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ブックメーカー;設定失格の異世界冒険記  作者: 間宮三咲
ヴォルステックの湖編
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第二章 「アーヴァシーラ」 4


 おれの話に関する勘違いをされる前に一つ言っておこう。

 おれの話は決して王国までの険しい道を越えトワイライトの使命を果たす冒険物語ではない。

 そもそも東の王国などそう遠くはないのだから、おれは気付けば王なき帝国に到着していた。


 道中、スークロックという小さな集落を発見し、村の住民に話を聞くことにした。

「東の王国? 王の座らぬ国だと? まさかアーヴァシーラのことか、あれならその道を進めばすぐだ」

 夜に訪れたということもあって不気味な集落であると思ったが、高貴そうな剣を下げるおれに対する拒絶するかのような態度はともかく、基本的に穏やかな集落のようだ。

 おれを嫌うのもそのはず、この集落は王からの支配を望まない反王国を掲げる小規模な集落なのだそうだ。王からの遣いの剣を持っているおれは明らかに王国の人間、そりゃ嫌われる。


 ちなみにこの集落に着くまでは一、二時間は余裕でかかったが、敵モンスターもいなかったため難なく到着できた。これまでに一つの川と無人の門を通過したが何もイベントがなく、決して険しい道のりというわけではなかった。

 案外この異世界の地形は簡単に作られているそうだ。


 村人はその道をまっすぐと言ったが、おれが辿ってきた道なので、この村に寄り道せず進んでいても結局は王国についていたそうだ。


 どうでもよさそうな話だが、この世界では訛りも方言もなく、まして王国と反王国にも言語の差がなく、何故かおれがその言葉を認識できているそうだ。おれとしては日本語に聞こえるそうだが、検証により彼らは日本語以外の発音で話していることが発覚したので、この対話に関してはおれの方に特別な何かがあるそうだ。


(アヴァ)? (アヴァ)(アヴァ)だろ」


 これはおれの「東ってどういう意味だ?」という質問に対しての答えである。耳を澄ませて聞くとアヴァと発音している。しかし何故かおれにはそれが東の意であると認識できている。


 集中して聞くと、王国を「ヴァシール」と発音している。

 アヴァのヴァシールで東の王国。恐らくヴァの音が重なっているので略したり訛ったりしてアーヴァシーラとなり国名として定着したのだろう。結局そんな程度なのだどこの世界。

 東京なんて、東の京都で東京都じゃないか。中卒だからそれが由来の真実かは知らないが。


 さらなるしつこい質問の成果として、西をディシと発音しており、案の定西の王国はディシヴァシーラと言うらしい。

 西の王国に関して、何故か村人は頭に疑問符を浮かべていたので、他に正式名称があるのかもしれないが、恐らくディシヴァシーラで通用するだろう。

 由来が単なる発音の組み合わせだと知れば、異世界特有のかっこいい地名も台無しであるとわかった日にもなった。


 それにしてもおれは何故この世界の言語を話せているのだろうか。口も発音もまるっきり日本語なのだが、相手には通用しているし、相手は全く違う発音で話しているし、しかし意味を理解できるし。

 わけがわからん。


 スークロックもどうせ意味の組み合わせなのだろうさ。小学生が作りそうな造語だしな。かっこ悪すぎる。


 とにかく、村に泊まることができなかったので、少し進んだ場所にあった草原で夜を過ごすことにした。ある一つの発見と疑問を持って、外泊することにした。そうだろうとは懸念していたが、流石に人が悪すぎるぞ村人。


 眩しい陽を受けおれは草原の上で目を覚ました。寝ても異世界、起きても異世界か。

 天気は晴れ、牢獄近くの酷い曇りとは真逆の清々しい青空である。

 視界が晴れたため初めて気が付いたが、少し奥に長い壁が見えた。どうやらあれが王国を囲む壁らしい。いよいよハイ・ファンタジー感が漂ってきた。

 ハイファンタジー及び神話などが好きなジャンルのため、興奮しながらおれは王国アーヴァシーラ目指して走り出した。


 道は恐らく王国の門まで続いているはずだ。日本でいう五街道、アジアヨーロッパでいうシルクロードのような道なのだから。


 それにしてもイベントがなさ過ぎる。モンスター一匹としていないのはおれにとってプラスなことではないぞ。

 ゲームでは序盤雑魚敵をちまちま殺してレベルアップし、少し強いモンスターを相手にするという戦法もあるはずだ。おれはその攻略タイプなので雑魚敵がいないと今後が怖くて仕方がない。


 というかモンスターがいない中どうしたらトワイライトはあれほどボロボロになったのだ?


 門番騎士と戦闘した時に感じたが、体の動きが非常に重い。まるで自分の体ではないようだ。剣の一振りが、殴りの一発が重く、自分の体力をごっそり持っていかれる。

 疲れ果てた状態で、マラソン後一分ほど休んだ後に生じる手足が重くなる状態で、サンドバッグを殴った時のような感覚だ。どうにも殴った気にならない。拳を上げ、振り落としているだけにしか感じない。


 何かがおかしい。

 おれの何かがおかしい。


 何故おれは異世界に飛ばされた。

 何故おれは言葉が通用する。

 何故おれは体が鈍い。


 何故おれは過去に戻り、生き返る。


 おれが特別だから、など自惚れだ。何か原因があるはずだ、おれが特別なら特別なりの何かがあるはずだ。


 ともかく王国の門に到着した。高さ二十メートルほどの壁、大きな門。当然ながら門番が門を見張っている。


「すみません、中に入りたいんだけど」

 そう言うと門番はおれを睨んだ。といっても牢獄の門番騎士と同じく甲冑を着ているので実際に目元は見えないのだが。強い視線を感じる。


「見慣れない服装、どこの者だ」

 元の世界で着ていた黒半ズボン、黒半袖のファッションを見て門番が言った。

 それに対しておれはトワイライトの剣を見せて言う。

「西の国の遣いだ。服装は……道中色々あって脱ぎ捨てた」


 トワイライトがボロボロだったことを思い出し誤魔化したが、どうやら上手くいったようで門番は不承不承ながら道を開けた。

 ちなみに門番は二人いたが、片方だけで入国を決めるのはセキュリティ管理が甘いというものだ。


 大して難しくもなかった道の終わり、旅の終わり、東の王国に足を踏み入れた。

 早くトワイライトの使命を果たし、のんきにここで生活してやろう。


 しかし、おれは勘違いしていた。

 地獄はこれからが本番なのだ。王国までの道など、たかだか始まりの大地から次の村に行くくらい容易なもの。

 トワイライトの言葉をすっかり忘れていた。


 おれは彼女に「西の国が滅んでいるため、直ちに王を決めるよう伝えてくれ」と頼まれたわけではない。


「世界を救ってくれ」と言われたのだ。



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