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ブックメーカー;設定失格の異世界冒険記  作者: 間宮三咲
東京編
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第二十章 「絶対におまえを救ってやる」 1

 どうやら気絶していたらしい。

 目が覚めれば病室のような場所にいた。しかし見た感じ病院ではない。

 どこだ? しかしこの雰囲気は知っている。


「おや、目が覚めたかい。……逆にそっちの方が眠ったか」

 結構低い女性の声がした。

 そちらを見れば知らない二十代前半くらいの若い顔。

〝そっち〟を見れば月島がおれが寝ているベッドに顔を埋めて寝ている。


「ここは……」

「きみが退学した学校の保健室だ。わたしは養護教諭の日笠(ひかさ)(てる)、聞き憶えはないかな」

「ああ、ありそうだけどすみません知りませんね。というかすごい名前ですね」

「よく言われるよ……ふふ」


 うわあ、どっかで見たなあこんな奴。

 どこだっけ。


 ふとおれは養護教諭つまり保健の先生に聞きたいことを思いついた。


「ひかさささん」

「さが多いぞ少年」

「噛んだんですよ……」くそ、言いづらいなその苗字。

「よく思われるよ」

「だとおも……ん? 思われるよ? さてはおれの心を読んだな!」


 つい敬語が消えてしまった。

「違う違う、日笠さん。聞きたいことがあるのですが、いいですか?」

「ああいいぞ。なんなりと。ちなみにわたしはまだ独身だ」

「…………」


 聞いてねえよ。


「痛みを伴う夢ってあるんですか? それに加え一週間くらいそこで寝たり食べたりもできる」

「夢の中でも引きこもり生活を送っていたのか……少年、わたしでよければ引き取ってやるぞ」

「違う、例えだ! それにあんたはどんだけ結婚したいんだ!」

「うるさいなあ」

「誰の所為だ、誰の」


 こいついちいち話の骨を折りやがって。

「ああ、確かに痛覚がある夢は存在する。というのも二つの可能性が考えられる。一つは痛む場所にそもそも問題がある場合。もう一つは脳が痛みを受けたと勘違いする場合」

 今は全身が痛いが、以前にはどこにも問題はなかったはずだ。


「夢の中で眠ることはできる。なにせ夢中夢ではないからだ。味覚も脳の勘違いで説明がついてしまう。まあその程度だ」

「そうなんですか。ありがとうございます」

「いやいや。なんのことでもないさ。さあ月島くんが目を覚ます頃だ、後はよろしく」

 こいつなんでそんなタイミングがわかるんだよ……。


 言って日笠さんはどこかへ行ってしまった。あんた養護教諭なんだから保健室にいろよ。


「ううん……」

 月島さんが唸った。

 というか起きた。


「あれ、寝たんだ……それに起きてたんだ……」

「主語を入れろ……何が何だかわからないぞ、その文章」

「見事な倒置法だね」

 どんな返答だよ、まだ寝ぼけてるのか。


「夢を見たの。とても暗い夢だった。終始暗闇の中で、ひたすら誰かを待っている。そんな気がした」

「奇遇だな、おれも昨日夢を見た。なんか変な夢だったが、忘れちゃいけないような気がするんだ」

「わたしも昨日夢を見た。確かに変な夢だった。というか怖かった。何度も死んで死んで、今まで見た夢の中で一番怖かった。けど、どうしてだろう、思い出せない」


「そうか……なんだか引っかかるが、まあ」


 所詮その程度だろう。


「夢なんてまともに受けてたら十七時間睡眠中毒になるぞ」

「ええ……ええ? 十七時間?」

「ああ。昨日十七時間寝ていた」

「だからこんな保健室に連れてこられるのよ」


「そうだ、よくおれの高校がわかったな」

「だって同じだもの」


 え?

「高校も同じだったのかよ! おまえこの高校の生徒かよ!」

「なに、驚いて、知らなかったの?」

「知らねえよ、逆におまえはなんでおれがこの高校だって知ってるんだよ」

「出身校同じじゃない」


 うわあ、それだけの理由で知っているのか……怖いな学級委員。

「それにおまえ意外と頭悪いのな」

「あなたが意外と良いだけよ。あと学級委員でも学級委員長じゃないし。中の上くらいの学校に行くのも普通でしょ」

「まあ、普通、だな」


 案外普通の少女だな。

「それより、ありがとう。ここまで運んできてくれて」

「え、ああ、うん。近かったし大丈夫よ。あと、ガクトくんなにがあったの、ボロボロになっ……」


 え? あれ?


「あれ、わたしなにを言って……」


 ガクトくん?


「なぜその名前を知っている」

 他人から見ればなんだこの厨二病と思われそうだが、そんなのどうでもいい。


「わたしでもわからないよ、自然にそう……」


 まさか……やっぱりあの夢が絡んでいるのか?

 それなら、聞くほかあるまい。


「月島さん。きみの幼馴染の名前を教えてくれ」

「いきなりだね」

 しかし彼女は答えた。



簗瀬(やなせ)結愛(ゆあ)よ。中学も高校も一緒よ」



 は、はは。

「はははは、なんでだろう、笑えてくるよ。きみのときと同様、そいつの名前も憶えているし、顔も憶えているのに、ずっと忘れていた」


 なんだろうなあ、この感覚。

 どうせその友人に杏奈(あんな)なんて奴がいることが容易に推測できる。


「月島さん。もし、その夢がハッピーエンドで終わるのだとしたら眠るかい?」

「ええ、もちろん」


「それなら、おれはここでお暇するよ。またあとで会えるかな、また明日に」

「会えるよ。ほら、アドレス交換しよう」


 電話を取り出し、女子と初めてアドレスを交換した。


「ありがとう。じゃあ、また明日」

「うん」


 おれは保健室を出る。

 そして右で立っていた日笠さんに聞く。


「そうだよな、あなたはそんな人だ。一つ聞いていいか?」

「なんなりと」


「集団で同じ夢を見ることってあるのか?」


 日笠照の答えは――。


「ありがとう。それじゃ、おれはあなたからもらった強さで、もう一度旅に出るとするよ」

「ふふ、そうだ、きみはそんな生意気な奴だったよな、少年」


 おれは家へ向かった。

 さすがに帰り道は憶えている。


 さあ目的地はベッド。

 引きこもりかよと思う言葉だが、むろんおれは引きこもりだ。


 まあ今日外に出たんだけどね。


 家まで走った。

 息が上がるほど。

 あと五分で世界が滅びるというくらいに。


 そこでおれは二人の顔を思い浮かべる。

 月島里奈、簗瀬結愛。


 そしてもう二人。


 リーナ、ユリア。


「絶対におまえを――おまえらを救ってやる!」


 街のど真ん中で叫んでやった。


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