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ブックメーカー;設定失格の異世界冒険記  作者: 間宮三咲
ヴォルステックの湖編
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第一章 「死という地獄の始まり」 3


 牢屋は脱出したものの、この建物自体はまだ出れずにいた。というのも、そもそもこの建物の構造を理解していないので、ここが何階であるかもわからないのだ。今言えることはこのフロアが最上階であるということ。

 トワイライトは屋上を突き破ってこのフロアの廊下へ落ちた。ということはこの上には何もない。

 しかし彼女は驚異の跳躍力で軽々と屋上へ上がっていったが、おれにそんな力はないので、ただひたすら歩き回るのだ。


 少しして、中庭を覗くことができた。どうやらここは二階のようで、建物自体はそう大きいわけではないようだ。

 監獄、いや強制収容所のようだ。レンガ造りはそれを連想させる。ホロコーストについては調べたことがある。歴史的独裁者ヒトラーの行い、ナチが何をしたか興味を持ったからだ。

 トワイライトはおれ達のことを追放者と呼んだ。それはこの世界の独裁者がある人種、民族を迫害し、偶然おれがその中にいたっていうことではないのか。


 どちらにせよ、おれは異世界に飛んできた身であり、その移動先が偶然追放者の監獄の中だった、ということなのだが。


 薄気味悪いこの死者の館にい続けるのはそろそろ精神的苦痛を覚え、吐き気がしてくる頃だ。いっそのこと床をぶっ壊したいのだが、願いが叶うはずもなく、鋼鉄のように壊れようとしない。

 楽しようとしていても、結局は簡単に階段を発見できた。牢屋を出てからこれまでにたった一度としてイベントが起こっていないことに何かを覚えるが、しかしこれも簡単に中庭へ出ることができた。

 何だ、こうも簡単に出ることができるのか。中庭は見たところ正門と繋がっており、それとは逆方向にはまだ形の残っている石像がある。重そうな斧を担ぎ、片膝をつけて座る、豪邸が庭に置いていそうな石像。


 この監獄のどこかで息絶えているトワイライトが気になったが、これ以上ここに留まり続けるのはむしろおれの方が危ないので、先を急ぐことにした。


 それにしても何故おれは異世界へ飛ばされた。そして何故その先が王都やら美しい自然の村やらではなく、この汚い監獄なのだ。そもそもここはどういった設定の異世界だ。西の国々が消滅しているとは言われたが、それはどんな状況だ。

 謎が多すぎる。始まりの地が牢屋の時点で情報量は圧倒的に少ないのだが、今わかることはまず、現在地が賑やかではないこと、普通に剣とか使えるということ、おれが世界を救うという任務を請け負っていること。


 ここはどこだ。東の国が目的地らしいが、さらばこの先冒険となりそうだ。冒険記ものはよくあるが、今の時代スウィフトのガリバー旅行記すら知らない奴がいるほどだ、戦闘がなければ面白く感じられないだろう。

 と客観的に言ってもその過程によるとおれはその冒険記の主人公ということなので、冒険をさせてくれと頼みたいところだ。

 戦闘など御免だ。非力で軟弱なおれは戦闘ものの主人公なんて十万年経ってもなれやしない。そもそもなる気がないのだから。死ぬなんて嫌だ。死にたくない。人間の本能だろうそれがおれにとっては信念なのだ。


 そう考えに没頭している間に、どうやら正門までたどり着いたらしい。だが、驚くべきなのか、扉が綺麗に閉まっていた。それもそのはず監獄の扉が開いていたら監獄失格だ。

 これまた今度はパズル系になるのか。そろそろ異世界ものか冒険ものか謎解きものか判断させて欲しいところだ。

 と呑気に考えていた。


 背後で鎖の音がするまでは。


 反応する前におれは向かって左側に薙ぎ払われていた。鈍い痛み、鈍器のような揺れ、そして地面に衝突する乾いた痛みと、腹部から感じる熱さ。

 これこそ突然の出来事で、頭が追いついていけない。懸念はしていたはずだが、どうにも処理できない。何が起こった。この一瞬でおれに何が起こった。


 それはやはり一瞬でわかった。

 おれの腹から下、つまり下半身がない。腹を見ると脚がすっかり消えて腸が垂れ、血を大量に撒き散らしながら監獄の地面を赤に染めていた。


 なくした下半身といえば、その敵の前に落ちている。


「が……あ、ああ、ああああああ!」

 現状を理解できないままに、痛みに耐えれずただ絶叫する者はおれ。


 敵の姿が霞んで見えない。しかし敵はゆっくりと近づいてくる。

 来るな来るな来るな、殺される。


 はっきりと見えた、こいつ中庭にいた石像だ。あれは石像ではなく生き物だったのだ。人間か獣かは知らないが。大きな斧を持って歩み寄る。西洋騎士のような装備の、大柄の男に見える。しかし一切声を出していない。

 騎士の背後で粉塵ができている。どうやら正門もろとも斧の斬撃で壊されたらしい。


「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!」


 来るな来るな、おれを殺すな。

 まだ死にたくない、こんなところで死にたくない。


「あああ、来るなあああああああ!」


 いや、もう死ぬのか? 胴体真っ二つにされてるし、徐々に意識が薄れてくるし。

 むしろこれで現実世界へ戻れるのか?

 いや、戻ったところで嬉しくもない世界だろ、あんなところ。


 でも……現実世界に戻れるなら…………



 おれはもう一度石像の斧に潰され、死んだ。


 そして見たことのある()()で明かりを取り戻した。


 そう、これが()()という地獄の始まりである。


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