第十八章 「世界の終わり」 3
もしおれの冒険を起承転結でわけるとしたら、今はどこに属するのだろうか。
そろそろ目的地に到着するから結?
ラスボスが鍵を握っていそうだから転?
それともまだ承?
はたまたまだ起?
自分では判断なんてできないだろう。
それともなにか、カオティック・レコード理論のように着目点を変えれば結果も変わってくると?
この冒険自体に着目すれば結になるだろうが、人生に起承転結をつけられない以上、人生に着目すればなんでもないのだろう。
それにしてもいつおれの冒険は終わるのだろうか。
そもそも終わりとはなんだ。
どうすれば終わるんだ。
ラスボスを倒せば終わるのか?
それが終わり? 冗談じゃない、そんなオチのない馬鹿物語だったらこんなに長く冒険した意味がない。
誰もが幸福になって終わり?
それで、おれはユリアやリーナたちと共に生活する?
確かにそれもありかもしれない。
それとも…………。
おれは考えた。きっとこれが答えなのだろう、と。
それとは別に驚いた。
おれが、あんな体を重く動かしていたおれが軽々と影人を殺していたのだ。
ミッシェルに近づくにつれ、正確には西都に近づくにつれ影人の量が増えている。
しかしサテルの特訓が効いたのかばったばったと倒せている。
ユリアは驚いた表情を浮かべていた。まだ彼女に影人を斬らせていない。
いやどんだけ強いんだよ、おれ。
というのも、影人にも紋章はあって、それが見えている所為で一撃必殺なのだ。
特訓をしていなかったら紋章なんて見れもしなかっただろうが。
影人の戦闘力は個体差があるが平均してレーゼくらいはあるだろう。
ちなみにリーナの影人の戦闘力はレーゼの二、三倍ほどでサテルがぎりぎり勝てる程度なので、そのくらいの敵がこない限りは余裕で勝てるのだ。
いずれ現れるのだろうが。
きっと、おれたちがぶっ倒れるまでにはでない。
そう祈った。
疲労がたまり、その心の隙間に影が入り込んでくる。
本当にぶっ倒れそうだ。
それに周囲は草原ではなく荒野でもなく、灰だ。
灰なのだ。
元々は森林と住宅小屋という見事な村だったのだろうが、今では草や木などの有機物は灰と化して鉄や銅などの無機物は錆びている。
「ここがミッシェルだったりはしないか?」
「隣……」おれは戦闘をし、彼女には最短ルートを探してもらっている。
なんといってもミッシェルはなかなか栄えていた街なのでとても広く聖職者の墓地が簡単に見つかるとは思えない。
「了解」
「こっち」と彼女が促す。
おれは戦闘をやめて走り出す。
「おお、あれか」
しばらく走って目に入った。
「おいおい、西の方が明らかに栄えてないか?」
京都とローマの差くらいに違う。どっちも綺麗な景観だが豪華さが違う。
いや、聖職者の街だからか?
とにかく、ミッシェルの塔が見えた。
ひとまずあれが目的地の導だ。
「元々西都の方が財産や資源に富んでいたから。けれど東都の方が経済的に優れた。西都は貴族の権力が強いのに対して、東都では民衆が輝けるから」
「なるほど」なんという歴史だ。東西に溝が生まれるのも当たり前だ。
ミッシェルに到着したときには既に息が上がり、精神にきていた。
罪悪感に似た負の感情に押し潰されそうだ。
それにしてもやはり豪華だ。
東都がレンガ造りなのに対し、西都は大理石ときた。
「あとは、初代国王の墓に行くだけだ」
ああ眠い。
もう横になりたい。
歩みを止めたい。
目を閉じたら眠れそうだ。
眠ったらどうなるんだろう。
目を、覚ますのだろうか。
ああ、そうなのだろう。
ユリアと街の中心の塔を目指す。
その塔の横に墓地を見つけた。さらに言うと教会の前だ。
その墓標に「初代国王ガーラ・セウリュトス」と記されている。
花瓶に供えられた花も灰になってしまっている。
「これ、だ」
その達成感からおれたちは膝から崩れ落ちた。
やっと、旅の最終目的地に到着した。
「ユリア……手を握ってくれ」
手を差し出す。
おれはユリアの泣きつつもとても綺麗な満面の笑顔を見た。
「はい」
彼女がおれの手を握る。
涙が地面を濡らす。
淀んだ空気が横になって倒れているおれたちを押し潰そうとする。
「ありがとう……また、あとで……」
必ず…………。
それと、あとは任せたぞ。
間宮三咲――妄想の設定なんかじゃない、本当のおれよ。
喉が渇いた。
おれはスマートフォンから現在時刻を確認する。
「ああー、十七時間も寝やがって、畜生そりゃ喉も渇くし変な夢も見るよなあ」
まあ二徹してたし、当然かな。
それにしても異様に長い夢だったな。
内容はもう忘れてしまったが、なんだか悲しい話だった気がする。
それに、設定が滅茶苦茶で、おれが無双してたような……夢想で無双か……まあたまにあるよね、自分が英雄みたいになっちゃう夢。
けど、案外気持ちよかったのかもな。
羽捻学斗ならこんなとき夢を思い出せるのだろう。
自分を励ますために描いた理想の自分、羽捻学斗。
クズで臆病なのに、信念を貫いて努力を続け、最後には英雄になってしまうような奴。
間宮三咲とかいう女々しい名前が嫌いであるゆえにつけたかっこいい名前。
おれの反面教師であり見習うべき存在。
いつかこいつの小説でも書いてやろうと思ってはいるが、どうにも文才も発想力もなく書けない。
「ならさっきまで見ていた夢でもネタにするか……」
あれ、どんな話だっけ。
夢って本当すぐに忘れてしまう。
けど、なんか、羽捻学斗にひっかかるような……。
まあ忘れてしまうものは基本的にどうでもいいことって言うし、しょうがないか。
それに、思い出そうとするとなぜか悲しい方面で泣けてくるのだ。
パソコンのモニターに向かう。
「あ、そうそう、この小説読んでた途中だったんだよね。おおっ、最終話じゃん、よく寝れたなあ、おれ」
独り言が虚しく部屋に響いているが気にしない。
おれは小説を読み終える。
「うわあ、夢オチとかないわあ、解決策思いつかなかったからってそれは最低でしょ」
期待してたのになあ。
つまんね。
二度寝をする気も起きず、珍しく外にでも出るかとおれは私服に着替えた。




