃないのよ」
「へぇ~。じゃあ、なんなの?」
「あれはね『灰』なの」
「灰?」
僕はなんだかよく分からなかった。女の人は話を続けた。
「そう。あなたは夢は持っている?」
「うん! 僕は将来、野球選手になるんだ!」
「そうなの。頑張ってね」
女の人はそう言うと、水色に染まる遠くの空を見た。
「でもここは、そんな夢が叶わなかったその『灰』を置く場所なのよ」
僕はもらったジュースを一口飲んだ。考えてもよく分からなかった。
「今は分からなくても、いつか分かる日が来るわよ」
「なに~、その話。夢でも見たんじゃない?」
「そんなことないよ! 本当だよ!」
家に帰ってからお母さんにこのことを話したけど、信じてはもらえなかった。
自分の部屋に戻る階段の途中、窓から外を眺めた。
虹が架かっていた。
そして、今日会ったあの女の人の話を思い出す。
「あら、もうすぐ日が暮れてしまうわね。もう帰る時間よ」
「じゃあじゃあ、最後に質問!」
「何かしら、可愛いお客さん」
「ここはなんていう場所なの?」
「ここはね『虹のふもと』っていうのよ」
読んでいただき、ありがとうございました。