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ブックメーカー;設定失格の異世界冒険記  作者: 間宮三咲
ヴォルステックの湖編
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第二章 「アーヴァシーラ」 3


 ここまで来るともう自分が不死であると認識せざるをえないだろう。

 おれは再び見覚えのある牢屋の中で目覚めた。ぼうっと直立しながら意識を戻した。手には美しい剣があり、傷も血もない。腕が綺麗に戻っている。一度ぶった切られたとは思えない。痛みと恐怖と記憶だけが残っているが。


 一つ明らかにしておくために、真実を知るためにおれは再び同じルートで正門を目指した。牢獄の間取りはまだわかっていないが、同じルートを通るなど容易い。

 だから、全く同じ場所にいるだろう人間を探すのも容易い。

 そうトワイライトだ。


 予想通り、トワイライトは生きていた。彼女がおれを再び救ってくれたとかそういうことではない。


「また、きみか……」と彼女は呟いた。

「なあ、あんた。さっきここでおれと会わなかったか? 英雄の話をしなかったか?」


 おれがそう問うと彼女は目を丸くした。まるで泣きそうであるが、何故嬉しそうに彼女が泣くのかはわからない。


「いえ、牢屋で会った以来会ってないわ。でもきみともう一度会った時は空間の歪みと英雄のことを話そうと思っていた」


 やはりそうか、そういうことか。


 だからおれは警備員の防具を装備していない状態に戻っているのか。


 つまりおれはタイムリープしている。


 死ぬたびに少し時間が巻き戻って生き返る。だからおれは綺麗に復活しているし、だから壊れた正門も復活しているし、だからおれは彼女と話した内容を憶えているが彼女はおれと会っていないことになっているのだ。

 しかし原理がわからない。誰かがおれに魔法をかけて不死にさせたのか、それともこの世界には不死という種族がいて偶然おれがその一人になったのか、それともおれは特別な存在なのか。


「ありがとう。もうわたしは十分だ。この世界に未練はない……いや、強いて言うならここで死なずにもう少し生きていたかった、かな。でも矛盾している未練なんてつまらないから、潔くわたしはここで死ぬ」

「…………」

「最期にきみと話せて光栄だ」


 おれは踵を返し彼女の視界から消え、二度目の十字を切った。実に彼女の意思は支離滅裂なものであった。時空を超えて、死を超えて。


 おれは初めて正門に行ったルートを歩く。しかし中庭へのドアには行かず、中庭側に窓がある一階の通路で止まった。

 その途中で空間の歪みを感じた。前のループもその前のループもこの時間に空間の歪みは発生していなかったのだが。まあ気のせいか。

 そっと開けた窓を越えて中庭に移動する。そう、石像状態の騎士の右側である。距離があるのでどうやら気付いていない。剣を水平に、騎士に向かって真っ直ぐに構える。チュウニビョウの奴らが刀剣類を持った時にやりそうな構え方である。


 そして騎士の右脇腹の紋章めがけて全力で走る。

 それが弱点であることを祈って。


 剣が紋章に触れようとした瞬間、剣とともにおれは倒された。騎士が右手でおれの剣を払ったらしい。

 騎士は立ち上がる。動作が遅い、まるで死んでいるようだ。やはりこの世界では不死は珍しくないのか? よく不死、死者を題材にする小説、ゲームがあるがそんなものなのかここも。


 しかしいいか騎士、おれは決意した。

 こんなところでいつまでも止まっているわけにはいかない、そのために何度でも死ぬ覚悟はできてるんだよ――例え上辺の決意だとしてもな!

 人間をなめるな、怪物!


 おれはすぐさま剣を握り直し、両手で騎士の右脇腹に突き刺した。まだ起立動作の途中なのか上手く反応できなかったらしく、さらに一見鋼鉄の防具に見えるそれは大した素材でもなかったそうで、鈍い、硬い肉に刃物を突き立てる感覚とともに剣が騎士の肉体に刺さった。


 まだくるか、くるならこい。


 が、驚くべきことに騎士がうめき声すら上げずに倒れた。地面にひれ伏した。その屍から大量の血が流れ出し、死を知らせた。


 この程度か? いや、こんな体つきの良い騎士がたったの一撃で死ぬのか? そんなことありえるか、こんなあっさり勝負が終わるはずないだろう。

 確かに開始早々ボス戦とか頭狂ってるけど、そりゃこの牢獄の番人なんだろうけど、この弱さだと脱獄した数人で倒せるぞ。


 しかし動かない。騎士は倒れ伏したまま微動だにしない。


 おれが強いみたいな描写ではあるが、ただたんにこいつが弱かっただけだ。いや、こんなものが物語にでもなったらどこも面白くない。

 おれはこいつに二度殺されて、三度目で覚悟を決めたら勝てた、なんて主人公補正にもほどがある。


 ……いや、主人公補正なのか。一般人が異世界なんかには飛べないものな、おれは異世界ものの主人公的存在なのだろうな。

 だからといってこれほどまで読者を呆れさせるストーリーもなかなかないだろう。まあここは現実、いや異世界だけども物語の中ではないので理不尽だったり意味不明ってのが世界のおおよそを占めている。

 実際、ノンフィクションものは面白い事実だけを選んでいるのだから。ただの一般人の日常生活を書いたところで、ただの学生の日常を書いたところで、ただの幼児の昼寝を書いたところで売れるはずがない。

 まあなんだ、いずれおれの異世界生活が楽しくなるよう期待は絶えずしておこう。


 問題は正門、どう開ける。全体重を乗せ、足が地面を押す力の方向も反作用の方向に変える気持ちで扉を押したが、びくともしない。いや、ただの木の扉のはずなのに開かない。

 やはり、開かない。


 そうだろうとは思っていた。


 取り敢えず扉に何らかのカラクリがないか周辺を見ると騎士にあったものと全く同じ紋章があった。といってもかなり小さいので気が付かなかったのだろう。

 触れたら開くのだろうかと思ったがそうではない。試しに騎士にやったように剣で突き刺してみると、木の扉にひびが入り崩れた。

 崩れた。扉が。

 いやいや、どう考えてもおかしい。この世界では非常時のために爆発の紋章というスイッチをつけているのか?

 まず爆発はしていないし、そんな確実即死的魔法を身に付けていた騎士は自殺願望でもあったのかという話だ。


 とにかく異世界に理屈を求めてはいけない。魔法やら呪術やらでぶっ飛んでる世界なのだから。これで外に出られる、ハッピーさ。


 おれは正門をくぐり、前に広がる長き道の一歩を踏み出すのだった。

 そう、王国への道ではなく、おれの最終目的地までの長き道を。


 平和までの長き地獄の道を。


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