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ブックメーカー;設定失格の異世界冒険記  作者: 間宮三咲
過去編
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第二十三章 「やがて物語は循環する」 3


 フェルセマフィから追放者の監獄へと移動する。東都の国壁が遠くに見えたが、どうにも訪れる気にもならなかった。疲れているのだ、きっと。

 そもそもあらかたおれの知っている人物には会った。

 リーナ・ヴァラウヘクセとは遠征先で。

 ユリア・アンツヴァイとも遠征先で。

 アンナ・ヴァルシアとは追放者の拠点で。

 トワイライト・マックスフォードとも。

 サテライト・マックスフォードとも。

 アーリー・パトシオットとは大量発生地で。

 サーシャルトスとはディザムで。

 アーマード・ケルビンズとも。

 ビルじいさんにだって会った。


 会っていないのはよく顔の知る人物の中ではブルーノ、アルルカ程度だし、会ったところで不利益しかないので東都に用事はなくなる。

 なにも急ぐことはないが、まだ世界が救われたわけではない。

 これからおれは初代国王に会いに行く。

 時代を越えて。


 そこにはきっとユリアもいるだろう。『いろは』の効果が服にも反映されるように、きっと、その上彼女も守護を宿しているのだから余計、共にタイムリープができるだろう。


 追放者の監獄に到着した。

 監獄はその名の通りの場所で、侵入すら困難とされる強制収容所であった。東都の兵が監獄を見張り、重騎兵が中庭に鎮座している。

 あいつが、いずれ死に、影人となっておれを襲ったのだろう。


 しかしおれはここに侵入せねばならない。


 ここで、目覚めなければならない。


 この中で。


 そのために、まず、監視の目が届かない塀に近づいて、なんとかして強引によじ登る。

 続いて有刺鉄線すらどうにか血を流しながらも登りきり、敷地内に落下する。痛みなんてもう慣れた。もはやこの体は別人のものだ。ここは言ってしまえば夢の中なのだ。


 建物の中に侵入する。

 空の牢屋ばかりだった。

 とはいえ、本当に〝追放者の監獄〟のようで、実際『追放者』だけが収容されているわけではなさそうだ。

 東都の中でも王に反逆を決意し、失敗したものたちも収容されていると思われる。

 彼らの前を通過するたび、鉄格子の隙間から手を突き出して助けてくれ助けてくれと懇願される。


 おれは彼らの手を払い除けなければならなかった。

 今は救えない。

 今救ってしまったら歴史が変動してしまう。

 変動するのはこの後で良い。


 少し、ニュアンスは違うけれど少し、カンダタの気分を味わった。


 おれは最上階、とはいえ二階なのだが、一番奥の牢獄の前に到着するなり思い出にふけっていた。

 この扉をかち割ってトワイライトが現れたのか。

 今さらあの状況を振り返ると、少し滑稽だったりする。当時はあれほど右も左もわからない状態だったのに、今では世界を救おうなんてほざいている。


 まったく、トワイライトもとんだ使命を渡してくれたもんだ。


 鉄格子状の扉の奥には誰もいなかった。

 しかし生々しい死体が待ち構えていた。

 どうやらここは死体遺棄所のようだ。屍の山が形成されている。


 扉は開いていた。囚人がいないからだろう。それにごみ捨て場をいちいち鍵で開けるのは面倒だ。



 おれは初まりの場所へ戻ってきた。


 やがて物語は循環する。



 壁に寄り掛かる。

 屍の顔が頬に触れているが、我慢だ。

 この際は仕方がない。


 木を隠すなら森に隠せ。

 おれはこれから六年間眠り続ける必要がある。ここで。

 ならば実際に屍となって屍の山の一部になってしまえばいい。


 おれはしかしどう自殺するのか全く考えていなかった。

 はて、どうするか、といったところ、ちょうど隣に元兵士の死体があったので、明後日見たところ、最後の希望を捨てなかったのか、服の内にナイフを隠し持っていた。


 さあ、これからハズネ・ガクトは六年間眠り続ける。


 それと同時に間宮三咲は数百年時を遡行する。


 運命を変える。


 世界を救う。


 待っていてくれ、ユリア、今から行くぞ。



 おれは自分の頸動脈を掻き切った。















 暗闇の中で覚醒する。



 意識が自らの肉体に戻り、東都を旅していたときの服装のおれはその場に立ち上がる。


 なんだ、ここは。

 数百年前の第一印象は最悪だ。


 そう、ここは数百年前の、〝王〟が誕生する前の世界。


 なにもない。

 文字通り無の空間が広がっている。


「ようやく起きた」


 右から声がした。

 おれは声の主に振り返るなり、安堵する。

 無性に抱きつきたくなる。


「ユリア……」


 彼女は笑顔でそこに立っていた。


 逃避行の果てではなく、革命の最終目的地であるここに、勇敢に、立っていた。


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