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ブックメーカー;設定失格の異世界冒険記  作者: 間宮三咲
過去編
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第二十四章 「世界の初まり」 3


 一、西都の王にとって東都の王家の断絶は好機であったはず。

 二、王の死によって負の感情は当時東都の方が強かったはず。

 三、王が死んでも王の証は消えたりはしないはず。

 四、支配者が変わった今でも影は退いていない。

 五、東西が分裂しているということは西都は東都の支配下ではないはず。


 これらが謎と前提条件。これらを解決していく。


 まずこの五つをまとめて言えることは二つ。

 答一、王の証が支配力の源ではない。

 答二、西都にも支配力があった。


 そして、その答えと比較して考える。

 一は「支配力の源は王の証ではないので空席を奪っても無駄である」と考えるのが妥当。

 二は「なんらかの理屈で西都から侵略が始まった」のだろう。

 三と四は答一へ繋がり、五は答二に繋がる。


 ここで浮かぶ疑問点。


 問一、支配力の正体。

 問二、なぜ西都から侵略された。


「わからない……なんだ、なぜだ」

「わたしにも……」

 おれとユリアは二人して、考え込んだが全く答えが出なかった。


 ユリアからもらったペンと紙でメモをして考えていたが、暗くなってきた所為で読解不可能になり、二つはポケットにしまって頭の中で考えることにした。

 徐々に辺りが暗くなっていく。

 そろそろ夜である。


 暗闇が向こうから寄ってくる。


「支配力……王の証のルミエルテルでないとするなら、なんだ。あの光は飽く迄も象徴か?」

 いや、そんなはずはない。

 やはりおれの考えが間違っていて、ただ忠告するだけでいいのか?


「光が支配力の象徴でもあり得るとは思う」

 そうユリアは言った。

「象徴であって、実際の効果を持つのは別のもの。それあっての別のものの権力」


 わけがわからない。

 結局最後まですんなりとは終わらせてくれないのかよ……。

 おれの旅は、どこまでもWHYだ。


 ふと王を見る。

 無意識に彼についていっていたが、結局元の位置に戻っていたようだ。

 しかし、おれたちは彼がなにかをしたようには思えなかった。


 影の世界からの開拓、といえば、例えばマーキングをして支配下の領域を増やしたり、火を灯して影を退けたりするのが一般的に考えられる偏見だろうに。

 違うのか? クリスタルを採掘しているようにも見えなかったが。


「なにを、していたんですか?」

 おれは王にたずねた。


 なにもしていなかったように思える、この王に。


 暗闇を背に、不気味に嘲笑する、この王に。


「人を探していた」


 ……?

「人? 人、ですか? 誰ですか?」

「誰でもない。人間を探していた」

「人間を? 自分に従える民衆を探していたと?」

「まさに、然なり」


 民衆を探していた……確かに、建国の条件に国民は絶対だ。

 バチカン市国でさえ国民は存在する。


 そうすると、支配力を上げるためには、必然と、国民が必要であると考えられるな。


 支配力の源は国民だというのか?


 違う。それでは西都は、いや、世界は影に侵食されない。

 しかし国民は一つ突破口になりそうだ。


「ユリア、なんだと思う? 国民に関する、支配力」

「心理掌握とか恐怖支配とか、そういう類の支配力?」

「なんか、負だな、それ」

 負の感情が生まれてはならないんだ。


 なら、負の感情から真逆のものを想像すればいいのか。


 そして。


 そして――。


 おれは一つの答えに辿り着いた。


「は、はは、まさか、おれが一番〝馬鹿じゃねえの〟と思っていたものだったとは」

「なにかわかったの?」

 ユリアがおれに問う。

 ああ、わかったさ、検算もした。



「人と人の間の、〝愛〟だ。もっと理論的に言えば、コミュニティ」



 人間関係さ、要するに。

 心理掌握も恐怖支配も、人と人の間に生じる支配力だ。

 そして人間はコミュニティを支配力とする場合もある。


 例えば、愛や友情というのは、人と人の間に生じる感情的な〝力〟だ。

 そして、例えば、上層部だとか上の連中だとかいった上の組織も〝支配力〟を持っている。


 そうだろう?

 好きな人を傷つけられたら怒るだろう? 例え表に出さなくたって、それは、その愛は間違いなく、自分を駆り立てる〝力〟である。

 会社など職場で自分より目上の立場の組織が自分に命令を出したら、それを遂行するだろう? それは間違いなく〝支配力〟だ。


 なんてことない。

 影はそもそも〝負の感情〟とか例えられてしまうような、曖昧で、物理的に理論付けできなくて、感情的なものなのだ。


 だから、コミュニティといったまったく新しい支配力に退いた。


 未来の状況に合致した。


 王の証ではなくコミュニティが支配権を持っていたのなら、王の証の支配下に置かれていなくても西都は影に飲み込まれない。


「では、どうして西都は影に侵略された?」

 ユリアが問う。

 おれは再び前提の裏を考える。


 支配権を失ったのだから侵略された。

 ということは、コミュニティを失ったから侵略されたということになる。


「なにか、国民のコミュニティがずたずたになるような事件が起こったのか?」


 おれたちは考え込んだ。

 その末、ユリアが答えを導き出した。


「元々西都は貴族が国民を従える王国であったといわれている。貴族の繋がりが滅びれば、必然的に国全体が没する」

 そのはずだ。

 そうなったきっかけは?


「多分、西都の貴族の中には影について理解している人がいたはず。それを前提に考えれば、話は簡単」

 ユリアといういち庶民が知っていた情報を、世界の起源が知らないはずがない。

 ――というのはもっとも、理想の前提なのだが。実際タンザニアだったか、人類の起源になった場所に住む人々が全てを知り得るわけではないのだから。

 しかし、それでも可能性は十分に高い。


「東都から〝王家の断絶によって王の証が壊れた〟と伝わった。そうだよね?」


 とユリアは言った。


 その通りだった。

 理屈がすっと浮かび上がる。


「わたしたちも勘違いしていた通り、伝達者も、王家の断絶が王の証の壊滅を意味すると思っていた。だから、西都にそう伝わった。そして、西都の貴族の内影について知っているものは世界滅亡の危機を提唱した。それによって貴族は慌てふためいてコミュニティが絶たれた。多分、騒動がそこまで発展したことには、元々東都を憎んでいたのに、世界滅亡の危機を呼び寄せたことに増して怒りを覚えたという理由もあるのだろう。そして、その負の感情は東都のそれよりずっと強かった。よって西都から侵略が始まった」


 答えが、導かれた。


 そして、さらに考える。


 考えなくてはならない。


 このままおれはこの事実を王に伝えてもなんにもならない。


 おれは、リーナを、ユリアを、アンナを、トワイライトを、サテライトを、みんなを助けたい。


 そのために未来を書き換える必要がある。


 イレギュラー・アップデートを起こす必要がある。


 どうすれば未来は書き換わる。


 どうすれば世界は変動する。


 どうすれば――。


 冷静になれ。


 王の証は支配力の源ではなかった。


 支配力の正体はコミュニティだった。


 影は人間の憎悪といっても過言ではない。


 だからコミュニティのなくなった西都を侵略した。


 そんなのはわかっている!


 そうじゃない。


 支配力は愛や友情といった明るいもの。


 影は憎悪や不満といった暗いもの。


 だから影は支配力から逃れようとする。


 だから暗いものは明るいものから逃げようとする。


 不死という永遠に続く苦しみは死という循環から退く。


 コミュニティが光で影が影。


 ならその影の元となるものは人。


 しかし人が光を織り成している。


 考えろ。


 今、不必要なものがないか?


 王の証は要するに支配力の許可証のようなものでしかない。


 象徴でしかない。


 必要か?


 本当に?


 かつて一つであった王国は王の証を巡って二つに分裂した。


 王の証の分体である忠誠の証によって身分の差を表現した。


 江戸時代は身分制度をきっちり整えたから平和であったといっても過言ではない。


 それなら、全世界共通である、身分制度は、いや、身分の問題じゃない。


 競争社会が成長するように、ある程度高低差がある方が良い。


 そのために王の証によって身分に差をつけるのは一見良いことに見える。


 だが、それによって嫉妬や憎悪を抱くものもいる。


 全てが良いというわけではない。


 さあ、王の証は必要か?


 そんな〝元凶〟必要なのか?


 いや、必要なはずがない。


 必要なわけあるか!



「そんなものに頼らず、コミュニティを築け! ラーフやジャックはほら貝でリーダーであることを証明するな! たかが光の灯ったクリスタルで自らを王と証明するな! そんなもの、媒介に過ぎない、ただの証明道具であって、だったらたった紙切れだっていい、価値なんてないんだ!」



 おれは怒鳴る。


 なんだ、答えは出ているじゃないか。


「王よ、今すぐその王冠を捨て去れ。さもないと――、迎える未来は真っ暗な、闇だ」


 既に当たりは真っ暗になった。

 夜だ。

 おれとユリア、王と地面しか見えない。

 一寸先は見えるが、数間先は闇だ。


「なにを言う」

「今すぐ捨てるべきだ。あなたが、世界の滅亡を望むのなら、最悪の結末を望むのなら、力づくで奪うまで」


 王は困った表情を浮かべた。

 それはそのはず、いきなり敵対意思を向けられているのだから。

 しかし、彼は溜息を吐くと、王冠からクリスタルを外して、おれに渡した。


「未来を知る者の予言、信じることに間違いなし」


 ここでようやくおれは、はっと気付いた。

 なぜこの人が王になったのか。

 それは成り行きなんかじゃない。


 善い人だからだ。


 人を信じることができる、善い人だから。


「それなら、おれも信じるべきだよなあ」



 ――この先の人間が上手くコミュニティを築くことを。



 おれは証を叩き割った。


 瞬間、世界が歪む。


 運命が書き換わったからだろう。


 おれはユリアの手を握って、しかし歪みに耐え切れず、二人して再びその場にくずおれた。


 はは、またこの構図か。


 アニメーションにしてみれば「またこのポーズかよ、線画使い回しだろ」とか言われそうだ。


 さあ、冗談はさておき。


 ようやく、おれの冒険にピリオドが打たれた。


 長い、長い、時間を、時代を、世界を超越した、まったくありえない、冒険が、終わりを告げる。


 最後に、おれらしく、ハズネ・ガクトらしく、間宮三咲らしく、やはり回りくどく、宣言しよう。


 




 これで、




 王の証の消滅によって、




 それを巡る戦争も対立も分裂もなかったことになって、
















 世界は救われた。















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