表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブックメーカー;設定失格の異世界冒険記  作者: 間宮三咲
過去編
63/75

第二十一章 「伏線頒布」 2


 教会の脇部屋に書斎があり、そこにトワイライト・マックスフォードは座っていた。

 若い。それにあのとき受けた印象とはかなり離れた雰囲気を感じる。


「あら、サテラ、客を許すなんて珍しいね」

 彼女の声色はとても優しい。なにか、親切心の塊といっていいレベルで優しいと感じる。

 あの全てを悟ったような――影人を、生身の人間を殺し、あげく自分の死すら確信したあの表情を六年後に浮かべるとは到底思えない。

 サテルは明らかに悪い女だ。笑顔が不気味。

 対照的にトワイライトは優しい女だ。笑顔が可愛い。


 やはり、こんな人が人を殺すなんてありえない。

 ありえない、から、あんな表情を見せたのだろう。

 多分、彼女には元からサテルの部下を殺す意志などまるっきりなかった。だが、なにか真実を知ってしまったのだろう。やむをえず殺すしかなかった。

 その後、堕落した彼女は影人に襲われ、自らの妹を殺し、追放者の監獄へ訪れた。


 推測するに、サテルの部下を助けたのだろう。

 影人化していたサテルの部下のもとに居合わせたトワイライトは、部下の「影人になりたくない」という望みを受け入れて、自分の信念を覆し、最も憎んでいた方法――つまり四肢を切断し、心臓に杭を打つことでそれを叶えた。


「元々はアンナの客。敵意はないようだ」

「そう。身体検査までしたそうで。ありがとうね、二人とも」

 なんか六年前のあなたキャラ結構違くないですか?


「そして、きみは名をなんという?」

「おれは……いや、名前なき放浪者さ」

 時の放浪者。

「それならいい、それで何の用?」


 やっとおれは彼女にたずねた。

「ディザムの方へ行く予定はあるか? もしあるならいつ行くか教えてくれ」

「あら、外部に漏れていた?」トワイライトは柄にもなく口をおさえた。

「なぜ知っている」サテルがおれの手首を握ったかと思うと捻った。ちょっとした逮捕術というか合気道の技だ。おれは重心を見失ない、その場にくずおれる。


「痛い痛い、サテ……サテライト、そんなことどうでもいいだろ」

「そうだな、どうでもいい。それよりも情報漏洩の犯人を捜そう、しっかり尋問してやる」

「サテル、おまえ、それはまずいだろ、あとそれで仲間割れとか起きたらおれの背負う罪悪感凄いんだが」間違えてサテルと呼んでしまったが、どうやら問題ないらしい。

「冗談だ」といって彼女は手を解放した。


 まったく……まあ失言か。

「それにしてもきみは弱いな。結局なにがしたくてここに来たんだ」

「だから、今さっき質問しただろ。あと、なめてもらっちゃ困るな、腕が鈍ってなきゃ影人は三人同時に相手できるぜ」

「嘘言うな、ノッポ」と久しぶりにアンナが喋った。なんかこの暴言もそのロリ容姿とロリ声を伴うと途端に可愛いな。

「きみ、その話が真実なら隊長と同じ戦力よ」

 そうかその隊長が追放者の英雄……なわけないか、それならあのときのあいつら――アンナとサテル、そしてトワイライトが覚えているはずだ。


「わたしたちは明日、ディザムにて影人討伐を行う。月に一度ほどの大事業だ」

 トワイライトは言って口を閉じた。

「明日……か」

 明日、そこで予期せぬ影人の大量発生が起こる。


 そういえばこの頃その近くに英雄サーシャルトスがいたはずだ。みんな忘れているだけでやはり彼が英雄じゃないのか?

「なあ、ディザム付近にサーシャルトスがいると思うのだが、知っているか?」

「はん! そんな奴どこにいたってどうでもいいね!」

 ……え。サテルが頬を膨らませた。どうやら本気で腹が立っているらしい。

 まあ、そうか、サーシャルトスは東の人間だものな。


「あんなただ力の強い人間というだけでタイミング良く証を受けた奴なぞわたしたちの足許にも及ばないわ」

 ええ……でも力が強いことは認めるのか。

 けれどもし見かけたら、助けを求めるか。


 さて、要は済んだ。

 もうここにいる必要はない。

 そもそもここには「影人の大量発生の日を知る」という要しかないので、もう顔の知っている追放者の面子全員に会えただけで幸福だ。


「教えてくれてありがとう。おれはここを去るよ」

「随分とあっさり消えるね」トワイライトが横目でおれを呼ぶ。

「あっさり消えないとな、運命の歯車に影響が出ちまう

 おれの顔を覚えていられると、少々まずいからな。


「みんなと、仲良くしろよ、それと……意見が割れても、人を恨んだりするなよ」


 最後にアンナの頭をぽんぽんと叩いてやり、部屋を後にする。

「じゃあねー」なんて圧倒的に幼稚な字面の挨拶をおれに送るアンナ。

「ああ、()()()()()

 今度こそは教会から立ち去る。


 思えば、おれはいつだって立ち去るのだけはあっけない人間だった。


 いつだって。


 さあ、時刻は夕暮れ。

 あれだけ伝説視していた西の王国の近くにいるというのに特に用事はないので先を急ぐことにした。

 ここは夢の中のようなものだ。

 恐らく、一度として寝なくても――精神的には死んでしまいそうだが――肉体的には滅びないだろう。

 思えばあの惨劇の渦中一睡もしていなかった。


 先を急ぐ。

 これは時間的にも空間的にも運命的にも先を先に行くことを意味する。

 これから呆然とこの時代に居座れば、きっとなにも起こらないだろう。

 けれど、もしおれがこの時代にきたことに意味を見出すなら、おれはなにかをするために来た。

 きっと、〝六年前〟というこの世界に秘める重要な年になにかをしなければならない。


 まずは、第一、〝追放者の英雄〟に会いに行こう。


 先――つまり明日の遠征に立ち会うために、ディザムに行く。

 おれはやっと着慣れたコートを整え、未来のトワイライトからもらった剣を握る。


 ――と、そのまえに地理情報が全くないので地図を買いに行くことにした。

 結局西都に用事あるじゃないか。

 さて、とはいえ金がないな。


 またカツアゲ……をする気にはなれないな。

 なら、買わなくてもいいか。

 なにも地図を購入する必要はない。不便だが、ここで道を記憶すれば問題ないだろう。

 それにおれはユリアと共にここに来た。その道を辿ればいずれ思い出すだろう。

 ユリア……なぜ彼女がここにいないのか、理由をつけるなら彼女が今この世界にいるからだろう。

 そしてなぜおれがここにいるのか。

 それは、ハズネ・ガクトという存在が今この場にいるからだ。

 つまり、おれはここで寝ていた〝ハズネ・ガクト〟に憑依した。そう考えると簡単だろう。


 西の都を歩く。

 やはり、ここは豪華だ。東都がレンガ造りなのに対してこちらは大理石。

 東都をヨーロッパの一般的な建物とパルテノン神殿だとするなら、こちらはアイシュヴァンシュタイン城だ。


 都の中心に背の高い明らかな王城があったが、それを遠目に見つつ、雑貨店にて地図を読み込んだ。


 なんだ、意外と憶えているじゃないか、道。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ